初夏の握り : 銀座 鮨 み富

初夏の時季恒例で早く店仕舞いできる週間がある。残務が無いことを確認し、電話の上でみ富さんに。

平日夕刻の銀座は各国からの観光客で溢れんばかり。好む好まないによらず、他に有力な産業が無いという理由でこの国は「観光立国」になっていくのだろう。南欧諸国のように。リカードの唱えるところの比較優位である。

外の喧騒をよそに、み富さんは落ち着いた雰囲気。

山形の松嶺の富士

摘まみに、星鰈、青柳、鯵、鰹　追加でひも

星鰈の熟成の旨味と弾力のバランス、鯵の清新な脂がいい。

握り

昆布締め、墨烏賊、鳥貝、鱚、小鰭、蛤、漬け、車海老、中トロ、穴子

追加で鰯、干瓢巻を山葵ありにて

最近、ちゃんとした味わいの物を如何に頂いていなかったかがよく分かる。酢と塩の、かといって当世風の酸っぱいだけのそれとは違う心地よい旨味の酢飯。

そして、とりわけ締めたものとの鮮烈な調和は素晴らしい。かつて、佐藤隆介氏がフランス取材旅行からの帰りに機上にて「新富寿しの小鰭が食べたい」と呟いたのが納得である。

ごちそうさまでした。次はいつ伺おうかなあ、そんな想いを巡らして三原橋を渡った。

（写真はお店の外観と三原橋の紫陽花）

入梅。まるで地が天水を吸うことを欲しているかのように、間断なくひんやりした雨が降る。

久し振りに定時で上がり銀座に。教文館で本を購め、30分前に予約した時間通りにお店に。先客はないものの、この後は予約で一杯とのこと。皆さん、良いお店をご存知だ。

握りとつまみのコースをお願いして冷酒に。お好みも可能で、むしろ通人はそうするのだろうが、苦手な魚がない僕は新富寿しの頃と変わらずコースにした。

【付きだし】
もずく酢

【つまみ】
生の眞子鰈
平貝
鯵
鰹

鯵と鰹は甘味のある生姜醤油で。季節を体現した構成だ。本当はもう一本、酒を追加したいのだが、この後の事情で控える。

頃合いを見計らい、ご主人から「握りますか？」と聞いて頂いたので、お茶をお願いし舌も心も鮨を受け入れる態勢に整える。

【握り】
伊佐木
墨烏賊
鳥貝
稚鮎を締めたたもの
小鰭
赤身漬け
トロ
海老
赤貝
穴子

追加で、鯛の昆布締め、山葵ありの干瓢巻

先頭の伊佐木が特に美味しかった。熟れた旨味と食感のバランスが良い。

稚鮎は鮨ネタとしてはじめてだったが、ご主人曰く、新富時代から一年のうち2～3週間のこの時期だけ毎年出されていたとのこと。どうも僕は毎年タイミングを逃していたらしい。すっきりとした味わい。握りと別に並んだ頭は身と異なり、野趣ある苦味。美味しい。

湯呑みに伸ばした手の甲を眺めると、随分日焼けしていた。幼い息子と外で遊んで焼けたのだ。日焼け止めを手の甲には塗り忘れたらしい。

まだまだ先のことなるが、息子をちゃんとした鮨店デビューさせるならどこが良いかなどと想像を巡らせる。日曜も、しかも通し営業で、しっかり仕事された鮨が頂けるこちらのお店など最適でなかろうか。

満ち足りた気分になって切り上げる。まだ暗くならない銀座には、相変わらず冷たい雨が降り続いていた。

ご馳走様でした。

池波正太郎氏のエッセイに頻繁に登場する新富寿しさんが閉まって久しい。しかしながら、新富寿しさんで漬け台に立っていらした職人さんが2年前に東銀座にお店を開かれたと聞いて、なかなか伺えなかったものの、平日夜に機会を作って初訪問。

白木のカウンターが美しい。お寿司の並べ方、生姜の味付け等々、随所に新富さんの面影が残っていて懐かしい限り。勿論、お酒のセレクトやタネに海胆があること等に新富さんには無かった親方のオリジナリティも感じられる。

お通し、刺身、お寿司のお任せをお願いする。給仕の女性方が丁寧で快い。

【お通し】
枝豆

【刺身】
星鰈
平貝
鰹

追加で生の鯵、しめ鯖。

平貝の甘みが心地良い。星鰈は冷酒と相俟って旨味抜群。他のお客さんが大変気に入っていたが、夏場にも拘わらず鰹は脂がのって重厚。これは生姜醤油で頂く。

【お寿司】（少しだけ酔ってしまったので順不同）

星鰈昆布締め
新子
赤身
トロ
蛯
鯵
石垣貝
スミイカ
縞鯵
穴子

追加で

新イカ
鰯
赤貝

星鰈は刺身より厚切りで酢飯との相性が計算されている。

新子の雑味ない清新さは堪らない。

スミイカの肉質と追加でお願いした新イカの柔らかさの対比は面白い。

〆たものは新富さん由来の、池波正太郎氏が愛した鉄板ですね。優しい加減。

総じて、伝統的江戸前の仕事振りでありながら、酢飯や〆たものの加減は、近時一世を風靡するストロングスタイルのお店より柔らかく、故に子供から年配の方まで皆が好きな味だと思う。

ごちそうさまでした。
極めて上質なお寿司と時空でした。また伺います。