皿の中のバランス感覚 : AZUR et MASA UEKI

去年だったか、突然本サイトで点数が急上昇して注目を集めたレストラン。
今でも絶賛の嵐で、かなりの高得点を維持してます。
とはいえ、移転前の銀座時代に友達（かなり好みが合う）が行っていて、「そんなに・・」ということだったので、行くのを躊躇してました。
ベテランであるはずの植木シェフのお名前も、寡聞にして今までずっとフレンチ好きの間で聞くことがなかったというのも、躊躇してた理由。
がっ、別の食べ友さん複数がとっても良いと言うので、ようやく訪問。
店は西麻布にあり、ちょっと裏道を入ったところにあります。
中はとっても贅沢な造りで雰囲気が良い。
適度に照明を落として、テーブル間もゆったりとしており、暖炉もあって、テーブルの上には蝋燭の炎が揺れる。素晴らしいです。

バーもウェイティングスペースもあるし、スタッフも大勢いて、まさにグランメゾン。
カルフォルニアのワイナリーであるアズールと植木シェフとのコラボ店ということみたいですね。

料理は、基本的に15000円（税・サ別）のおまかせコース一本。
この日の料理は、以下になります（頂いたメニューの表記です）。

＊望郷　－アミューズ
＊甘美なる憂愁　ーフォアグラ　海老　カカオ
＊冬の風物詩　ー香箱蟹　白子　シェリービネガー
＊清澄　ーシャンピニオン　軟水　能登塩
＊荒波を乗り越えて　ー寒鰆　天然昆布　かぼす
＊里山里海　ーあんがとう農園大根　発酵海藻バター
＊はんなり　－自然放牧仔牛　紅はやと　いしる
＊森の中に包まれて　ー天然茸　蕪　コンテ
＊揺れる想い　－土佐ベルガモット　大根　洋梨
＊新たなる旅路　ー発酵舞茸　赤菊芋
＊三つのパラフレーズ　－卵　バターナッツ　味醂
＊小菓子　カフェ

えーと、まあ、点数から想像して頂いてると思いますが、私は合わなかった・・・。
素材の力を、削ぐ方向削ぐ方向にイジっている感が半端なく…。
調味に依る味の要素（五味）が割合はっきりしていて、それが皿の中でケンカしていて、素材感を損なっているというか。
もっと素直で良いのにな・・と思う。
もしくは、味の調和ということを考えても良いのに・・とか。
あ、あくまで個人的な感想だし、絶賛の方も多いので好みの問題ですが。
結果、自分にとって美味しい以前の皿が多かった。
何度か書いたことがありますが、皿の中でのバランスって、気になる方なので。
またデセールが始まってから、間に簡単な料理みたいな皿が出たりと、コース構成的にも微妙・・・（変則も納得感があれば良いけど…。）
美味しかったのが、最初のアミューズと最後のプリン。
普通レベルだったのが、肉料理。
それ以外は、まあ・・・。
なお、ということでコース料理全般アレだったのですが（あくまで個人的にです）、ワインを合わせるとまずまずな感じにはなりました。突出した味の要素を、ワインが包み込んで欠点（こういう書き方でごめんなさい）を隠してくれるというか。
そういう意味では、ペアリングはかなり良かったというか、助けられました。
また、なぜかパンなどの食事系は全く出ないので、これも微妙な人はいるかも。

サービスは、非常にしっかりしてます。
適度に絡もうとしてくれるし、愛想も良い。
それでいて、一定の距離感や節度がある。
素晴らしいと言えます。

ということで、料理は好みが分かれそうですが、雰囲気とサービスは誰でも素晴らしいと思うのではないかと。
記念日とかには良いのかも知れませんね。料理の演出も凝ってるし。

ご馳走様でしたー。

以下、料理の詳細です（辛口で申し訳ないですが、あくまで好みに基づく個人的感想ということでご容赦ください）。

＊望郷　－アミューズ

最初に、シェフの出身地である金沢近くの能登で飼育されたホロホロ鳥を使用したアミューズ。
同じく能登の伝統野菜である中島菜を混ぜてクレープ状にしたものを巻いて食べます。
他に紅芯大根とかも。ホロホロ鳥の出汁やスイートチリソースも入れて。
これは美味しかった。ホロホロ鳥自体が美味しく、中島菜の青みがホロホロ鳥の旨みを良い具合に持ち上げてた。

次に、葡萄の枝にアミューズを乗せたものが登場。まさに盆栽にアミューズが乗っており、この辺りの演出はスゴイ。
別にプレートに乗せられたものが3種で。合計4種。
サイダービネガーを合わせた小さなアップルパイ、椎茸を下に敷いたフグのカルパッチョ、ロックフォールを入れて味噌を乗せたコロッケ、海藻を混ぜたよく分からないものなど。
これらは普通な感じで。あ、カルパッチョは美味しかった。

＊甘美なる憂愁　ーフォアグラ　海老　カカオ

此方のスペシャリテだそう。必ず出るとか。
コンフィにしたフォアグラ、フルーツ(この日は柿）、高海老（甘エビっぽい海老）をチョコレートソースやカカオニブと一緒に食べる。全ての素材を一緒に食べるのがコツだとか。
フォアグラの脂の甘み、フルーツの果糖の甘み、甘エビのアミノ酸の甘み、と異なる甘みを一緒にして食べることで複雑性を・・・という意図は分かる。
がっ、甘みのレベルが合ってないので、バラバラ感・・・。
またチョコレートソースと海老は、香りの点で非常に合わないと思ったし（個人的感想です）。
カカオニブの苦みも、上記の甘さには逆効果な感。
ということで、皿としてのまとまりを感じず、それぞれのパーツはまあ普通なので、うーんな感じ。

＊冬の風物詩　ー香箱蟹　白子　シェリービネガー

食べられる時期が短い香箱蟹。
シェフの出身地金沢でも名物。
これを白子クリームと詰めて、シャリ―ビネガーで酸味を付けて焼いた、蟹グラタンちっくな皿。
金箔が金沢の名産なので、金のザブトンに鎮座し、金のスプーンで頂きます。
演出は抜かりないですな。
で、その香箱蟹は、表面の焦げ由来かの苦みが強くて、蟹の甘みが削がれている感。
白子の濃厚も、蟹の風味を超えてる。
ということで、これも調理が素材をアレしてる感。
うう・・・。

＊清澄　ーシャンピニオン　軟水　能登塩

マッシュルームと水と塩だけで作ったスープ。
シンプルですが、マッシュルームの菌的臭いが前面で、旨味はそれ程でも無くて、ちょっと苦手・・・。

＊荒波を乗り越えて　ー寒鰆　天然昆布　かぼす

今が旬で脂が乗ってる鰆を、ガストロパックで塩分などを染み込ませて提供。
身がフワッとして、鰆そのものの仕上がりは素晴らしい。
それに海藻バターを付けるのですが、脂の乗った鰆にバターは過剰で油っぽい・・・。
なのでバターは要らないのですが、それだと脂の乗った鰆に対しての調味が足りず、鰆自体の脂っぽさが残る。
難しいな。

＊里山里海　ーあんがとう農園大根　発酵海藻バター

口直しだそうです。
色々な大根をキューブ状にして、鳥出汁（フォン・ブラン）で煮てます。
発酵海藻バターを絡めて。
大根自体は美味しいけど、バターが絡むので大根の優しさよりもバターの油感が後味に残って、これも大根の風味が勿体ないなと。口直しなら、もう少しさっぱりしてる方が良いし。

＊はんなり　－自然放牧仔牛　紅はやと　いしる

8か月の仔牛を煮込み、下にポテトピュレで、仔牛・七面鳥・いしる（能登の魚醤）で取ったスープを掛けて。
これはまずまず美味しく、ホッとした。
仔牛（8か月）の割には旨みがあって、成牛のような味。
煮込んでいるけど旨みが逃げずに、牛肉の旨みがキチッと味わえる。
特別なわけではないけど、普通に美味しいのが嬉しい。

＊森の中に包まれて　ー天然茸　蕪　コンテ

蕪を90℃30分煮込んで、キノコのフリカッセを詰め、上にコンテチーズ。
蕪の葉などのヒュメ(出汁）のソース。
燻製を掛けて。
これも、優しい蕪の風味にコンテは強すぎるのと、燻製も同様。
コンテを焦がした苦みも、蕪には強くてノイズ。

＊揺れる想い　－土佐ベルガモット　大根　洋梨

大根と洋梨のソルベに、ベルガモットを合わせる。
オリーブオイルとグレープシードオイル。
ソルベは洋梨よりも大根の風味が非常に強い。
ベルガモット（柑橘）の酸味も強くて、これも各要素のバランスがどうも・・・。
大根味と酸味が優位な点で、デセール感もあまり・・・。

＊新たなる旅路　ー発酵舞茸　赤菊芋

舞茸とレアチーズのアイスに菊芋のチップス。
舞茸の味がかなりします。
塩みを楽しむという説明通り、これもデセール感はなく・・・。
皿として悪くはないけど、コースならアミューズの次くらいに出て来るのがしっくり来る皿で、流れ的にもノイズ感のある皿でした。

＊三つのパラフレーズ　－卵　バターナッツ　味醂

プリン！！！！
ようやくデセールっぽい皿が！！！
これはプリンとして美味しかった。
肉料理もそうだけど、もう普通のものが出て来るだけで嬉しいという。
5年熟成の味醂を掛けて頂くのも素直に美味しい。
なお、ゲランドの塩やシナモン塩など3種の塩を好きに掛けて塩プリンにして・・ということですが、これは特段要らなかったかなと。好みですけどね。

最後に小菓子として、チョコート菓子と柑橘（金柑？）のパート・ド・フリュイが出て来たけど、これもチョコレート菓子は苦みが強くてどうも・・・。
最後まで、強い味の要素に馴染めず・・・。

以上です。