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1回
夜の点数:4.6
2013/06 訪問
夜の点数:4.6
山紫水明。時よ止まれ ☆。・゜ヾ(´ー`*)
2013/06/22 更新
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山と森,日が傾きかけてからの6月のあじさいは,心が吸い込まれてしまいそうな不思議な魅力があります。
数種の鳥のさえずりと数種のカエルの鳴き声。
山に沈む太陽の郷愁感。
静かにふく風。
そんな自然に囲まれ,個室で頂く,引き算の美の活きる真の日本料理。
なんという贅沢なのでしょう。
料亭の定義をもう一度じっくりと考えてみたいと思いました。
今から20年ほど前,テレビCMでサントリーウイスキーのCMを見たときの事を思い出していました。
ショーン・コネリーさんがウイスキーをたしなむというCMだったのですが,深みある壮大な音楽とともに語られるキャッチコピー(秋山晶さん作)が特に印象的です。
「時は流れない。それは積み重なる」
そのことを体現し継続することの偉大さを,こちら鯰学舎さんでの時間を通して考えました。
■□■□■
個人的に日本料理の最高峰として憧れているお店が2つあります。
滋賀の招福楼さんと徳島の青柳さんです。
ギド・ルージュ(いわゆるミシュランガイド)の世界中のエトワールを数えた場合,星の多さではジョエル・ロブション系,星をとっているお店の数ではアラン・デュカス系なのは有名ですが,日本料理ではどうかとなると,やはり招福楼さんと青柳さんは別格ですよね。
招福楼さんといえば,滋賀の本店と東京店をイメージしますが,実は昔,神戸ポートピアホテルに神戸店が入っていました。
その時の店長が,かの,「桜田」さんです。
そういえば兵庫県でギド・ルージュ三ツ星の子孫さんも招福楼さん出身。
なが坂さんも招福楼さん出身。
紀茂登さんは桜田さん出身なので孫弟子にあたりますね(きもとさんといえば,某老舗フレンチを思い出されるという方はかなりの事情通)。
意外と兵庫も招福楼さんとご縁がありますね。
招福楼さん出身のお店といえば忘れてならないのは,今回訪問させていただいた「鯰学舎(ねんがくしゃ)」さんです。
知る人ぞ知る,隠れ家中の隠れ家です。
場所は神戸市中央区神戸港地方再度谷。
中央区といえば神戸の中心も中心ですが,こちらのお店はその中央区であるにもかかわらず,六甲の奥というか,北区っぽいロケーションです。
神戸港地方と書いて,「こうべこうじかた」と読みます。
こんな山奥で「みなとちほう」なわけではないですね。
神戸最高の夜景として有名なビーナスブリッジの奥の奥の奥にあります。一軒家フランセーズのトゥールドールさんが閉店され,かわりに尼のジャンカルドさんがお越しになられましたが,そのあたりよりも,さらに奥の奥の奥。
北野の山本通り(のちょっと西)あたりから再度ドライブウェーに入りどんどんすすみ,カーブno.30を越えるとバスの停留所がありますので,それを西(しんぱいになるほどの道)側へ入ります。
反対に東(右の主要道)側をすすむと,大龍寺にたどりつきます。
大龍寺といえば,勤皇忠臣として楠木正成とともに皇居前に銅像がある和気清麻呂がその地を開き,また弘法大師が留学前に訪れ留学後再び訪れお寺を 建立したことがしられています。
弘法大師が再びおとずれたことから,山の名前も再度山とつけられたそうですね。
秋にはあまりにも一面に真っ赤な紅葉がまばゆいほどだそう。
次回訪問の際はその季節を選びたいです。
車でなければ訪問できないロケーション,4名以上からの要予約,招福楼さん出身のお料理ということでハードルがかなり高く(と勝手に思い込んで いましたた),なかなかお伺いできなかったのですが,今回,幸運にもお伺いすることができました。
しかも,結果的に,この日は僕たち2人のみの貸し切りで,信じられない贅沢。
お部屋のあつらえや飾り物も,景色も音も空間も,お料理も,料理長の腕も,おかみさんの接客も,すべて僕たちだけのためという奇跡でした。
お店に無事辿り着いたころ,おかみさんのお出迎えをうけました。
車を降りるとそのうしろに,ひっそりと咲いた「蛍袋」たちのお出迎えも。
竹林やお庭のお手入れも素晴らしい。
事前予約させていただいたのは,10,000円の懐石コースです。
お店に入るまで,お店に入ってから個室に入るまで,そして個室に入ってからも,どの場面で視界に入ってくるものもどれも「おおー」と感嘆と恐縮,緊張が続きますが,ほっこりとやわらかい雰囲気の女将さんに案内され,和やかな空気で着席しました。
■先附
まず飲み物のお願いをした後,運ばれてきたのは山芋寒海老すり身でした。
上にウニと黒豆がのっています。
この日は非常に暑い一日で疲れ切っていたため,こういうやさしいお味,食感は大変ありがたかったです。
山芋寒の下に海老すり身のしんじょうがそれぞれにふわっとした食感ですが,食感と味の対比が面白かったです。
スターターとして理想的な1品でした。
■御椀
続いて椀物です。
日本料理の華といわれると,いろいろとご意見もあるかと思いますが,日本料理に身をを置く料理人にとって職人としての知識・感覚・経験が凝縮されるのが,椀物だと僕は勝手に思っています。
椀種はハモ,ヨモギ入りごま豆腐,椀添えは赤パプリカ,吸い口は木の芽とスダチでした。
6月という季節感,そして春から初夏へという季節の移ろい,それを食材と調理で見事に表現されておられます。
まずはおだしを一口。
洗練された聡明さ漂う吸い地です。
ああ,これが招福楼の名の持つ強みのいったんなのだろうと感心するばかり。
骨切りした湯引きハモのふわっとした食感と吸い地を含んだ身の味が口いっぱいに広がります。
つづいてその向こうに緑色したごま豆腐が。
すみません,ひょっとしたら生麩だったかも・・・。
なめらかでとろける食感が,これまた魅力的です。
ハモと吸い地と頂くとさっぱりといただけ,こちらのごま豆腐と頂くと吸い地がとろみを帯びているように思うのは錯覚でしょうか。
吸い口も木の芽とスダチと2つ入っていて,口に含む都度の変化が楽しめます。
■向附
お造りはタイとマグロ赤身です。
厚めにスライスされています。
タイのこりこりとした食感,赤身のもっちりとした食感,それぞれの個性をしっかりとした厚みのお刺身で頂くとそれぞれの魅力が一層わかりやすいです。
■八寸
いろいろと少しずつ盛り合わせになった大きめのお皿です。
10時の方向から時計回りにご紹介。
タイの白子,うみぶどう,ツブ貝の味噌かけ,タコとおくら,サバのきずし,さといも,ウズラの卵のみそづけアボカド巻き
どれもポーションがひかえめですので,安心していただけます。
例えば鯛の白子焼きやウズラの卵,サバのきずしなどは丁寧に仕事が加えられていますし,さといもの煮物や海ぶどうなど素材の魅力を最大限引き出す操作をくわえられているにとどめておられます。
引き算の美の秀麗。
■焼魚
6月の季語ともなっているアユを蓼酢(たです)でいただきます。
6月解禁(場所によっては7月の地方も)ということで,あじさいと並び梅雨の頃の代名詞ですね。
うっすらと塩が振られていますが,ほぼアユの味そのもの勝負の焼きです。
最盛期よりも気持ち程度小ぶりですが,立派ないでたちです。
セオリー通り,お箸を寝かせて皮を押すようにほぐし,尾びれを外し,頭をつかんで一気に骨を抜き取ります。
無事,成功いたしました!
頭近くとワタを頂くと何があったのかと思うほどの苦味・・・。
うーん,相変わらずお子ちゃまな僕には刺激強かったです。
蓼酢と頂くとさっぱりといただけるのですが,蓼の苦みとアユの味がバランス良いですね。
川魚を蓼酢で頂くこと,たまにありますが,アユとの相性なかなかのものですね。
全体として,アユの香りを頂くお皿でした。
なるほど,香魚とよばれる,ゆえんなんですね。
■焚合
れんこんまんじゅう ゆばあんかけ
れんこんのもちもち感がたまらない1品でした。
れんこんをするとこんなに弾力がでるだなんて,いつも感動してしまいます。
あんかけといい,湯葉との組み合わせといい,丁寧で基礎のしっかりとした板場の方の本領発揮といった1品です。
もし僕がれんこんに生まれ変わったら(かなり変な設定の妄想ですみません),おろして饅頭になり,あんをかけられたいと思いました(やっぱりこの日はだいぶ疲れていたようです・・・)。
■強肴
しいざかなは秋田のジュンサイを涼しげな器で頂きました。
お酢の酸味がジュンサイをよりさっぱりと引き立ててくれます。
この新鮮なプルプル感は瓶詰では出せませんので,やはりフレッシュな生ジュンサイですね。
翌日,阪神間で有名な某スーパーで秋田産の生じゅんさいをたまたま見かけました。
かなり良いお値段でした。
こういった酢の物に使う食材にまでコストをかけることをいとわないことからも,10,000円という料金設定ですが,かなりコストパフォーマンスが高いと断言できます。
■御飯
新生姜のごはん アナゴいり
漆塗りのおひつにたっぷりと入ったお食事はカットされた焼きアナゴのたくさん入った新生姜のごはんでした。
おつけものと湯葉入りの赤だしも一緒に。
日本料理では当たり前ですが,僕,どちらかというと,コース最後のごはんを食べるとすぐにお腹いっぱいになってしまうため,ご飯は小盛りにいつもしていただいてます。
が,この日は食べる食べる。
生姜の酸味・辛みなどの癖や特有のエッジはまったくなく,火を通した香味野菜ならではの旨みが感じられます。
アナゴも食べごたえあり。
お漬物はコンブ,たくあんなど,3種。
ごはんを2度おかわりしたところ,おつけもののおかわり(1つ増えて4種になってました)までだしていただきました。
お腹一杯で,ふだんならこんなに食べられないのですが,この日は最後までおいしく頂きました。
■甘味
最後に甘味として水菓子を頂きました。
すいか,キウイ,小梅
どれもジューシーで甘みがおいしい。
口の中がさっぱリとして,充実したコースも終わりです。
■□■□■
お料理も大満足で,それに加え,お店についてから帰るまで日が傾くその景色の変化と,数種のとり,数種のかえる,虫の音という,このお店で頂くからこその魅力も堪能させていただきました。
お料理をいただきながらその魅力を堪能するにつれ,僕には2つの相容れない思いを感じていました。
次のお料理はどんなお皿なのだろうというワクワクとする思いと,反対にこのまま時間が止まってほしいという思い。
そんなジレンマを感じたというだけで,僕がどれほどこのお店に魅了されたのか,自分でもよくわかりました。
1日2組限定だったり,4名以上での予約限定だったり,車でしかおじゃまできないというロケーションだったり(タクシーでも行きは可能ですが,帰りはかなり難しいと思います)などなど,いろいろとハードルがありましたが,どうやら僕にも季節ごとにうかがいたい日本料理の名店と出会うことができたようです。
神戸にもカウンタータイプの名店はいくつかありますが,1軒家でこれだけの自然に囲まれた,まさに「お料亭」で神戸に出会えるとは思ってもみませんでした。
自分へのご褒美に最良の日本料理の名店だと思います。
これからも四季折々の魅力を教わり続けたいです。
よろしくお願いします。 (*´∀`)ノ