イタリア郷土料理の深奥へ : フィオッキ

一連の休暇でイタリアンを開拓しようと決めた時、一番最初に行くことを決めた店。
決め手は半分以上はフィーリングだが、北イタリア、ピエモンテの郷土料理を現地で学んで持ってきたというところが気になった、と言うか。

表にOPENとか表札を出すわけではないが、外の灯りが付いていれば入ってよさそうな感じ。
コースはメイン：仔羊にして追加料金。飲み物はワインペアリング12,100円（税込）を頂くことにした。

料理もそれぞれ凄いが、何と言ってもペアリングが素晴らしい。
イタリアのシチリア、時にスイス国境付近のマイナー産地から味わいに合うものを拾い上げてマリアージュを演出しつつ、最後のメインでは王道でズバリ勝負する。ラスト、仔羊の藁焼きとバローロの組み合わせは完璧。シェフによると、北イタリアでお世話になった師匠はソムリエでもあったらしいが、仔羊には必ずバローロを合わせていました、とのことで、こういうの聞くと堪らない。料理の師匠から受け継いだペアを再現するというのは、食の文化の継承そのものだと思う。また、ソムリエも居るようだが、お話しの端々から、シェフ自身が味わい、確かめながらペアリングを組み上げた形跡が見える。
値段が30,000円をちょっと飛び出てしまったが、何かこう、色んな物が「丁度いい」感じというか、ペアリングにしても6杯で分量がボトル1/2＋ちょっと、とか、少量多皿とまで言わない程度のボリューム感と皿数とか。
キャリアも長いシェフということもあるのだろうが、シェフの個性が非常に強く出た、完成度の高い美食の世界。イタリアと聞くと大らかで開放的なイメージを持ちがちだが、北イタリア、山岳地帯の、スイスも近くなってくるあたりのちょっと内向的な世界観を持っている印象。他人に勧めやすくはある（ペアリング＋スパゲッティを追加して30,000円足らずという価格をどうとらえるかはある）。

以下は備忘を兼ねたメモなので、興味ない人は読み飛ばしていただければ。（フレンチでよくやる意味なく長い感想）

①雲丹/鹿/とうもろこし　…　鹿のコンソメ、とうもろこし、大麦を布いた上に雲丹
　ワイン・Cave Mont Blanc, Glacier
　雲丹のカクテル的なものの中では、ずいぶん久しぶりに納得感のあるもの。ワインとの相性はそこまでよくなかったが、入り口から大いに好印象。

②天龍鮎/卵/レタス　…　ミニホットドッグ風
　ワイン・Nosiola
　現地で修行していた時にヒントにした料理があるそうな（細かいところは忘れてしまった）。ワインを合わせることで、鮎の主張の強さに影を潜めた香草や花たちの香りがふわっと甦って来るようなペアリング。少しずつ調子が上がって来た感。

③蛤　…　冷製パスタ
　ワイン・Vinudilice（シチリア/オレンジワイン）
　肉厚で大きな蛤を乗せた冷製パスタ。細かい行程は手許が隠されていてうかがい知れないが、ダシをパスタに氷で冷ましながら含ませて作った感じ、だと思う。
　ここにオレンジワイン、という組み合わせが、蛤の濃厚な旨味と柔らかく手をつなぐ感じ。ここから最後まで、完璧なものが組み合わせが続く。

④鰹/茗荷　…　バーニャカウダソースで和え、火を入れた茗荷を添えた鰹の藁焼き
　ワイン・Cala Niuru（シチリア/シラクサの赤ワイン）
　茗荷のソースがそもそも美味しい。そして鰹の藁焼き（外側だけ焼く）のソースとして素晴らしい。
　またシチリアの赤ワインが、単品で飲めばエレガント。シェフの説明によれば、掘れば海水が出るエリアのワインで、ブドウがストレスで酸を強くするんだそうで。鰹と正面からガチッと噛み合う。ちょっと鰹を大き目に切っていただいたほうが相性の良さを感じられるかも。

⑤天然鰻/万願寺唐辛子/ブルーベリー　…　リゾット
　ワイン・Frasca, Barbera D'Asti（北イタリアの赤ワイン）
　若く、青くなっていないブルーベリーと万願寺唐辛子を刻んだもの、ポルチーニを炒め、トマトとともに炊いたリゾットと合わせ、鰻の白焼きを乗せる。
　これがリゾットのトマトの酸にも合えば、サクサクな鰻にも合うという素晴らしいペアリング。③のペアリングの時点で、「よくこんなの探してきたなぁ…」と感動してきたのだが、ここに到るまで完璧で、料理の完成度とペアリングの隙の無さに感動。来てよかったと思う。

⑥仔羊の藁包みロースト
　ワイン・Baroro Cannubi, Daｍilano
　上にも書いたので省略。付け合わせは、灰の中で蒸し焼きにしたジャガイモ。シェフのスペシャリテらしい。バローロとの組み合わせは感動的。ここまで変化球というか、な組み合わせで工夫を凝らしたペアを見せてもらった果てに、王道ど真ん中の組み合わせを完璧に演じられると、降参するしかない。

⑦（追加）トマトのスパゲッティ
　4種のトマトを使用したシンプルスパゲッティ。美味しいけど、ちょっとキレイにまとめすぎている印象はある。（好みの問題）

⑧デザート（１）白桃　…　ソルベ
　チーズに変えることもできますが、と言われるのだが、桃と言われて変える気にもならず。そのままいただいたがこれが美味しい。

⑨デザート（２）トロピカルフルーツ/台湾茶　…　スフレ、台湾茶のジェラート、トロピカルフルーツ
　スフレと台湾茶のジェラートの組み合わせが気が利いていて美味しかった。スフレは中を割るとトロトロ。