現実が幻想に見えてしまう稀有な店 : 鎌田鳥山

ひさしぶりの訪問。５年ぶりくらいでしょうか。
なのに何も変わってなくて安心しました。

濃く暗い森を背景に、ふたつの提灯が灯ります。
人の本能がそうさせるかのように、導かれるように提灯の間に道を確かめて進みます。
野猿街道から登ってゆく心細いつづら道…これが異界への道なのかもしれません。

時間があれば是非明るいうちから訪ねてみてください。
尾根に建つ一軒家の外観と、二階からの眺望も趣き深いですよ。


この宵は、かの有名美術監督ご一団がお見えとのことで、囲炉裏ではなく火鉢席に案内されました。
(その方のサイン色紙が帳場にあります)


前菜に煮物と田楽が供されます。たいてい里芋と蒟蒻です。
里芋は柚子が利いて、出汁の風味を感じないほど里芋が主張していて立派な一品でした。皮の剝き方に迷いが無いです。
蒟蒻は若干コンニャク臭さがありましたが、下味はきちんと入っていました。味噌は甘くなくてとても好みなもの、黒い山椒のひと振りは必要なアクセントでした。
漬物は白菜。昔ながらの手作りを感じられてとても美味しかったです。


予約するときに「野鳥コースですか」と訊かれて「若鶏コースで」とお願いしたので滞りなく提供してもらえました。
(ここでリピーターかどうか試されているような気が…)
ちなみに以前頂いた野鳥コースは珍味ばかりです。
すずめは開いてあるけど、骨ばかりで食べにくく血の臭いがします。
うずらは美味しいのですが食べられる部位が少ないです。
つくねは焼鳥屋のものとは一線を画します。野趣があって美味しいですよ。
つくねは単品でも注文できるので、若鶏だけに満足できない方はぜひ食べてみてください。
(つくねは焼き方が難しいので、初めての方は店の人のレクチュアを受けてください。)


若鶏コースはチキンだけですので安心して頂けます。すべて串刺しにされています。
平べったい部位は平たい竹串、そうでないものはまっすぐな串、刺し方が丁寧で食べやすさに配慮が行き届いています。
とはいえスーパーマーケットで手に入るような鶏肉のグレードではありません。解凍感はまったくありません。


・もも一枚…脂身はほぼ無いです。筋もほとんど気になりません。皮目から焼いて色付いたら返して焦げない程度に火に当てます。
・カットされた"むね"と一口のレバー…焼いてもそれほど固くなりません。レバーのクセもわずかで食べやすいと思います。
・砂肝…筋を取り除いて薄切りにしてあるので、丸のまま食べるような硬さは無くて食べやすいです。
いずれも過度な脂は含んでいなくて、炭に脂が落ちて燻されるということは無いです。それぞれの肉からはドリップなどまったくありません。素晴らしい提供です。

他に、うずら卵・しいたけ・ししとう・長葱が添えられます。
うずら卵は遠火で炙ると表面がぶりっとして面白い食感になります。直火に当てると網にこびり付くのでご用心。
しいたけは傘の上側を焼いて、ひだがしっとりするくらい炙ります。気になるようならひだの面は火に当てるくらいでよさそうかと。
ししとうは表面の光沢が無くなったらＯＫ。長葱は両面に焦げ目がついたら食べごろです。
たれの壺はひと串が浸かる深さがあります。二度浸けはご法度ですよ！
そのたれがくどくなくて美味しいです。普段は塩味を好む自分でも口に合います。
でも、たれに浸けてさらに焼くのはおすすめしません。焦げ臭く苦くなるだけです。
卓上には塩と七味唐辛子は用意されています。

炭の焼け具合によって、網の上での各串の置き方に加減が必要です。
串の先端だけ焼けていたらそこだけ先に食べて、残された肉や野菜を串の先端に寄せてさらに炙りましょう。
炭がよく焼けているポイントも移動しますのでよく観てくださいね。
そんな感じで、何でもかんでも調理器具に頼る人たちには来て欲しくない名店です。


もちろん、名物"むぎとろ"と"なめこ汁"もとても美味しく頂きました。
麦ご飯はとてもふっくらしていて、よく炊けた小粒な麦が米に違和を加えない加減で感銘を受けました。ほどよくプチプチしていました。
とろろはコシがありました。味付けは濃い部類だと思います。米粒の隙間に落ちてゆくことはまったくありませんでした。卵の混合についてはお店に訊ねてください。
なめこ汁はなめこの周りにネバネバ成分が見て取れました。これがツルりとしたなめこですよ。豆腐と青葱のコンビネーションでシンプルな美味しさです。


ホイルに包まれたつくねの焼き方…
冷凍のまま提供されます。包まれたまま遠火で解凍して、指で押さえてへこむくらいになったら直火に当てます。とにかくホイルは外さないでください。何度か返してホイル表面に肉汁の焦げができてきて、指を当てて固くなっていれば食べ頃です。うずらが主原料と伺いました。鶏とは違った美味しさですよ。


白ワインのフルボトルは国内産甲州種のやや辛口、ハーフは国産と輸入のブレンディドでやや甘口でした。
どちらも和食に合うすっきりとした味でした。
(2014 NOV現在)


総合☆２．７