超変化球的コンセプトの平兵衛揚げを作る超名物金髪親父さん、急逝されました。またひとつ上野名物の歴史に幕が下りることに。。。ご冥福を祈ります。 　　 : 平兵衛

味の良し悪しは別にして、オンリーワン的コンセプトを掲げ、オンリーワン的な平兵衛揚を提供してきた、金髪、赤いタンクトップ＆ショートパンツ、サングラスをかけ出っ腹出して自転車乗り回す63歳の超名物親父さん、2011年8月某日、急逝されました。

また、上野名物の歴史に幕が下りることに。

ご冥福を祈ります。

なお、当店はすでに看板が下ろされ閉店しています。
当レビューに掲載している4枚の外観画像は2004年に撮影したものなので、技術力のなさを反映してますが、ご了承ください。


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コンセプト、ポリシー、スタイルなどは、個性的であればあるほど趣があると言えるかもしれないし、その店独自のオリジナリティとして考えるなら、敢えて言うことはないし反論する意味もない。
と、書き出しやけにとげとげしくなってしまった。
そもそも、なんだかそんな反論的理屈を言いたくなるような、そんな雰囲気をこの店は持っている。それは、この店の超独特の薀蓄によるところだ。
でもって、この店の薀蓄は、店で作っている黄色い表紙の小雑誌にこと細かく書かれているので、どうしても知りたい方は、一度ご訪問されてみてはいかがだろうか？

さてはて、店側にどのような薀蓄があろうとなかろうと、供されるものが料理である以上、それを食べる側がどう評価するかということは、それとはまったく別の話である。

まず、平兵衛の “とんかつ” については。。。
この店の豚肉料理は、ひとつには、“とんかつ”ではなく、今まで見たことのない黄色く揚げられた物体である。
250ｇの豚ロースに、玉子→小麦粉→玉子→小麦粉→玉子→小麦粉と三層巻かせて、平均80度前後で30分前後じっくり揚げ蒸しした厚さ3センチはあるかと思われる物体は、分厚いピカタだと考えてくれればいいと思う。

料理の方法論としては、平兵衛メソッドと称し、超低温で揚げ蒸しすることで水分を失わずに揚げるというのが最大の自慢だ。
低温で揚げるから、肉の持つ水分の喪失が最小限に抑えられ、表面も焦げないから揚げ油を汚さずに済む。油が汚れないから、これで一般のとんかつ屋のように大量の使用済み油の廃棄物が出ずに済み、すなわち環境破壊の防止にも一役買っているのだ、というような論理の展開。
しかし、油は見た目汚れていない様でも酸化はする。廃棄せずに使用する油で、中毒を起こしたりはしないのかは大きな心配要因ではある。

さて、この店側のコンセプトはともかくも、では、食べる側からものを言わせていただくと、水分と旨味の関係は、水分が多ければいいというものではない。確かに、ここの豚肉料理は水分を感じはするが、その分ぼくには、あまりにも水っぽく、味のコクという点で物足らなさは否めない。水っぽい肉の味わいゆえに、食後、味わいの余韻もほとんどない。

衣は、厚さ5ミリくらいのスポンジ状の玉子に油を染み込ませたようなもので、油をたっぷり吸ったぶ厚いピカタの皮という感じ。舌ざわりはざらざらしている。もちろん、食後唇周辺が油まみれになる。
さっぱりした油を使用しているといっても、僕には完食するのがやっとだった。

いわゆるとんかつソースは、この料理にはまったく合わない。ポッカレモンが置いてあるので、それが一番合っている。ケチャップでも良いかもしれない。結局、油っぽい食べものだからである。

店主は 「茶色く焦がしてあるトンカツは肉の水分を失っている」 と言っているが、"揚げる”ということはそういう手法によって水分を飛ばすことで旨味を引き出す料理方であって、その結果、味わい深いものになるという料理手法のはず。
水分を飛ばしたくなければ、無理に揚げずに蒸せばいい。
結果、上野に点在する老舗とんかつ店の茶色く揚げたとんかつは、食後とても心地よい味わいが後味として残っている。なんだかまた食べたくなる。つまりは、そちらの方が料理としては、美味だということだ。

食は、五感＋一感で味わうものだ。これはつまり、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触感、超感覚（霊感などと言われている）のことである。

・視覚で考えた時　：　店はあまりにも汚い。食器などもせめて漂白してほしい。
・嗅覚で考えた時　：　店の匂いが独特で、というか決していい臭いではない。
・味覚で考えた時　：　食感という点で、肉の水分にばかり拘りがあり、肝心の衣は油を含んだスポンジ状態だから、香ばしさもなければ、
　　　　　　　　　　　　　　さくさく感などもちろんない。はっきりいって不味い。
・聴覚で考えた時　：　とにかくブツブツ独り言が耳に障る。
　　　　　　　　　　　　　　質問をしたりすると、説き伏せるかのごとく独自の考えを一方的に言い放ち、聞き耳は一切立てることはない。
・触感で考えた時　：　汚くて周囲のものを触る気にもならない。
・超感覚で考えた時。。。いっ、いや、この感覚は間違ってもここでは使ってはならない。　狂う。

ご飯、煮詰めちゃった味噌汁、漬けすぎのぬかみそ漬物、どれも誉められたものではなかった。

「肉から湯気が出るのは水分が多い証拠。そんなとんかつは日本の中でもうちだけでしょう」と主人がやたらと自慢気に主張する。
仮にこの店だけだとして、それが良いかどうかは疑問しか残らない。もちろん80年続いた上野の名物店としての存在は認めるし、今3代目の金髪親父が作る、ここでしか食せないだろうと思われる豚肉料理としては、一度くらいなら試してみるのも経験値を上げられるというものかも知れない。
ここが旨いという方だっているしね。

ぼく的には、若い頃ならともかく昨年再び食してみて、3度目の訪問は恐らくないと思う。
今思うに、平兵衛的とんかつを写真に残しておけばよかった。それだけが悔やまれる。。。