一服の涼と、「ざわ」。 : カフェブリック

タベカレーさんでミールスを味わってから、クレアモールを丸広方面へ歩いて行った。
日傘が無ければちょっと辛い、だので早々にコーヒー休憩することに。

そうだ、カフェブリックさんが良いね、と向った。

お願いしたのはアイスコーヒー。
ただ漠然と頼んでみると、ご店主が「これで味わってみてください」と、メキシコのアナエロビックナチュラルという品種をすすめられたのでそちらを。
説明書きには「長時間発酵による丁寧な熟成とワインのような芳醇な香りと果実味」とある。
あれ？この嗜好の読みは、先日行ったリメナスコーヒーのと同じじゃないか。

涼やかなグラスに冷たいコーヒー。ストローは無くても大丈夫、むしろ無い方が良い。
成る程、最初に感じるのは程よく厚みのあるコーヒーの香り、後味にぱっと果実の華やかさと爽やかさ。これはやっぱり、甘味もミルクもいらないやつだ。
一緒に頼んだブラウニーの甘苦さにもちゃんと沿う。

「コーヒーは発酵食品ですから」と、たったひとこと仰った老練なご店主。
映画「かもめ食堂」で、美味しいコーヒーを淹れる時のおまじないの台詞「コピ・ルアク」だな、と、思い出した。

個人的な感想だけれど、自称「コーヒー通」は薀蓄が長い。
ところが美味しいコーヒーを味わう前の長い薀蓄は「感覚を鈍らす邪魔」でしかないのだ。
演奏を聴く前のプログラムの「誰についてどこで勉強した」とかいう「無駄な釣り書き」にも等しい・・・つまり、「聴けばわかる」のに、わざわざ釣り書きの先入観頼みで「対価を払って聴く価値があるかも」という心理状態へ誘導するのは奏者に自信が無いからだ。

私自身は釣り書きを出して演奏した事は一度も無い。かといって自信も無いけれど、お世辞交じりの反応は無いことが前提となる。
演奏後に一瞬の静寂があり、反射的な拍手の後に臨席する聴取者と言葉を交わさずにはいられなくなる、所謂「ざわ」を緞帳が下がるまでの間に聞けたらその演奏は成功。
食べた後一瞬無言になり（つまり味わい）、後に出てくる本能的な言葉や行動と同義かと。

成長を促したいのであれば、それだけでいいのではないだろうか。

年末の家の物の買い物と御年始のご挨拶の買い物に丸広へ。
買い物の合間に立ち寄るのはここ。
相変わらず落ち着いた静かな佇まいに、ほっとする。

お願いしたのはココア。
ミルクパンでくるくると温める、マスターが丁寧に仕上げたのが、カップアンドソーサーに乗って来る。
砂糖は入っていない旨を聞いて、シュガーポットからお砂糖を2杯、甘めでいこう。
ほど良い苦みのカカオの香り、ミルクの優しい奥行き、うっすら膜が張るなとスプーンでくるくるしていると友人からメッセンジャー。


ご馳走さまをして会計、店の外、近所に住むお土産を携えた友人と丁度合流・・・仕事に向かう前にささっと「おでん」をお裾分けしてくれたのだった・・・ああ、ありがたや。
ホントだったらホムパとかしたいよね、なんて世間話しつつ丸広へ向かう。
簡単な掛け紙でお願いしたお年賀取りに行こう・・・来年も資生堂パーラーのプリン、だって一番好きなもので御年始はごあいさつしたいもの。年明けは松の内から仕事だしね。

風が冷たく寒い日、家に帰ったら仕事場のお向かいのおじいちゃまにいただいたお庭の柚子をお風呂に入れて柚子湯にしよう。

こうして地元にゆっくりと馴染んでいくのがココアの甘さの余韻に乗ってじわっと嬉しい、年の瀬。

帰宅すると、サンタクロースプレゼント配送センターから配送予定お知らせメールが入った。
「お届けは明日の朝」とのこと。
きっと担当は「戸中井さん」という方からだろう。

ほんと、こういうの、私、食べたかった。
薄く焼かれたパンケーキ、その上にはぽこっと、マロンクリーム、渋皮煮が１個。

メニュー写真は2枚だった。
その前に清兵衛でラーメン食べたばかりだったので、
「あの、このパンケーキなんですが、1枚でもできますか？」・・・そっとお願いしてみた。
「大丈夫です」とのこと。
静かに、ゆっくりとお答えくださった老練なご店主は東京駅ステーションホテルで長年勤めあげられたそう。
「ああ、すみません、ありがとうございます」
「できる（可能である）ことなら、何でもいたします」と。

そっと、支度にとりかかっている音がし始めた。
コーヒー豆を挽く音、パンケーキを仕上げる音が店内のクラシックなジャズと一緒に、耳に心地よかった。

やがて、焼き立てが目の前に。
ぽっくりと控えめに盛られたマロンクリーム、あじや存在感はしっかりと。
周りにたらっと、キャラメルソース+胡桃の醸し出す上品さ。
一緒にお願いしたのはエチオピアモカコーヒー。
表面は微かにさくっと、生地はこの厚さでも、もっちり。ぶわっと膨らんだ安い粉ものにありがちな、添加物の苦みが一切無い。ほんと、こういうの、私、食べたかった。

他のお客さんがいなかったので、ご店主と暫く東京のこと、東京駅の事などお話しさせていただいた。
おのぼりの私はただただ憧れた東京駅の新旧駅舎。
一張羅の着物を着て所属団体のパーティーに行くとき、演奏会の為にお揃いに誂えた着物で永田町の劇場へ向かう時、この駅舎を背景に降り立つと自然と気分が華やぐのだ。何でって、だって私、生粋のおのぼり、だし(笑)。

丁寧に作られたホテルメイドパンケーキが会話を繋げ、引き立て淹れたてのコーヒーが味わいを深めてくれた。

来年は是非、この駅舎から新幹線のぞみ号に乗ってみたいなという、仄かな静岡出身者の夢なんかを語りつつ。