ニュー加賀屋/歌いあげながら、舐めあげながら : ニュー加賀屋 新橋店

「すみません、ウィスキィのボトルありますか ?」
「ウイスキーノボトルワナイデス」
「こないだ来たとき、向こうのおじさんが出してくれましたよ」
「スミマセン、チョットオマチクダサイ」

そう言い残してメガネの女の子が立ち去り、おじさんのところへ行くのかなと思ったらanotherメガネっ娘にchange !
その娘が先輩かどうかは不明だが、日本語力が上回ることは明らかなよう

【そのこないだ来たとき】

コドナ 「すみません、ウィスキィのボトルありますか ?」
おじさん 「……　ありますよ」
コドナ&ぼく 「いくらですか ?」
おじさん 「…… 4,800円です」

こんな大衆居酒屋の標本のようなお店で、角のボトル4,800円なんて宣うとはいい度胸 !　と訝りつつ、でもとてもボトルキャビネットなんて言えない代物のカラーボックスの中に、そのボトル1本寂しく佇んでいるということだけを頼りに、品書きにも無いのにボトルありますか ?　なんて聞いちゃうのも如何なものかと思いつつ、でも聞いてあるって言われちゃったなら、もう頼むしかないじゃん ……
と思って一通り飲み食いし、おっかなびっくりお会計してみたら、意外にも思っていたほどにはいってなく ……

<R5.6.1>

「ニュー加賀屋」

「おれたちは古いけど新しい !」

そんなジャパニーズ・スラッシュメタル・バンドの古(いにしえ)の名言の耳鳴りに苛まれながら、訪問2回目の“new”にて、少し遅れるというコドナを待ってる。
anotherメガネっ娘が「ウィスキーハイボールノボトル、アリマス」　と言って消えていったので、“ハイボール”のボトルって何 ?　って一寸警戒したが、こないだと同じくちゃんと角のボトルが出てきて、先ずは安堵。
それでも、先日はおじさんが咄嗟に余裕をみて高めに言っただけで、実際もっと安かったのではないか、また、それ以前に、ほんとうはウィスキィのボトルでなんかやってないんぢゃなかろうか、どちらでもいいが先日と統一感のある価格設定でやってくれれば良いんだけど、なんて未だ疑いながら、既に2つ並んでいるおとうしの正体を図りかね、その妖しげなやつはコドナに食わせてしまえばいいと、一旦横へ除けるぼく

今夜は、こないだから気になっていた“ソーセージのステーキ”というのが魚肉ソーセージか何なのかを突き止める為、またそれをコドナに気付かれぬうちに隠密行動で一人でやっつけてしまうべく、早速注文。テンポよくやって来た皿は想像をはるかに凌駕する、「ワンパクでもいい、たくましく育ってほしい」　系の立派なやつ !
ロックグラスで !　とお願いしたそれが肉厚不透明でかなり持ち重りすることだけが不服であったが、兎にも角にも、今のぼくに必要なものがすべて揃ったことに満足し、上機嫌でビッグボアの肉のsurfaceにマヨネーズをたっぷりとなすり付けていく

ほどなくしてコドナがやってきたので、大切にとっておいたふりをして、本日のおとうしを2人分あげる。彼はそのことに感動し、溢れる涙にもう味も何も分からないようで、魚か何か分からないと言いながら食べ始める ……

「後ろの女性たちが、おれたちのボトルに興味示してますよ ♪」

私の背後に陣取っている近所の職場同僚チームと思しきうちの女性ふたりが、私たちのボトルに反応しているらしかったが、ぼくは、後ろからだとぼくのハゲがバレる可能性があると思って、もう気が気ぢゃない !

ぼく 「そういえば岸田首相の奥さんが湖池屋のお嬢様だって、誰かがどこかで言ってた気がするけど、これはカルビーなのね ?」
コドナ 「これは間違いなくカルビーのですよ」

そして何か見えない力に導かれるようにして、ポテトチップが到着 !
「今、何故(400円も払って)ポテトチップなのか ?」　という土井たか子さんの決めゼリフがまたしても耳鳴りとなって襲い掛かって来る中、コドナがそれを「カルビーのだ !」　と見破るが、しかしぼくは、それをにわかには信じていない。
湖池屋さんのほうがおいしいということでは意見が一致しつつ、野郎二人、ゴリさんのテーマとスコッチのテーマがどういうメロディだか分からなくなり !
暫し歯痒い思いに打ち拉がれていたが、ポテトチップという真っ当且つ秀逸なフランス料理を堪能していけば、宮本信子の秘めたる性的魅力などにも話がおよび、宮本信子が何故「マルサの女」ではそのsexualを封じたのか、そんなこんな、テーマも変遷してゆく ……

「マスカレポーレチーズって何かな ?」　と宮城出身のコドナに聞いたってレーザーディスクは何者だ !?　の世界だが、兎も角“マスカレポーレチーズクラッカー”と“ハムエッグ”が舞い降りた !
なんだろう、このハチミツのような飴色の樹脂がかかっているのは ?　と思ったらそのまんまハチミツ。一方のハムエッグにはしょう油をたっぷりと回し、その味わいのコントラストをさらに引き立たせていく !
と !　そのクリームチーズと蜂蜜とのあまりに耽美なハーモニーにコドナが発狂しはじめて、「おらこんな村イヤだ !　東京へ出るだ !」　と暴れはじめるのを、「東京へはもう何度も行きましたね !」　と必死に抑え込みつつ、大人しくなるのを待ってようやくトイレに立てたぼく

「デ～デレッテッテ～、デッテ～テレレ～ ♪」

そしてぼくは、勝ち誇ったかのように憧れの人の歌を口ずさみながら席に戻ってきた。そう、ぼくはおしっこをしながら不死鳥のように、滝隆一刑事のテーマ曲を思い出したのだ !

「デ～デッテレ～デ～デッテレ～デ～デッテレ～デ～デ～　　デ～デッテレ～デ～デッテレ～デ～デッテレ～デ～デ～　デ～デレッテッテ～、デッテ～テレレ～　デ～デレッテッテ～、デッテ～テレレ～ ♪」

このときばかりはもう、自分を褒めてあげたいと思った !
気付けばぼくたちは、もう夢中でスコッチ刑事のテーマを歌いあげながら、空になったチーズクラッカーの皿にこびりついたハチミツを人差し指で拭って、狂ったように舐めあげはじめる !
歌いあげながら、舐めあげながら、いつまでもいつまでも ……
気付けばコドナの人差し指の皮膚がふやけて破れ、そこから血飛沫が舞いはじめていたが、ぼくはもう恍惚の彼をとめることは出来ず、運動靴を履いた刑事の暴力的な凶悪犯逮捕を笑顔で見守る英国紳士のように、ただ朗(ほが)らかに見守ったのだ

「長澤まさみだ !　長澤まさみが来たよ !」

向こうのテーブルに、緑色のズボンを履いた長澤まさみ(似の人)が女子二人で入って来て、ぼくの心がにわかに揺れ動く !
いや、女優としての長澤まさみさんを常日頃からぼくは、テレビCMで演技力を使い果たしたおっぱいも出さない体当たり演技女優 (こら～ !) と批判してしまっているが、居酒屋で飲んでいるところへ近くのテーブルに着いたともなれば、それはぜんぜん別の話 !!
即刻あの緑色のズボンに着目するのだ !　と半狂乱になってコドナに訴えるも、人差し指からボタボタと流れる血の止まらない彼は、何故か興味がないよう ……
おそらく向こうの緑色のズボンの長澤まさみが、彼理想の永遠のアイドルである車寅次郎の妹とは若干タイプが違っているからだと思われるが(笑/若干ぢゃね～だろ !)、心の中で、だからお前は結婚できないんだよ !　と、友のそんな人間的欠陥を親身に憂いてみちゃったりして ……

―― それ、おれもな !

そして酔うほどに、ゴリさんのテーマもはっきりと思い出してpower upしていくぼくは、今初めて思いついたように何食わぬ顔でLGBTH(LGBTハゲ/どうかハゲもそこに入れてはもらえないでしょうかね)問題を論(あげつら)いはじめた世の中を、とことん救えない世の中だとあらためて憂う。
沖雅也さんのときにはそれをぜんぶ“無かったこと”にしたおれ以外の日本人全員、1億1,999万9,999人が、今頃揃ってなに言っちゃってんの ?　ってね

―― 恥を知りなさい !
　　　by 三原じゅん子さん

【本日の献立】
・お通し @700 *2
・氷 @450 *3
・“その他”ボトル @4,800
・ソーセージステーキ @430
・ポテトチップス @430
・マカロニグラタン @550
・マスカレポーレチーズクラッカー @480
・ハムエッグ @430
・ミックスピザ @630
・カニクリームコロッケ *2ヶ @550
〆て9,450円也。

―― ウィスキィボトルがほんとうに4,800円だったことが、寧ろ不思議。おじさん、疑ってごめんなさい ! (笑)