麺が絶品！中野に現れた鶏清湯系の新星 : 麺屋 久仁衛

5月5日(金)

昼、「まるえ食堂」(東小金井)、「ラーメン 健やか」(三鷹)と連食。
夜は抜きにしようと思っていたのですが、悪い癖が出ました。

夜19時過ぎ、「ちょっと散歩に行ってくる」と実家を出て、西武新宿線で2駅の新井薬師駅で下車。
目指すは、4月16日にオープンしたばかりの「麺屋 久仁衛(くにえ)」。
新井薬師駅南口から新井薬師門前商店街を薬師方面に。

駅近くこそ飲食店等があるのですが、信号を渡ると、急にさびしくなります。
バス道路であり、れっきとした新井薬師の門前街なのに、この人通りのなさは信じられません。
そんなさびれた通りの一角に明かりが見えます。
「麺屋 久仁衛」が営業中だったのですね。

もちろん営業時間には夜営業も記されています。
でも、連休中でもあり、食材切れやスープ切れなどで、昼営業で終了の可能性も考慮していました。

何せ実家から15分。
新井薬師駅から3分の至近距離。
そんな場所に、無化調で鶏清湯スープのラーメンを提供する実力派の新店が開店したのは嬉しいですね。

しかし、先行レビューでも指摘されていますし、これまでの記述からも分かるように、この場所は、これまでいくつものラーメン店が開店しては短命に終わったいわば「鬼門の地」。

「麺Diningひろまる」「牛薫る麺処 嵐風」「玉子とじラーメン 松壱」「担担麺 百錬」など、この地で消えていった店を思い浮かべることができます。

果たして大丈夫かなと思いつつ、店前に来ると、19時過ぎで先客なし。
懸念しながら入店。
すると、コックコートを着た若いイケメンの店主が出迎えてくれます。
少し小柄ながら俳優の谷原章介似。

L字カウンター10席のみの店内は、黒塗りされたカウンターといい、店主のコックコートといい、おしゃれな洋食店かパスタ店のような趣。

まずは入口右手の券売機をチェック。
いまのところ、メニューは醤油ラーメン一本。醤油ラーメン(780円)と、味玉とチャーシューが増量された特製醤油ラーメン(980円)の二品のみ。
麺量は、並盛で茹で前で180グラム。
大盛は280グラム。

昼のラーメン連食の影響で、まだお腹がすいていなかったので、おとなしく醤油ラーメンの食券を購入。

カウンターに座ろうとすると、カウンターに比べ椅子が低い点に違和感を感じます。
その上、椅子のクッションが柔らかいので、不用意に座ると、腰が沈み込んでしまいます。
その上、卓上の水差しからコップに水を入れようとすると、水差しの蓋にわずかな隙間があるのか、水がポタポタとコップの外に漏れます。

椅子やクッション、水差しなど細かい点ですが、客が快適に食べることが出来るよう改善を要します。

卓上にはPOPの類いは全くなし。
幸い、先行レビューのおかげで、スープの食材、カエシの醤油、麺や具などおおむね分かっていました。

しかし、提供された醤油ラーメンのスープは、先行レビューとは、ある一点で大きく違っていました。

○醤油ラーメン(780円)

白い受け皿に白い丼がのって運ばれます。
丼には、きれいな琥珀色のスープが注がれ、スープの表面は鶏油が張られ、美しく輝いています。
スープの中には麺が丁寧に盛られていますが、これが中太の平打ち麺。
チャーシューは、豚と鶏の2種。
ですが、後述のように、通常の低温調理チャーシューとは大きく違っています。
それ以上に特徴的なのが、ネギを使っていないこと。
その代わりに、三つ葉が添えられています。

スープは鳥取県の銘柄地鶏である大山鶏のガラとモミジのみを使用。
鶏と水だけでとった「水鶏スープ」。

それに、日本一醤油の銘柄で有名な岡直三郎商店の生揚げ醤油のカエシを合わせています。

このスープとタレが高い水準で融合。
4月16日にオープンしたばかりの新店とは思えない鶏清湯スープの醤油ラーメンをつくり出しています。

スープに合わせる麺が、先に触れたように鶏清湯系の常識を覆すもの。
通常なら、固いか柔らかいかはどうあれ、中細ストレート麺か細ストレート麺を合わせるのが常道。
それを、何ときしめんかパスタのフィットチーネを思わせるような加水率高めの全粒粉入り中太平打ち麺を合わせています。
ここに、店主のいう「オンリーワン」のラーメンをつくりたいという思いが現れています。

平打ち麺は、敢えて手揉みをしないので、ますます「きしめん」「フィットチーネ」感が充満。
これが意外に醤油味の鶏清湯に合います。
モチモチ、ピロピロ、ツルツルしながらも、しっかりコシもあります。
ピロピロした麺が良くスープを持ち上げます。
店主が大和麺学校出身なだけに、麺が自家製麺であるのは当然と考えていました。

しかし、先行レビューやブログをチェックしていくと、「自家製麺」という説、「店の外で製麺している」「大和製作所の関連会社である㈱讃匠の特注麺使用」などいろいろな情報が錯綜しています。

私も「自家製麺」と決めつけた結果、この点について店主に確認するのを怠ってしまいました。

それはさておき、豚肩ロースの低温調理チャーシューは、ピンクのレアチャーシューとは全く違います。
厚いなが白目の肉肌は柔らかくローストされ、黒胡椒で味付け。
肉のジューシーさに溢れています。
鶏チャーシューは、通常のしっとりした仕上げを敢えて回避。
サクッとした食感。
人によっては、パサパサしているという感想を持つかも知れません。
しかし、これも店主のこだわるオンリーワンのチャーシューなのです。

極太の材木状メンマの味付けもユニーク。

レベルの高い水鶏スープと生揚げ醤油を合わせたオーソドックスな鶏清湯に、オンリーワンの麺、具を合わせるという対照的な2つの顔をもつラーメン。

そこで1つ気になったのが、先行レビューで再三にわたり指摘されているスープの酸味。
今回食べてみて、私は特に酸味は感じませんでした。
そこで、この点を店主に質問。

店主は岡直三郎商店の生揚げ醤油に惚れ込み、その香りを最大限生かすために、敢えて醤油の火入れをしなかったといいます。

そのため、生揚げ醤油の香りをほぼそのまま出すことに成功。
その反面、酸味がどうしても出てしまい、鶏の旨味やコクを隠してしまうという弊害に直面。

そこで、本日(5月5日)から醤油の火入れを始めました。
これにより、生揚げ醤油の香りは若干おとなしくなりましたが、酸味を消し、鶏の旨味を生かすことに成功。

そんなことを話しているうちに、店主が醤油の火入れをしないスープを試食してみないかと提案。
ならば、麺も美味しいので、かけでお願いしました。
無料でいいとのことでしたが、再度醤油ラーメンの食券を購入。

提供された火入れしない醤油ラーメン。
見た目は変わりませんが、たしかに生揚げ醤油の香りが強烈に立ち上がります。
酸味も感じられますが、気になるほどではありません。
個人的には火入れしないタレの方が気に入りましたが、火入れした方が一般受けする味でしょう。

31歳の若い店主は愛知県でサラリーマンをしていましたが、家族の反対を押し切って大和麺学校に入学。
「オンリーワンのラーメンをつくりたい」が、彼の目標。

5月5日から生揚げ醤油の火入れを開始したのに続き、近くラーメンの味を大幅にリニューアルするという。
「今よりもっと美味しくなりますよ。是非来てください」と語る彼の口調には自信が溢れていました。

「この麺なら、つけ麺や中華ザル、油そばなどが絶対合いますよ」と言おうとしたとき、相次いで3人の客が入店。
店主の顔にも笑顔が。

濃厚なラーメンばかりの中野で、無化調の鶏清湯ラーメンは貴重な存在。
是非、「鬼門」の場所の悪循環を打ち破って欲しいものです。