川口洋食再び : キッチン．トモ

ここのトトロ、もとい、ここのところスイーツレビュアーの道をひた走ってきたが、たまにはスイーツ以外のレビューもしなくては。

というわけで、去年食べにきたチーズ入りメンチカツの味が忘れられず、３月のとある休日の昼にリピート訪問した。どうやらここのメンチカツに心を奪われてしまっているらしい。

今回は車で訪問。駐車場の場所までは下調べしていなかったので、到着後お店の方に聞いてみた。ちょっとわかりくいが、お店を背にして右斜め前の駐車場（道路をはさんだ向こう側）の１番か２番に止めれるそう。車で行かれる方はご参考に。

お昼時とあって、自分たちの前に１組の客待ちがあったが、店先に置いてあるメニューとにらめっこしてるうちに中に入れた。あいかわらずこじんまりした店内。姉妹を連れてカウンターで仲良く同じメニューを食べるお母さん、息子さんと二人連れでビール片手に新聞を読むお父さん、仲よさげに談笑する熟年夫婦、食い意地の張った自分ら夫婦の４組でほぼ満席。自分たち以外はどなたも通い慣れた地元といった雰囲気。めいめいが寛ぎながらお昼のひとときを過ごしている。

今回は、カニクリームコロッケ＆イカフライ、メンチカツ、鳥からあげ、ハンバーグ、しょうが焼き、チキンソテーの６つの中から２つのおかずが選べ、ライス・味噌汁・漬物がついてくるお得セット「トモスペシャル」（1,000円）から、当然のごとくメンチカツとあとは悩んだ挙句「からあげ」をチョイスした。

まずあっつあつの味噌汁が運ばれてくると、瞬く間に湯気が広がり、それとともに出汁の良い香りが漂ってくる。その香りにたまらず一口すすると、薄口だが、出汁の良く利いたお汁が口の中に広がる。しっかり加熱してあるところに丁寧な仕事ぶりがうかがえる。

やがて運ばれてきたおかずは、普通ならワンプレートのところ、小さめのお皿に別々に盛られている。なんとも家庭的でほほえましくさえ思う。再会したメンチカツは、サックサクの食感の衣に角のとれたやさしい味のソースが絶妙にからみ、旨みたっぷりの肉汁とあわさって期待通りのうまさ。ただし「からあげ」のほうは自分にとってはやや塩気が強めで、あまり特徴は感じられなかったかも。

ついでにかみさんが注文したトモスペシャルの「ハンバーグ」と「カニクリームコロッケ」もちょいと味見させてもらった。ハンバーグはやはり肉汁のうまみとデミグラが相性ばっちり、カニクリームはさっくさくのとろっとろで、メンチと同じソーズが絶妙にからむ。どちらもソースがいい仕事している。

あまりたくさん人数が入れないところだけはアレだが、この点をのぞけば、家庭的で、また来たいと思わせる魅力の詰まった洋食屋さんだ。

というわけで、評価は「誰にでもおすすめ」の３．６を維持。

平日の夜、埼玉県でも一番東京寄りのほうにある「川口元郷駅」に降り立った。この地で５０年にもわたって人気洋食店を営む「キッチン・トモ」さんに行くためだ。周囲をぐるりと見渡すと、東京にほど近いベッドタウンだけあって、たくさんの大型マンションが林立している。

そんな景色を横目におもむろに歩き始める。駅前の大通りをしばらく進んでから横道に入り、暗くて人影のない路地をジグザグに数分ほど歩く。やがて、暗がりの先に、暖かみのある黄色の光が見え始める。そこが「キッチン・トモ」さんだ。

到着すると、外見は通常の店舗と同程度の店構えに見えたが、入ると奥行きが意外に狭く、３人掛けのカウンターが１セット、１人用テーブルが３つ、３人用テーブルが１つ、４人用テーブルが１つあるだけの小さな店舗だった。このテーブル構成は、お一人様大歓迎ということだろうか？それにしても、この規模で５０年続くということはすごいことだ。

そんなわたしも今日はお一人様。しかもお客さんはわたし一人だけ。とりあえず一番奥のカウンターに腰かけた。

メニューを手に取ると、豚肉料理が１５種類、牛肉料理・鶏肉料理・スパゲティー・オムライス・フライなども数種類ずつあり、代表的な洋食はほぼ押さえてある様子。どれもおいしそうなので「これから悩みながら決めようか」と思っていると、ホール係のお母さんが「こういうのもありますよ。」と黒板に書いたメニューを１つ持ってきてくれた。メニューには載っていない食事を日替わりで出しているらしい。見ると「チーズメンチ＆目玉焼きウインナー定食」と書いてあり、なんとも魅力的な組み合わせだったので、さっそくこれを注文することにした。お値段は、ライス・味噌汁・漬物付きで８５０円。

リラックスしながらしばし待つ。腰かけているとなぜか居心地の良さを感じ、さらにどんどんリラックスモードに入っていく。

やがて目の前にいっぺんに料理が運ばれてきた。

置かれた汁椀の味噌汁からカツオ出汁と味噌の香りが入り混じった良い匂いが漂う。そして、多めのライスに、大振りで分厚いメンチカツとサラダ、別皿に盛られた目玉焼きとウインナーとスパゲティーといった洋食のスター共演に思わず口元がほころぶ。洋食ではないけれど、小皿に乗ったぬか漬けも何気に嬉しい。

まず、あっつあつの汁椀をやけどしないように両手の指先だけでちょいと持ち上げ一口飲んでみる。味噌の濃度は薄目だが、しっかりと出汁がきいていて、出汁で飲ませるタイプの味噌汁だ。

次に目玉焼きの下に半分隠れているスパゲティーを引っ張り出して頬張る。時々無性に食べたくなるあのナポリタンの味だ。懐かしさがどっとこみあげてくる。

そろそろメインを味わってみなくては。箸で一切れを２つに割ってみると「サクッ」と小さな音がする。これを口に放り込むと、コクがあるけれど優しいまあるい味のソースがほんのり甘いメンチとからんでとてもおいしい。優しい味に心もほっこりしてくる。さらに今度はチーズの入った大き目の一切れにかぶりついてみる。「ザクッ」という音がすると同時に「じゅわ～っ」と肉汁が染み出てくる。そしてこれにチーズが交わるや否や、ぎゅ～っとコクがでてきて、旨みが増し、ソースとからんだ部分には生クリームを使ったよりももっとクリーミーな味わいが生まれてくる。

「し・あ・わ・せ」の一言しか出てこない。チーズメンチいい！

目玉焼きウインナーのほうはどうだろう。白身にうずもれたウインナーを箸で切って白身ごと頬張る。想像通りの間違いないおいしさ。酸味をきかせたケチャップが印象的。

ぬか漬けも、つかりすぎずあっさりすぎず、ちょうど良い感じ。お母さんの手作りかな？

かくして満足のうちに完食した。ボリューミーな料理にお腹いっぱい。そして家庭的で懐かしいおいしさに、心もしっかりと満たされた。

スペシャルな日に工夫をこらした斬新な料理をいただくお店もいいが、慣れ親しんだ家庭的な料理を、肩肘貼らずにおいしく食べれるこのようなお店には、これからもずっとずっと残ってほしいものだ。

評価は「誰にでもお勧め」の３．６としておこう。