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1回
夜の点数:4.6
2011/07 訪問
夜の点数:4.6
黄昏の優しい風が吹く砂浜に、僕たちは佇んでいた (つ∀`)
2011/08/11 更新
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お料理を頂く際に心がけているのは,できるだけ五感でお皿を楽しもうとすることです。
もちろん,どういう環境で,どんな同行者と,どんな体調で頂くかによっても感じるものは大きく変化します。
可能な限り、五感の感覚を意識し、お皿の上に描かれたシェフの世界を、おいしく、うれしく、何より楽しく、頂きたい。
・・・そう,思っていました。
こちらのお店にお伺いするまでは。
こちらのお店で新たに、上記のことに加え、さらに教えていただいたこと。
それは,それら五感をこえる「追憶」があるということです。
記憶が物語る恵みがあるということです。
川島シェフが創り出すお皿の上の世界により,僕たちは「いつか来た道」を振り返り,時間と記憶をたどる旅に出かけました。
■□■□■
お店は奈良県奈良市。
JRの富雄駅を出てすぐの主要道沿いにお店がありますので,すぐにわかるかと思います。
JRで行かれるのが便利ですが,僕たちは車で伺いました。
奈良ホテルから車で向かいましたが,20~30分程度だったと思います。
変電所をリノベーションした建物にお店はあります。
1階はメインダイニングのテーブル席,テラス席,個室席,2階にも個室があり,全体的に高さもある大きな空間が印象的です。
何気に,個室の窓が透明なステンドガラスなのも素敵です。
こちらのお店が入店される前は別経営のウエティングレストランが入店されておられたそうで,なるほどとうなずく内装でした。
メニューには2コースあり,お皿の数が異なるとのことでした。
せっかくなのでお皿の多い,デギュスタシオン・クロロフィリア2011(¥9,000(税込)+サービス料7%)というコースを頂きました。
座席についてまず目を奪われたのが,テーブル上のナフキン。
無造作にクシャッとたたまれているようで,実はすごく意味ありげな立体になっています。
サッカーボールのようにも見えないこともないかな・・・。
それからシェフの修行先のムガリツから頂いたというフォークのオブジェも面白いですね。
一瞬,「ええっと・・・、呼び鈴・・・的なモノ? まさかね・・・」と同行者と顔を見合わせましたが・・・,やはり目で楽しむものでした。
早まらずに良かったです・・・。
オーダーを済ませ,コースが始まります。
旅のはじまりです。
お口取りがいきなりのインパクトでした。
■深い森のモヒート 柑橘とハーブのアペリテボ
見えるのは,森の入り口です。
少し,霧がでているようです。
黒いすずり石の上に並べられた,左にグラスに入った柑橘の泡。
右側には大きなグラスをひっくり返して伏せておいてあり,グラスの中は何か草的なもので満たされています。
そのグラスを持ち上げると,ふわっとした煙とともにスモーキーなベーコン?とハーブの香り。
中には,ベーコン味と香りのつまったミニコロッケボールが入っていました。
これが自分の記憶を巡る旅の入り口でした。
ここから,10年前か,20年前か,お皿と向かう人により辿る記憶の時間にズレはありますが,それぞれに自分の追憶の旅に出かけるんです。
それがこのお店の名前,アコルドゥ(記憶)のコンセプトなんですね。
まずは森の入り口から。
■スペインとイタリアのオイル デンマークのバター
オリーブオイルはスペインのものとイタリアのものということですが,片方はフレッシュで香りもパンチあるタイプと,もう一方はオイルがかすかに白濁していてコク深い味わいのタイプでした。
オイル等が運ばれてきてすぐに,パンもサーブされます。
パンはライ麦パンで,全粒粉のハードなパンという印象。
このパンをはじめ,何度か感じたのですが,お皿はところどころ神戸のグラシアニと共通するところがあるような気がします。
モードスパニッシュとフレディ・ジラルデ,確かに意表をつく皿,あるいはサプライズの遊び心という点で,通じる部分があるのかもしれません。
■土にまみれた野菜 郡山の間引き人参
続いて,畑に着きました。
はっと目を引く「土」は黒オリーブを粉にし,パン粉?とともにまぜたものを土に見立てたものです。
にんじんとらっきょうが並んでいるのですが,土つきということで,なんとも驚き感は大。
にんじんの花,ディル,にんじんの葉もそえてあり,単に畑からとってきたばかりという演出なのではなく,にんじんの成長過程という時間経過をも楽しむという趣向です。
まずはそのまま,というか土つきで頂きます。
あまり手を加えていないためか,素材のもつ旨みがつまった感じと,歯ごたえがよいですね。
はたけで取り立てをそのままガブリとかじるとこんな感じになるのだろうなと思う,その思いの時間こそがシェフの狙いなのかな。
ハーブとサワークリームのソースがさっぱりとしていて,お野菜の素材感をうまく引き立てています。
あとで思ったのですが,基本的に黒いすずり石(岩盤を削りだしたものらしい)と黒いタイル(こちらは陶板)のディッシュにのっていたからかもしれませんが,食材の色がすごくきれいなんです。
素材自体,色が美しいというのもあるのですが,黒いお皿のおかげでそれがより美しく鮮明になるんですね。
■雲丹とあおさ レモングラスのインフュージョン
海です。
ウニとあおさを軽くあげていますが,磯の香りがしっかりと感じられます。
レモングラスのさわやかな香りもいいですね。
ほろあまく,なんとなく胸がキューンとなる海の光景がみえます。
サーブスタッフから「記憶の中の海を思い出しながら」とのお言葉とともにお皿を提供していただきましたが,まさしく,まさしく。
あくまであおさは控えめな量ですが,バランスの良い組み合わせです。
スープに浮かぶオイルが素敵です。
■桃とアヴォカド,海老のサラダ レタスクリーム
海の近くに実のなる木がありました。
カットされたアボカドと桃の柔らかい食感と,やわらかい海老ですがやはり少しのプリッとした歯ごたえもあり,それぞれの似てるようで若干異なる食感のコントラストが印象的です。
ほのかなペッパー感のあるからみが感じられましたので,お子さま向けではないのかな。
■フォアグラのテリーヌ ペドロヒメネスのヴェールとレモンのコンフィ
気持ちよさそうに泳ぐ鳥のむれ。
続いてベーシックですが,逆に食材のよさとシェフの操作技術とをじっくりと味わえる,フォアグラのテリーヌです。
ヴェールにみたてた葛のようなぺランとした赤いゼラチン質の板がフォアグラを覆いまとっています。
付け添えはチェリーですが,こちらもフォアグラに酸味を加えて楽しみたいときに少し。
いろいろな味で楽しむべく,ディッシュの右上にお塩があります。
みるからにクリスタルシーソルト。
ということは,やっぱりマルドンのお塩か,いや,モードスパニッシュの旗手,フェラン・アドリアも別のクリスタルシーソルトを愛用してたっけ,などと考えつつ,サーブスタッフにお塩を聞いてみました。
少し時間があいてから,「マルドンの海塩」とのご回答。
単に塩気だけでなく,さくさくとした食感とミネラル分の強い,かすかに苦味を感じるマルドンのお塩は,ときに,もったりしがちなフォアグラをきゅっと整えてくれてありがたいですね。
■マサバのコンフィタード 燻したポレンタと酢漬けのネギ
魚が勢いよく泳いでいます。
しっとりとしたマサバが,サバ特有の生臭さもすっかり抜けて,やわらかくおいしいです。
コンフィ特有のなめらかでやさしい食感。
みどりピーマンのソースがある程度しっかりと感じられる苦味もあり,酸味のあるつけ添えにもまけません。
ポレンタのおかげで,ややマイルドさを調節できるのもありがたいところ。
いってみれば,数々の「記憶」の中から,ほのかにほろ苦く,ちょっぴり甘酸っぱい思い出を,かけめぐる時間ですね。
■デュラム小麦の三輪素麺 イカ墨の冷たいソパと海の泡
奈良にはない,でもたしかに目の前に広がるのは海原。
奈良を代表する食材の1つ三輪素麺を味わいます。
白い泡,白いパスタ,黒いスープの1皿。
デュラム小麦といういわゆるパスタ用の小麦を使い,素麺をつくる工程と同じ方法でつくられたというパスタです。
カッペリーニという極細パスタをイメージされておられるようですが,味はパスタというよりもかなりお素麺に近いです。
「のばし」と「乾燥」の方法に起因するものと思われます。
泡も磯の香りがしますし,チコリ薄い紫色の花びらもかわいいですね。
イカ素麺?もパスタの上にのせられており,食感の変化がしっかり感じられます。
イカ墨スープは癖が強いといったことはなく,サラサラといただけます。
お店の方が,「パスタを召し上がられるとき,スープのとびはねにご注意ください」とおっしゃっておられましたが,確かにカレーうどん以上に飛び跳ねに注意しないといけないイカスミですね。
■軽く燻した大和の豚 エッセンスクロロフィリアとはしばみオイル
再び陸に上がり,豚を頂きます。
メインのお肉は豚肉の定温調理でした。
温度は58℃?で長時間定温加熱したもので,お肉のうまみの濃縮度とやわらかさはすばらしかったです。
豚肉嫌いな方でも,おいしくいただけるのではないかと思います。
添えられた玉葱もしっかりと火が入っていて,程よい歯ごたえとやわらかさ,それとなにより甘みと旨みがしっかりと感じられます。
目を引く緑のソースの色が深く,濃いです。
お肉と緑のお野菜。
これぞ太陽と豊かな自然の恵み,奈良の醍醐味といったところですね。
■スペイン 羊たちのチーズ
草原を駆け回る羊たち。
普段,フレンチを頂く際,チーズ(フロマージュ)は遠慮させていただくのですが,これほどの世界観を共有させていただいたシェフに,完全にお任せです。
ややハード系のチーズは羊乳からつくられているとのこと。
濃厚な味わいとやや個性ある風味でした。
フロマージュ好きの方に試していただきたいところ。
が、やはり僕には少し難しかったかも・・・。
セミハードな硬さの(ドライ)ジャムとナッツも,かなりよいアクセントになっています。
お皿の上はどれも濃厚な味ばかりですので,メインを頂き,赤ワインの余韻を楽しむにはうってつけですね。
■ピスタチオクリーム マスカットワインとニワトリのネクタールゼラチン
走り回ったあとの,木の実や果物のあまみは口ものども潤してくれます。
アヴァンデセールはピスタチオをメインに使ったプディング食感の1品です。
ニワトコは夏に赤い実をつけるこぶりな木ですね。
ピスタチオの濃厚なあまみに,
上品でさっぱりとした清々しさあふれる1品です。
スプーンも器も良く冷えていました。
■「水面の月,スミレの海」オレンジクリームのジェラート 炭砂糖と薄いパイの砂浜 柑橘の雲
まぎれもなく、今、この今、お皿に向かっていたはずの僕たちは、いつしか記憶の中に立っていました。
赤く、青く、きらきらと光る海。
打ち寄せる波。
奇跡のグラデーションを伝える空。
確かに、あの夏、この夏、黄昏の優しい風が吹く砂浜に、僕たちは佇んでいました。
シェフのスペシャリテとおもわれるデセールは、最高のプレゼンテーションとともに、僕たちを記憶の旅にいざなってくれました。
あぁ、そろそろ、このたびも終わりに近づいてきたんやなぁと、切ない気持ちになります。
郷愁。
あまずっぱいジェラートと、やわらかいあまみのスープが、心にしみます。
五感をこえる追憶、さすが。
■カフェ
エスプレッソをダブルで頂きました。
ほろ苦いカフェは締めくくりに、もってこいですね。
■□■□■
食後、シェフと少しお話しさせていただきました。
矜持高きシェフの世界観と作品に、感心させられることしきり。
同時代を過ごせることを心からうれしく、ありがたく、楽しみにさせていただきたいですね。
再訪をお約束しました。
お店を出て車に乗り、僕から同行者に伝えた第一声は、「難しい・・・」でした。
それは、まさに、僕自身の経験値の低さと、まだみぬ次代の未知への不安だったのかもしれません。
なんとも言い知れぬ、でも懐かしい旅から戻ったように思います。
いや、逆に、次の旅に出かけ始めたのかもしれませんね。
追憶の旅の先に、進行形のその先に、心から再会を願っています。