ひと通りの老舗の味とサービスを提供、プレミアムセットはお得 : 上野精養軒 3153店

　土曜日の午後、上野公園口の真前の「東京文化会館」でのコンサートに出かける。
　ドビュッシー・ラベル・フォーレといったフランスもので纏まったおり、なかなか寛いだ時間が過ごせた。
　良い心持ちでどこかに寄りたい気分だが、時刻はこの時期でもまだ明るい16時。

　新型コロナが再び勢いを盛り返しつつある中、上野は結構な人出で、また別の地に移動しても人波に揉まれることは必至。
　夕食には少し早いが、この辺りの通し営業の店でピックアップしていた何軒かを検索し、なるべく広めでゆっくり出来そうなこちらを選ぶ。

　上野界隈には老舗洋食屋が多いが、その中でも「精養軒」は明治5年創業の日本の西洋料理の草分け的な存在。
　本店は上野の山の上に威容を誇っており、私もレセプションなどで赴いたことは有るが、安直に寄るタイプの店では無く、レビューを見ても会食やイベントで利用した際のものがほとんど。
　最近になってもっと気軽に立ち寄れるスタイルを志向して、8年前に設けられたのがこちらの店で、他にも近くの都美術館や科学博物館にも相次いで出店している。
　
　場所は不忍口の真前の、スクランブル交差点に面した「3153」というビルの3階。
　向かいは「アメ横」の入口という、東京人ならずとも極めて分かりやすい所。
　ちなみにビル名は、すぐ裏の高台に在る西郷隆盛像の愛称＇さいごうさん＇から名付けられた。

　エレベーターを降りると入口にはマネージャー然とした黒服の男性が控えており、案の定まだ客入りは疎らで、窓際のテーブルに通される。
　店内は3階の全フロアーを占めているのでかなり広く、席数も100以上で幾つかの個室もある。
　道路側に面した部分が大きく、華やかさと落ち着きを兼ね備えた雰囲気も好ましい。

　メニューを眺めるとフレンチに近い部分も感じられるが、主となるのは洋食屋の定番もの。
　ハヤシライス・ハンバーグ・オムライスなど、どれも美味そうだが、目を引いたのは夕刻まで注文できる「プレミアムセット」。
　コース仕立てになっており、オードブル・スープ・メイン・デザート・コーヒーで税込み3,300円のお手頃価格。
　しかも3品から選べるメイン料理が、なかなか凝っている。
　ちまちま頼むより実質的であり、こちらを注文してメインには「国産フィレ肉のステーキ　リー・ド・ヴォーのクリームのせ」をチョイス。

　飲み物は先にビール（黒ラベル中瓶）をもらう。
　ホールを担当するのはちょっと下町のおばちゃん的なウエイトレスで、紙製のランチョンマットの上にきちんとカトラリーを並べてくれた。

　「オードブル　パリエ」はいわゆる前菜盛り合わせで、内容は思いのほか盛り沢山。
　リーフレタスやベビーリーフ主体のサラダの周囲に、帆立・サーモン・鰊のマリネ。小海老のボイル・鮪のタルタル・鴨ロースト・ローストビーフが並んでおり、ドレッシングが垂らされ、ラディッシュの薄切りやピンクペッパーなどがあしらわれている。
　あまりひねりの無いものも有るが、バラエティに富んだ内容で一品ごと丹念に味わうのはなかなか楽しい。
　
　「本日のスープ」は「マッシュルームと里芋のポタージュ」。
　ベージュの色合いだが、表面には泡状のエスプーマが浮かべられている。
　マッシュルーム自体の食感は無いが、香りと旨味は十分に溶け込んでいる。
　一方で里芋のぬめりを生かした自然なとろみが独特の舌触りを生んでおり、塩気も程よく上品に仕上がっている。

　メインの「国産牛フィレ肉のステーキ」は肉の厚みも大きさもそれほどではないが、肉質はまずまずでミディアムレアの焼き加減も良好。
　掛かっているのは自慢のデミグラスソースで、伝統を感じさせる味わい。

　上に乗っているはリー・ド・ヴォーのクリーム煮で、これがなかなか美味しい。
　一般的な食材では無く私も久々に口にしたが、これをコース料理の中で使う創意は大いに褒められ、味も食感も上々で思わぬ収穫であった。

　ガル二は人参のピュレ・茄子のフリット・オクラのポシェ、それに一枝のクレソンで、きちんとした仕事が施されている。
　中でも自然の甘さと色を生かした人参のピュレの、優しい舌触りが印象に残る。

　これに合わせて赤ワインを一杯もらう。
　「精養軒オリジナルワインセレクション」と銘打たれた、カベルネ・ソーヴィニョン主体のブレンドのようだが、なかなか美味しかった。
　パンは温められたバゲットが出され、ソースを拭うにも好適。

　デザートは「クレームブリュレとヴァニラアイス、フルーツの盛り合わせ」。
　味について特別なものは無いがボリュームがあり、盛り付けも洒落ていて楽しめた。
　大き目のカップで出された「コーヒー」も美味しく、しばし食後の余韻に浸る。

　
　「プレミアムセット」はお手頃な価格から最初はそれほど期待していなかったが、実際は洋食と言うよりきちんとしたコース仕立てのフランス料理の趣。
　それも表面的になぞった感じは無く、きちんとした内容でボリュームもしっかり。
　老舗らしい丁寧な仕事ぶりも貫かれており、味の面でも満足。
　サービスにも問題なく、気持ち良い時間を過ごせた。
　このセットはランチタイムから18時まで提供されるため、早めのディナーに利用できるのも有り難い。

　今回は半端な時間帯だったのでゆっくり出来たが、好立地のため時分どきはかなり混み合うと思われる。（このご時世で現在はそれほどではないかも知れないが）
　客層も旅行者や家族連れなど多様と思われ、落ち着いた雰囲気が常に保たれているかは不明。　
　
　老舗の味が気軽に楽しめるのは良いこと。
　次回は洋食屋としての定番メニューも試してみたい。