小さな館で持てなされる極上のイタリアンとワイン : リストランテ カーサ瀬戸内

2021年7月にリニューアルオープンした東京浜松町のイタリアン「カーサ瀬戸内」。
食べログを見ると「移転」と書かれているが、どこから移転したのかといえば、こだわりの館を建てるための隣地からの移転なのだ。だからたった10メートルだけ横に移動しただけ。前のカーサの跡地には、直営のホテルが建っている。
浜松町駅からすぐのこのエリアには、中型のオフィスビルや飲食店が並んでいるのだが、その中で異彩を放つ欧州風の一軒家レストラン。丸みを帯びた銅吹きらしい寄棟の屋根に、ラウンドトップの愛らしい窓から明かりが漏れる。入口には隠家っぽく小さなロゴ付きの看板が掛かり、中に入れば木肌の壁と暖色系の照明と暖炉が温かく迎えてくれる。階段に沿って館の中央にそびえたつのは、わざわざ日光東照宮の杉の大木を伐り出してきたというご神木のような柱。一階の隅にグランドピアノが置かれているが、月に一度、25日にクラシックライブをやっているそうだ。
THE ART OF ITALIAN ×SETOUCHI CUISINE「イタリアの伝統的な調理技術と瀬戸内の旬の食材を融合し、新たな食文化を形成する」と、同店のウェブサイトには書かれている。
一階フロアが見渡せるオペラ座の桟敷席のような個室に通され、早速夜の饗宴が始まった。基本のメニュー瀬戸内に、追加で生ハムや黒トリュフの追い掛けなどを頼み、赤ワイン1本のほか、幾皿かはグラスでペアリングもお願いしたので、結構贅沢なお値段となってしまったが、自制心があればリーズナブルな金額で済ませることも出来る。しかし酒飲みは歯止めが利かんなー（反省）。

ソムリエはリッツカールトン出身、シェフは銀座のアロマフレスカで腕を磨いたというから、万全のスタッフィングだ。バローロやバルバレスコを知っているくらいで、ブドウ品種も多様なイタリアのワインはよく知らない。ひたすら知識豊富なソムリエのお勧めに従って楽しむことにした。そこで最初はフランチャコルタのスパークリングワインで乾杯。花や蜜の香りが弾ける輝きで、一同の気分は上がる。
キャビアが添えられたふわふわのスフレのようなアミューズを味わっていると、目の前で生ハムを手切りでカットしてくれる。プロシュット・ディ・サンダニエーレというピカロン社の生ハムだ。木の棚で熟成させる生産数が少ない名品らしい。塩味は強すぎず、厚めにカットされた肉を食むとじわっと旨味が口の中に拡がる。
赤ワイン（ブリックバリン・バルバレスコ2010年）を先にデカンタージュしておいてもらって、最初は白から。ヴェルナッシア・ディ・オリスタノという、コンティニという生産者のサルデーニャ地方の白を味わいつつ、カワハギとミカンと黒大根の前菜をいただく。食材を小豆島と香川県産にこだわるため、食材は野菜も含め、すべてあちらから持ってきているとのこと。東京にいながら瀬戸内の地のものを特別の調理で楽しませてくれるのは嬉しい。
二皿目の前菜は、タラ白子と芽キャベツ。表面をカリっと焼いた芽キャベツにとろとろの白子が絶妙に合う。
ところで写真にもある熱々のパンを載せる台は、イタリアから取り寄せた大理石を皿状に切り出したものだそうで、保温効果があるそうだ。
ここからはパスタが登場する。牡蠣と水菜のスパゲッティーニは、牡蠣のコクが麺に移って、濃い目の味付けがパスタというよりもワインのアテっぽい。超絶上品な焼きそばみたい、といったらシェフに叱られそうだが。次の鴨とゴボウのパッパルデッレは、幅広麺のパッパルデッレに濃厚な鴨とソースが絡み、これまたお摘み的一品。黒トリュフを、たんまりと削って掛けてもらった。白ワインはヴェニカ＆ヴェニカというワイナリーのフリウラーノ2018年に変わる。フルーティでちょっとライチのような香り立つワインだから、喉元がすっきりして次への食欲がわき立ってくる。
魚料理は、甘鯛に柚子とユリ根添え。ユリ根をベースにしたほのかに甘いソースと、柚子の香りを纏った甘鯛は、皮目を鱗焼きにした一品。美しい甘鯛のきめ細かい味わいとパリパリの皮目の食感を楽しみつつ、そこにソースを絡めて舌の上での変化をさらに楽しむ。これは旨い。
そして料理の最後は、お待ちかねのオリーブ牛。小豆島をはじめ香川はオリーブの名産地として知られる。そのオリーブを絞った後の果実を飼料にして育てた讃岐牛をオリーブ牛と称するが、讃岐牛銘柄推進協議会が定めた方法で育成しないと、認定を受けることが出来ないそうだ。肝心の味だが、オリーブのオレイン酸と抗酸化成分が旨味を引き出し、柔らかく脂身もうまくなる。脂は感じるのだがくどくなくて、胃もたれもしないように思う。各地にブランド牛は数多あるが、この牛ははっきりとした違いが感じられる肉質を持っている。
何だか調子にのって、ミディアムボディのトスカーナのペルカルロとブラックベリーの香りが感じられるソレンゴも飲んでしまった（グラスで）。
もうこれ以上喰えない、という状況で、さっぱりとしたトマト味のシンプルパスタが出てきたが、ペロリと平らげてしまった。
女性陣はその後のドルチェも別腹に収めて、饗宴が終了。友人の屋敷に招かれたような居心地の良さと、高級を感じさせるスタッフのおもてなしで、のびのびとイタリアンとイタリアワインを堪能した一夜でした。