4回
2018/04 訪問
2018年、春の京都に遊ぼう!第1弾...「やまぐち」、春うらら、今年の京都は花散らしの雨もない...まずはしめやかに「やまぐち」で京都の春を愉しむのが正しいやり方だ!
今年の春は、京都を視覚と味覚の両面で愉しみつくそうと、2018年3月31日、午前8時、新横浜駅から東海道新幹線に乗り込む。新幹線の窓越しに降り注ぐ屈託のない春の日差しに、京都訪問の期待がいやがうえにも膨らむ。
京都は春爛漫だ。...円山公園まで足を延ばして眩いぐらいの陽光の降り注ぐ"祇園の枝垂桜"を仰ぎ見て、そして、洛東の"哲学の道"に沿って流れる疎水を覆う桜の楚々とした連なりに心を奪われる。...まぁまずは京都の桜の有名どころを堪能したところで、さぁ、祇園に引き返して「やまぐち」で絶品ランチに舌鼓を打とうというわけだ!
京町屋の暖簾をくぐるとカウンター席にはすでに今日のお連れさまが着座されている。いつも東京でご一緒させていただいている超有名レビュアーさんだ。この方はお酒を飲まれない方だけれど、わたしとのお食事会はもはや慣れたものなので(笑)、失礼してわたしはいつものようにカ・デル・ボスコでスタートさせていただく。
1.エンドウ豆のソースに浸した軽くスモークしたホタルイカ、上から青ネギ、パウダー状のトリュフをふった前菜
思い切り春を感じさせる前菜である。エンドウ豆のソースの下には新玉ねぎのブランマンジェがしのばせてある。冬のこわばりから解放されたのどかな春の言祝ぎを感じさせる逸品だ。まるでモーツアルトの「トルコ行進曲」を聴くような小気味よい陽気さを感じさせるお料理だ。
2.スライスした黒トリュフと宮崎のミニマンゴー
これが「やまぐち」らしい。くりぬいた果肉とフォアグラと白味噌のクリームをキャラメリゼしたもの。そしてその上からトリュフをスライスしてある。
しかしでも、このマンゴーとトリュフの組み合わせが実に面白い。黒トリュフから感じる森林の清々しい香りと、マンゴーの熟れた太陽のような味わいの相性が滅法よいのだ!こういう組み合わせを繰り出すところが「やまぐち」の素晴らしいところである。
3.毛ガニとタケノコのサラダ
塚原のタケノコの上に、毛ガニの足のほぐしみ。そしてその上に毛ガニの身を乗せ、最後にたっぷりのキャビアと木の芽を散らした一品。タケノコが柔らかく一片のササクレもない。木の芽とキャビアの合わせも大変面白かった。
4.パセリの自家製マヨネーズソースと福井のサクラマス(本鱒)のフリット
季節ごとに変わる「やまぐち」さん定番の川魚のフリット。今の時期は、サクラマスである。サクラマスの味わいは優しく、そこにマヨネーズソースで和らげられたパセリのほのかな苦みがアクセントを添える。
春の「やまぐち」は今回が初めてだけれど、やはり時節柄だろうか、全体的に優しく包み込むような安堵感に満ちているような気がする。
5.冷たいパスタ フルーツトマトのソースに駿河湾の赤座海老と冷製のカッペリーニ
「やまぐち」では、いつもパスタは冷たいものと温かいものが饗される。まずは冷たいパスタ。これがよい。フルーツトマトの酸味のあるソースと、パスタの上に散らされたラディッシュ、アマランス、パプリカの相性がよいのだ。...ほのかなラディッシュの苦みと、アマランスから感じるささやかなえぐみが、この酸味のあるソースととても相性がよい。
...「やまぐち」のお料理の素晴らしさを一言で表現すると、わたしのなかでは、"安っぽさがない"という一言に行き当たる。...誤解がないように言い添えておくけれど、それは、高級食材を使っているか、否かという話とはまったく異なる。
いうなれば、それは、よく推敲された文章とそうでない文章の違いはすぐ見分けがつくといった違いと似ている。何度も何度も推敲して、ひとつひとつの言葉の外連味を排した上で、さらに今度は、そうして選ばれた言葉の連なりのバランスを細やかに調整し続けた上で提示された文章というものは、目で追っていて高級感とは違う自然な心地よさを人に与える。...「やまぐち」の仕事は、そういう仕事に似ているのだ。
6.リゾット...エゾアワビを蒸してからソテーしてある、そこに羅臼の生雲丹 からすみかけ放題
そしてこれも定番のリゾット。この料理は、いつも、からすみかけ放題となっているのだけれど、実はわたしは、すこ~しからすみ控えめにして、リゾットの旨みを味わいたいタイプだ。...とはいえ、からすみ満載の丼をみるといつもやり過ぎちゃっている自分を発見するのだけれど(笑)
7.温かいパスタ 和歌山の花山椒 ふかひれをあわせたリングイネ、酢橘をしぼってさっぱりと
温かいパスタ。人肌程度にほのかに火を入れ、花山椒の香りと酢橘でキレイにまとめているのが素晴らしい。
8.牛肉の炭火焼
そして、時間をかけて炭火焼で饗されるこの肉がいい。産地に特段のこだわっているわけではないそうだけれど、この火入れが毎回素晴らしいと思う。
最後は、和歌山の三宝柑 パンナコッタで締めくくって一通りとなる。
「やまぐち」さんはこれで3回目となる。...やはり素晴らし過ぎるので、さっそく次の予約を8月に入れてしまう。
...例えば、本格的にイタリアで修行されてきたお店で素晴らしいと思うところももちろん多々あるのだけれど、一方で「やまぐち」ような、柔らかく美しく繊細なイタリアンも絶対的に捨てがたいと思う。
この悩ましきせめぎあいの議論が自分の中で渦巻くときに、最近、わたしも枯れたのだろうか(笑)、ま、どのタイプが良いとか悪いとか、そういうところに執着するのはなく、いいものはいいと、おおらかに認める環境が食べ歩きの素敵なところではないのだろうか、そんな境地にゆるやかに揺蕩っている自分を見出す(笑)。
2018/04/17 更新
2018/01 訪問
やはり1度目の感動は裏切られることはなかった...「やまぐち」、山口さんの料理を組み立てる繊細な手つきは過つことを知らない!またまた京都訪問は報われた!
自分とは何の関係もないことだとはわかっていても、胸締め付けられるような思いで事態の推移を見守らざるを得ないことがある。...たとえば、初めての訪問で深く心動かされた店舗に2度目に訪問するときなどがそれにあたる。今いただいているお食事は滅法素晴らしいのだけれど、いただいているその瞬間から次の訪問時にそれが裏切られることがないだろうかといった焦燥感だ。
それに似た心の動きを、今年7月の「やまぐち」初訪問で感じた。というわけで、2017年12月2日(土)、11:50、本二階(ほんにかい)の京町屋の暖簾をくぐったときは、うずくような焦燥感に、胸を締め付けられる思いがしたものだ。
クラシカルなカ・デル・ボスコをやりながら、金柑のブリュレの上品な甘味が小気味よく口腔に展開されてもまだ、落ち着きが取り戻せない。次の前菜で、海の幸がグラスジャーに見事に収まりすぎているのがかえって気になり、このバチコの香りの文句のつけようのない素晴らしさがこの後のラインナップに重荷になりはすまいか。そんな思いが心をよぎったことをまず素直に告白しよう。
こんな贅沢な不満がどのあたりで消えたのかはよくわからない。素晴らしい料理店が醸す時間と空間に心地よく浸っている自分を発見したのはいつ頃だろうか。ひょっとすると蕪と白甘鯛から漂う昆布の風味とキャビアのしめやかなマリアージュにほっと胸をなでおろしたあたりかもしれない。...いずれにせよ、蟹素麺の、ハーブと蟹という誰も思いつきそうにないけれど全く外連味のない卓越な食材の組み合わせをいただいたあたりから、料理は、まぎれもなく「やまぐち」的な雰囲気を漂わせ始める...
以下、祇園「やまぐち」での素晴らしいお食事会について詳細に書き綴っていきたい。
1.金柑のブリュレ
金柑の中をくりぬき、金柑の果肉とフォアグラ、白味噌とクリームを詰めてキャラメリゼしてある。皮ごといただける。華やかな甘みの広がりに好感が持てる。
2.可愛らしいグラスジャーに入った冷たい前菜
軽く炙ったバチコ、干し貝柱のお出汁で作ったゼリー、生うに、牡蠣、黄色い人参のムース。申し分なく立派なバチコが、調理前から視界に入る。お料理をいただいていても、海の幸の味わいの中から、バチコの滋味が悩ましく鼻腔に漂う。
3.白甘鯛の焼き物
少し炙った昆布締めにした白甘鯛の上に、昆布で巻いて千枚漬けにした小蕪が3枚載せられ、その上に紫蘇と1年熟成のキャビアが添えられている。これを蕪を一枚ずつ横に置いて、鯛とキャビアを巻いていただく。これが滅法素晴らしかった。まず白甘鯛が絶品。そして蕪と鯛から漂う昆布の風味とキャビアのマリアージュに強かに打ちのめされる。
4.冷製パスタ...蟹素麺
今日の驚愕の一品である。まず、トマトの透明なスープに三輪素麺の手延べパスタ麺が入った器が饗される。三輪伝統の手延べ製法によるこだわりの細パスタだ。これは、通常パスタとして使用されるデュラム小麦粉を使用し、三輪伝統の手延べ製法で作った物だそうだ。
そして、香住の香箱蟹と香草を組み合わせた一皿が饗される。これを蟹素麺と合わせていただく。この一品、蟹と香草を組み合わせが素晴らしかった。しめやかなメス蟹の優しい風味と香草のエッジの立った鮮烈な香りの組み合わせが何とも素晴らしいのだ。麺は細身だけれどコシが凄い。
次の白。カパルツォ レ・グランチェ・ビアンコ。存在感のある力強い白ワインだ。
5.蒸しアワビとリゾット
蒸してからソテーしたエゾアワビとフカヒレと九条ネギのリゾット。ここにこれも「やまぐち」さんお馴染みの、カラスミを存分にかけながらいただく。リゾットが最高に旨い。九条ネギの味わいがしっかりしている。
次のワイン。ボット・ゲイル ゲヴュルツトラミネール レ・ゼレマン。コクがあってしっかりとしている。豊満で厚みがある。
次は日本酒である。レイクス。香りはフルーティー。バランスのよい甘みが口の中で広がる。
6.河豚白子と冬トリュフの温かいパスタ
白子の中で、河豚白子が一番調子が高い!これは贅沢の極みだ。息詰まるような興奮を感じる。
次の肉を見据えての赤。ドメーヌ・アルロー。すごくキレイな赤である。ほれぼれするような果実味に打ちのめされる。
7.牛ヒレ肉の炭火焼き
これを塩と山葵でいただく。火入れが途方もなく素晴らしい。ドメーヌ・アルローとの相性も申し分ない。
ここで、入り番茶をいただく。これがスモーキーで素晴らしい。最後にハーブティをいただいて一通りとなる。...やはりここは素晴らしい。しかし、ここは、いわゆるイタリアンとはまったく触知感が異なるお店である。どちらかというと良質な和食店で過ごしたような食後感を感じる詩的な繊細さを感じる店舗である。速攻で次の予約を入れることにする。次回は桜の時期の訪問だ!
2018/01/01 更新
2017/07 訪問
万華鏡みたいにキラめくお皿たち...「やまぐち」、ここは、ここに来るためだけに京都旅行を企てるだけの価値のあるイタリアンである
2017年7月1日、京都祇園...祇園祭の初日のこの日、南座あたりから八坂神社に向かう四条通は大変な人ごみである。右手に黒塗りの梁と臙脂の大津壁できりりと引き締まった一力亭の外観を眺め、東山通りを右折してすぐに小路地に入る。...祇園四条の会員制のイタリアン「やまぐち」。本二階(ほんにかい)の京町屋の佇まいが醸しだす古都の空気感が何とも味わい深い...
本日は、超有名レビュアーさんのお誘いを受けての初訪問である。しかしでもこのお店、事前のわたしの想定を遥かに超えて素晴らしかった!とくに食材の組み合わせの妙に新鮮な驚きを覚えた。どのお皿も万華鏡みたいに緻密で繊細な華やぎがあった。お食事中に「どうやってこんな組み合わせを思いつくんですか?」と思わず山口正(やまぐちただし)シェフに素朴な疑問を投げかけてみると、「いつもクックパッドを参考にしているんです」と抜け感たっぷりの返しもすこぶる好感が持てる(笑)
お誘いいただいたレビュアーさんに心から感謝したい!(しばらく4.9という点数をつけることに慎重になっていたけれど、ここは何の躊躇もなく4.9をつけたい)以下、あの素晴らしいお食事体験についてできるだけ詳細に書き綴っていきたい。
店内は、木製のカウンター6席のこじんまりとした落ち着きのある設えである。本日参加の皆さまと店主山口さんにご挨拶するとほどなくコースがスタートする。
1.一口前菜:白和えにしたピオーネ(黒葡萄)とフォアグラのテリーヌにオーストラリア産黒トリュフをスライスして...
スプーンを使ってよく混ぜて...とご案内がある。"森の黒いダイヤ"と言われる黒トリュフ...白トリュフがプロパンガスの香りであるとすれば、これは、朝まだきの深い森の中の樹木、そしてその樹木を支える新鮮な土を思わせる香りだ。トリュフとフォアグラとの相性はとても良いけれど、中にピオーネの甘みを忍ばせているところがすごく面白い。
2.冷たい前菜:干し貝柱のお出汁のゼリーにキャビア、ジュンサイ、唐津の生うにを沈めた冷たい前菜、底にはトウモロコシのブラン・マンジェ...ゆずの皮で香りをつけて...
一口いただいた途端に口中に広がるゆずの香りがすごい。涼やかな逸品だ。ただ、涼やかといっても決して淡い味わいではなくて、干し貝柱が太いしっかりとした旨味を持っていて、その中をキャビアの塩味、うにの甘みが踊るのだ。
3.温かい前菜:クレープ生地の上に、クリームチーズのソースとマンゴー、炭で焼いた琵琶湖の鰻、素揚げにした牛蒡とトリュフを添えて
ぱたんと畳んでくるくる巻いていただく。これがため息が出るほど旨かった!牛蒡やトリュフから感じる野をイメージさせる落ち着いた香りと、丹念に焼き上げられた天然鰻の焔立つような旨味、真夏の太陽のようなマンゴーのふくよかな甘みが最高のマリアージュを演じたてる。食べ終えるのが惜しくなるくらいの素晴らしい出来栄えであった!
4.冷たいパスタ:駿河湾の赤座エビを使ったカッペリーニ、フルーツトマトのソースで...上にアマランスという赤いハーブを添えて
スプーンでほじりだして味噌までいただく。夏場の定番、冷製カッペリーニ。赤座エビの淡い甘みをフルーツトマトの甘みが覆う。夏には味わっておきたい一品だ。
このパスタをいただいているときにパスタの調理法についてシェフから面白いお話を伺った。普通、パスタを茹でるときには大量の塩を入れて茹でるというのが一般常識になっているけれど、実はパスタは塩を入れないほうが美味しく茹で上がるのだそうだ。塩をたくさん入れて茹でてしまうと、パスタの表面のざらざらに塩が入って麺が伸びてしまうからだそうだ。
5.フリット:琵琶湖の鮎のフリット
まだ梅雨明けではないけれど、立派な鮎である。これをサッと油で揚げて紙にくるんで饗していただく。鮎の苦味が季節感を演じたてる。
6.リゾット:蝦夷鮑のソテーと鷹峯唐辛子(たかがみねとうがらし)のリゾット
鮑は蒸した後にソテーしている。酒蒸しとかではなく、シンプルに蒸し上げているそうだ。以前は酒蒸ししていたそうだけれどアルコールが苦手なお客様のためにシンプルに蒸すという調理法に変えたとのことだ。蒸した後にこれまたシンプルにバターと返し醤油でソテーしているとのことだ。
鷹峯唐辛子は辛みはあるものの味がわからなくなるほどの辛さではなく、しっかりと野菜の味わいを感じることができる。その意味でイタリアのペペロンチーノとは全く異なる和の優しいイメージだ。それにしても、鮑から漂うバターの風味と和の佇まいの唐辛子の仄かな辛みの合わせ技はまさに見事という他言葉が見つからない!和の要素を取り込んだ洋食のお手本だと感じた。和洋の融合の主張が強すぎず、さらりと和の雰囲気を漂わせているあたり実に粋なのだ!
7.温かいパスタ:炭で焼いた鱧と枝豆を合わせたリングイネ、まずは酢橘を絞ってから、からすみを好きなだけかけて...
鱧。これも今が時期だ。鰻や穴子に比べて脂が少なく実に上品だ。炭火で焼くことによって、温もりから立ち上る鱧特有の風味が強調されている。からすみは好きなだけかけられる。からすみの緻密な滑らかさを味わうほどに、馥郁とした太陽の陽光が鼻腔を漂うようだ。
8.肉料理:熟成のひれ肉の炭火焼き、あえて味付けはしていないので塩と山葵、返し醤油とフォンドボーのソースでシンプルに...
塊のまま長い時間をかけて炭火焼きにしている。これが、ものすごく柔らかい。今日の「やまぐち」さんでは、その食材の組み合わせに舌を巻いたけれど、こういう実にシンプルな料理も素晴らしいものがある。本物だ。
炒り豆茶。味はマイルドで殆ど癖はないけれど、香りは上品な中に仄かにスモーキーさが漂って極めて印象的だ。
9.お菓子:新生姜の葛焼き、きなこと黒蜜で...
最後に新生姜の風味が強く漂う葛焼きで一通りとなる。素晴らしいの一言である。ここは、ここに来るためだけに京都旅行を企てるだけの価値のあるイタリアンである。さっそく次回の予約を入れる。次回は12月に再訪だ!
2017/07/13 更新
京都「やまぐち」の訪問は、これで4度目となる。このレストランの素晴らしい点はたくさんあるけれど、中でもわたしにとっていつも心に刺さってゆるぎないのは、その和の食材の組み合わせの妙である。...牛蒡、柚子、唐辛子、桃、金柑、マンゴー、海老、蟹、鮑、白甘鯛、貝柱...こういった日本の自然が育む素晴らしい食材を、季節に応じて組み合わせ、思いもみなかった味わいの表情をいつも間違いなく堪能させてくれる。それがわたしにとっての「やまぐち」体験の一番の愉しみなのだ!
今回は、夏らしく、桃と無花果使いが素晴らしかった。蟹の香りを桃の優しい味わいが包み込む感じが素晴らしかったし、古典的な和の雰囲気を持った無花果という果物と、トリュフの組み合わせも秀逸であった。2018年8月18日(土)、素晴らしかった「やまぐち」訪問について書き綴っていきたい。
...真夏の夜の祇園の街は風情がある。東京都心の夜のようなどこもかしこも明るい真昼のようなギラついた感じがなくて、障子越し、あるいは路地の奥まったあたりに点々と仄かに灯る明かりの風情が実に奥ゆかしい。
「やまぐち」さんの暖簾をくぐると、いつものごとく、中庭の見えるカウンター席へのご案内となる。
1.前菜1:鮎
滋賀県の安曇川の天然鮎の素揚げ、バルサミコと実山椒のソースを添えてある。鮎のこのようなソースとの合わせは初めてである。斬新な一品目に期待が膨らむ。
2.前菜2:ジュレ
車海老と、丹波夏ずきんという枝豆、底に夏ずきんで作ったブランマンジェが敷いてある。上からは青柚子がぱらりと振ってある。あまりかき混ぜずにいただく。枝豆を中心としたお料理で、夏らしさを感じる涼味である。素晴らしい。
3.毛蟹と桃を使ったサラダ仕立て
一番下にヨーグルトをベースにしたソースが敷かれ、その上に蟹味噌と合わせたほぐした毛蟹の身、さらにその上に堂々と丸くくりぬいた桃がのって、最後一番上にふんだんにキャビアが載せてある。
桃と蟹の風味がこれほど相性がよいとは驚きである。一番上に配置されたキャビアの塩気もよいアクセントになっている。
4.オーストラリアの冬トリュフと無花果
くりぬいた無花果の果肉とフォアグラのテリーヌと白みそをあわせてクリーム状にして、砂糖をのせてブリュレでパリッと仕上げてある。上からオーストラリアの冬トリュフをスライスしてある。
和の食材とトリュフの合わせが申し分ない。...実は、わたしは「やまぐち」さんは、まだ秋にはお伺いしたことがない。でも、きっと秋には、もう一つ、日本を代表する和の果物、"柿"を使った素晴らしいお料理を饗していただけるのだろう。そう思うと、もう次回の秋の訪問について画策を始めている自分を発見する。
5.冷たいパスタ:トマトソースの冷製パスタ(カッペリーニ)
淡路島の赤雲丹がふんだんにのっている。「やまぐち」さんのパスタは繊細だ。この繊細さ加減がどうにも止められない!
6.温かいパスタ:松茸のリングイネ
酢橘を絞っていただく温かいパスタで、こちらの出来栄えも申し分ない。色気があって、慎ましやかな仕上がりのパスタである。
7.蝦夷鮑のステーキとゆり根
蝦夷鮑と丹波の新物のゆり根、オーストラリアの冬トリュフのスライスがふんだんに添えられている。鮑をゆり根と組み合わせでいただけるというのも、また「やまぐち」さんならではだと思う。ほどけるようなゆり根の和の食感と、力強い鮑の弾力の相性にうっとりとする。
8.牛肉の炭火焼
いつもの牛肉の炭火焼。ゆっくりと火入れして、いやな油っぽさがまったくない。いつものごとくこのシルキーな感じのお肉に感動する。あえて味付けはされていないので塩と山葵、返し醤油とフォンドボーのソースでシンプルにいただく。
9.かき氷
最後は、山口さんが、手動のかき氷器でかき氷を作っていただく。削りたての氷の感じに見入ってしまう。
京都に訪問するときは、いつもどうしてもこのレストランには立ち寄りたくなってしまう。わたしは、イタリアンは大好きだけれど、「やまぐち」さんにお伺いするときばかりは、イタリアンをいただきに行くというモチベーションより、今日はまた、京都の食材を中心に、どんな妙なる食材の組み合わせを味わわせていただけるのだろう、という関心の方が強うように思う。ここは、わたしにとって、入洛のみぎりには、訪問を欠かすことのできないレストランである!