各国料理に通じた創作を堪能できます : 伍之伍之 十六夜

この店の存在は随分以前から知っていました。
あるとき歩道から見えるメニューボードを見てとても気になり、エントランスの戸を引いたものの、カウンター席しか空いていないとのことで他を訪ねたということがありました。今回の訪問もカウンター席になってしまいましたが、座敷の卓は６人ほど集まらないと通してもらえないように見受けました。少人数向けのテーブル席が無いのは少々残念です。

とはいえ料理はとても美味しゅうございました。
こちらの店主は相当研鑽を重ねてらっしゃいますよ、きっと。特にアジア各国の料理によく通じてらっしゃると感じました。

・カンパチの白胡麻 りゅうきゅう
大分の郷土食なのですね。刺身をタレに浸ける料理らしいです。小さな当たり鉢に薄い造りが綺麗に並んで美しいです。提供の直前に白胡麻を擦って香りも楽しめました。鉢の底に卵(うずら)と醤油があるのですべてをかき混ぜて、との案内に従ってそうしてみると、あの美しさを壊してしまうのがもったいないと思いつつもすべてを混ぜてみても塩辛くも甘くも物足りなくも無く、完成度の高さに畏れ入ってしまいました。和でも洋でも盛り付けは堆くすると見栄えがするというのが定説なのに、それを覆して器にそわせるのは良いセンスをお持ちなのでしょうね。勉強になりました。かんぱちはとても薄く造られて、口腔内で咀嚼に持て余さない大きさと固さは秀逸でした。

・パクチーと肉味噌のぱくぱくアジアンサラダ
肉味噌は調理時間を短縮させる工夫があったようです。日本の一般的な肉味噌ほど甘くなく、味噌というより魚醤の香りと鶏のゼラチン質のコクがあったと思います。パクチーもたくさん載っていましたし、アーモンド？スライスのざくざくとした食感と風味と相まって、まさにタイランドを意識されたかのような創作アジアンに仕上がっていました。

・まぜまぜ♪エスニックごはん
この料理に載る挽き肉は、先の"ぱくぱくサラダ"のものに酷似しているかほぼ同じものだと思います。アーモンドとパクチーも含まれるので、被った味わいの料理の注文にしまった、と思いました。とはいえこの品には素揚げしたバイマックルーの葉が忍んでいました。柑橘の葉で、レモングラスとともにトムヤムには欠かせない食材です。スープでは葉の硬さ故に外してしまうものですが、こうしてさくさくに揚げると食感も香りも楽しめて、このような調理がどうして今まで無かったのでしょうか！と感嘆しました。この品は〆にもしのぎにもよい料理でした。パクチーの香りと、ホムデンを意識したアーリーレッドの揮発性の辛さ、温玉がコクとしっとり感を演出してまとまっていました。迷いのかけらも感じられないなかなかの一品でした。

・まこもだけの肉巻き揚げ
まこもだけという食材は中華で炒めものなどに使われます。きのこではなく、筍のような体をしながらこりっとした食感と甘味がおいしい食材です。自分は塩炒めしか知らなかったのですが、このような細いまこもだけ丸一本に薄切り肉を巻いた調理はなかなか贅沢だと思いました。肉の旨味を伴うことでまこもだけがより存在感を高めていますし、何よりも美味しいのです。巻いてある肉が芯となるまこもだけから滑って外れなかったのは秀逸な調理でした。しっかり揚がっているのでひとかじりずつ酒とともに噛み締めました。お勧めします、まこもだけの肉巻き揚げ。

・海老醤焼きそば
味付けはインドネシアのミーゴレンに近かったと思います。少なくとも自分の嫌いな日本のソース味ではなかったことに嬉しくなりました。東アジアには広く焼きそば文化が存在しますが、日本のソース味はとにかく嫌いなＨＫＴなのです。海老醤とはカピでしょうか。これ以上海老が主張したら品を欠くと思うので、こちらの店主殿の調理は信頼できると総括できた瞬間でもありました。麺がもさもさとせずするりと引き出せたのは温玉の効果もあったのでしょうか。ちょうど良い塩加減と海老の風味でとても美味しかったです。


総合☆２．６
ご馳走様でした。再訪します。
お通しが謎の盛り合わせでした。スモークド軟骨(チラガー的な)・うずらの卵の味玉・ドライドいちじく・カレー風味のザーサイ…これは一般受けしないでしょうし、一品料理と較べるとよいセンスを感じられませんでした。