勝太楼/形を守るということ : 中華料理 勝太楼

昭和通りの更に東を探索中。いい加減歩いて来たなと思っていたら怪しげにエイジングを施されたラーメン屋を発見し、これは大林宣彦監督が生前巧妙にこしらえて忘れ去られた罠の残骸に違いないと、一旦は通り過ぎる。

しかし目の前を見据えてご飯処の気配無し。
そこで食べグロにて今一度、先ほど通過した店の、料理はどうでもいいから内観写真を確認し(笑)、店内はそれほど風化していないなと見当を付けて、言いかえて、もうどうすることもI can notと覚悟を決めて、その軽い調子にダメイジ加工された(笑)暖簾を割り、アルミサッシの引き戸を引いてみた

<R2.6.23>

「勝太楼」

鉄人28号の操縦者のような名前の町の中華屋さん。
入店して妖艶な南田洋子に出迎えられたら、それはお化けなので一目散に逃げ出すと決めていたが、完全なるおばちゃんだったので一安心。
こちらのおばちゃんは、先日の同じように草臥れた、そちらは日本そば屋であったのだが、その時の客を敵だと思っているくそ婆とは違って(おいっ !)、あたり良くいらっしゃいませ ♪　と。
もうそんなことだけでこうして胸をじんと熱くさせられてしまうことが実は異常なことで、ほんとうは入店していらっしゃいと言ってもらえることは客としてふつうのことなのだと自分に言い聞かせつつ、先客の男性お一人様たちが4人ほどそれぞれに着いている場所は避け、端っこのテーブルに着いた。

―― おばちゃんが床に置いた鞄をどうぞ隣の椅子に置いてくださいと言ってくださることにさえ、号泣しそうになる。ふつうに注文をとりにきてきくださるだけでも夢のようだというのに(笑)

短冊を並べる品書きは、今は亡き十条「一番」を私に思い起こさせた。
そこでよそんちの透き通るような白い肌を持つ女子大生にお酌してもらいつつやった冷酒は、たとえ銘柄が最低限のものであっとしても、そしてまたスポーツウーマンであったその女子大生の太ももが競輪選手のように逞(たくま)しかったとしても(お～い !)格別にうまく、そして二人で分けあって、大将がリズミカルに中華鍋を振って仕上げてくれた炒飯をやっつけに掛かるとき、ひょっとしたら酒飲みとしてこの世に自分以上の果報者はいなかったのではないかと独り郷愁にひたっていると、やおら頭上から炒飯がふってきた ……

“半チャーハン + ラーメン” @840也。

「ラーメンもうちょっとお待ちくださいね ♪」

プッチンプリンのように模(かたど)られた炒飯でなかったことに幾ばくか落胆したが［注］、ふつうにおいしい炒飯。そしてそれほど待たずにおっかけ差し出されたラーメンのおつゆの正義の黒さには、完全に満足 !

「ラーメンはねえ、おつゆがうまいんですよ」

を心の中でまたしても繰り返す。声に出したら頭のおかしな人だと思われてしまう為。願わくば鶴田浩二さんのあの甘い声でやりたいのだが、心の中ですらどうしても忠実に再現出来ないことがもどかしい。

炒飯、ラーメンともにふつうにおいしい町中華。
が、私の世代目線でそれを冷静評価させていただいたとき、その評価はあくまでも“ふつう”の範囲に置くことしか出来ないと思う。
どこかの日本蕎麦屋のときにすでに使ってしまった言い回しだが、こういった“ふつう”が相対的に希少となってしまった為、時たましか出逢うことの出来なくなってしまったそのふつうに殊更ありがたがらなければならなくなった、というだけの話だと思うが、だからこそ、こういったお店に末永く商売を続けていって欲しいと願うことさえ、果たしてそれも我々お客たちの無責任な傲慢なのだろうか ……

注) 私は炒飯という料理が、お椀型が守られたものがおいしいということに最近ようやく気が付きはじめてきた。その形が破られはじめた最大要因は、“ぱらぱら”というトレンドだと思う。料理において形が重要であるということは、サラダボウルに盛られたスパゲッティが軒並み不味いという事実がその証明の一つとなろうと思う

見上げれば「徹子の部屋」。
このことを私は知らなかったのだが、今日のゲストは最近私の顔を覚えはじめた大久保佳代子さん(の本物)とコンビを組んでいるという、お笑いの光浦靖子さん。
海外留学が決まっていたのに新型ウィルスの混乱によりそれがご破算となり、ホームレスになりかけて、妹夫婦の家で居候体験をなさったということからの「何か結婚観は変わりました ?」との質問に、「(結婚相手に要求されるものとは)長く一緒にいられる人じゃないとだめなんだなぁって思いました。兎に角、あんなに長く人といるってことが今までなかったもので」とおっしゃっているのを聞き、ああ、やっぱ俺もダメだなって、まずその前段階にかすってもいないのに、無意味にあきらめてみたりして ……

―― でも万が一、相武紗季さんや石田ゆり子さんのような美しい人が現れて、別居でいいし、映画も、私は分からないから一人で観てきていいよ、でも呼ばれればすぐに飛んでくから。そして老後は絶対に面倒みさせてね !　というような、俺のことをほんとうに愛してくれる素晴らしい女性と出逢うことができたならば、俺も少しは考え方を変えてやってもいいけどね ……
(ばかやろう !)