Deep fried breaded Oysters : 大衆割烹 三州屋 銀座本店

特に気に入りの店、という訳ではないけれど、何者でもない自分でいたい、顔の知られていないところで飲み食いしたい、という匿名性？　を求めるとき、思い出したようにふらりと暖簾をくぐる。

じぶんどきだが一回目のピークは越えたのか六分の入り。

最盛期？　のやや殺伐とした空気からは逃れられていて何より。

ひとりですがと入っていくと、店奥のテーブルに案内される。

一本点けてもらい、幼稚園のクリスマス飾りのように壁いっぱいに散りばめられた品書きの短冊を眺める。

とくに「うまいものを食ってやろう」という人情ではなかったので

・ほたて刺身
・カキフライ

いつも思うのだが、意外に（失礼！　）コチラ、アゲモノがいい。

粗すぎでも細かすぎでもない衣を無造作に纏ったカキフライは粒が大ぶりでありながら加熱具合は適切。鮮度も悪くなく噛み締めると塩気と旨味が口腔に広がり、レモン汁と辛子だけでコンディメンツいらず。

あ、けっこう旨いねココのカキフライ、一部で人気があるのも分かるなあ、とパクつきながら、千切りキャベツの横に添えられたレタスサラダに掛かる、ドレッシングのアーティフィシャルぶりに舌が凍りつき、

南無三、外してもらうの忘れたゼ！

と、毎度おなじみな感慨を持たない、事もない。

尚、具体的な御菜の詳細は、別掲のシャシンないし、シャシンのコメント欄に当たって頂きたい。

長旅続きで外食ばかり、自宅でのんびり包丁を使う暇もなく、とても「舌が疲れて」しまい、凝り過ぎない、格好をつけていないもので酒食したくなり、そういえば…と、かなり久しぶりに訪問。

いつ入っても席はいっぱい。

銀座のなかで今や絶滅危惧種的「食堂料理」を気安い値段で出してるので流石に大人気。

そのお客相手に注文を取り、厨房に通し、お運びをこなす姐さまがたには、人数配置が不十分なのか、たまに疲労と倦怠が見え隠れし、声をかけるのをはばかってしまうような機会に直面する事が少なくなく、これがしばらく訪問を躊躇わせていた事を、端のカウンタ席についた途端、思い出す。

…が、今回ひとり、魔夜峰央先生が描く漫画「ラシャーヌ！ 」に出てきそうな南アジア系の美人さん（いや、ホント！ ）が加わっており、この子の気働きのお蔭で、「店にいるのがとても申し訳ない」ような気になる空気が和らいでいたことに、ホッとさせられる。

初手から燗酒、ホワイト・クレイン（仮 。安定の「イ゛ーーーーッ！ 」とくる味。そして看板料理の「鳥豆腐」

出汁で鶏モモのブツ切りを軽く、多分、落し蓋を用いて煮て、頃合いに角切りの豆腐と春菊をぶち込み、塩とお醤油などで味付けしただけのもの。

正直、家庭でも比較的簡単に真似っこ出来そうな代物であるが、豆腐や春菊を入れるタイミングに勘どころがあるのであろう。それぞれが適切な煮え加減と歯ごたえに調整されているさまに、ふむ、これこれ、となる。

鶏と出汁で十分味が整っているので、一緒に出てくるお醤油の「つけだれ」は不要。

一連の「儀式」を済ませたところでビールにスウィッチ。

「ラシャーヌ」嬢に「小さいの、ある？ 」と声をかけると、サッポロの小壜がやってくる。善き哉。

小壜にはイカフライに決めている。

決めているのに理由はない、あったとしても忘れてしまった。

もしあるとすれば宇宙怪獣バイラスを急に思い出し、しかし大映映画に出てくるガイジンのひとたちは大人も子どもも、妙に日本語が上手かったよな、ああ、ありゃ吹き替えだったか！ と小屋で観て以来50年近く経ってようやく気付き、我が粗忽に思い至り、とは、2013年封切りギレルモ・デル・トロ監督「パシフィックリム」に登場したカテゴリー3怪獣「ナイフヘッド」が、先のシリーズに出てきた「ギロン」のインスパイアであったこと含め、良い子のお友達にはまるで #ぽかん とくる話だから黙っている。

そう思いながらMs.Bluntnessというか、白洲次郎翁の隠宅のあだ名をそのまま差し上げたくなる、「ラシャーヌ」嬢とは別の姐さまが運んできてくれた皿の上に着目すると、薄い身に衣をつけ、ざっと高温で揚げているからかくるくると丸まっており、決して見た目秀麗という訳にはまいらぬが、酸化の進んでいない、意外にも（失礼！ ）性質（タチ）のいい、ラードの香りが食欲を駆り立て、傍の千切りキャベツにウスターシャソースをふりかけ、これを薬味に身の方には味付けをせず口に運ぶと、ザ・イカフライ、純粋タンパク質のよろしさと歯切れの良さにほぅ、となり、気分が乗って小壜をもう一つ、「ラシャーヌ」嬢に持ってきてもらうと調子が上がり、しかし相変わらず、キャベツと一緒についてくる、レタスサラダのガロニはいかさない（死語 な、と、口の中で罵りながら、ふと横を向くと、隣の席に案内された、近所のアパレルで働いているらしい小姐が、口いっぱいにどんぶり飯を頬張りながら、盛りのよいナワノレン的な鯵のタタキに積極的に箸を伸ばしているさまが目に入り、そう、こちらはこういう人々の、ナマでリアルな需要に応えている店なのだから、接遇なんて #いんだよ細けえ事は！ と、改めて納得しつつも、「ラシャーヌ」嬢見たさに、そのうち又、裏を返すんじゃなかろうか、と、鼻下の筋肉を弛緩させない、事もない。