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痺れる看板
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小笹すし銀座店 外観
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スタート(黄色いのは生からすみ)
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まず平目の昆布締めから
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小肌刺し。お見事すぎる!!
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海老の塩焼き
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昆布締めキス
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おぼろ小肌
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赤貝
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急いで食べたくてピンボケになった漬け鮪(笑)
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雲丹・ウニ・海栗・海胆♪
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蒸し鮑(ツメ)
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肝ソースのせカワハギ
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鯵
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煮蛤
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名物の穴子
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海苔巻き
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ツマは別皿
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ガリ
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はま吸い
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旧銀座店からの額
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この道(出世通り)の間にある
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幡ヶ谷のマニアック中華「龍口酒家」のご主人である石橋さんに面白い話を伺いました。
「中国歴代王朝の文化が後世に残りにくいのは、君主が変われば全部燃やされてしまうからだ。しかし料理は違う。お抱えの料理人がそのまま次の王朝に引き継がれるので、中国文化の真髄は宮廷料理の中に脈々と引き継がれている」と。
なるほど、面白い。
「そこの文化と歴史を知りたければ、そこの料理を食べろ」という話の正当性であり、根拠ですね。
国内・海外に拘わらず、私は旅行に出かけると必ず現地の料理が食べたくなる衝動に駆られます。
料理は作り手の独善で出来上がるものではなく、食べる側がそれを受け入れて初めて成立するものであり、作り手と食べる側の高みを求める姿勢が、やがてその土地で文化や価値へと成熟していく壮大な話として私は受けとめたのでした。
京都の味には京都の文化があるように、
浅草の味には浅草の粋があるように、
銀座の味にも銀座の風格があるということです。
銀座と言う街のブランドが「一流」であることに異論はありません。
「ギンザ」という名前自体が日本有数のトップブランドであり、時間をかけてその格と品位が醸成されてきました。
街のいたるところに美術商や画廊があり、宝飾品や伝統芸術品などが犇(ひし)めき合っていますね。
ここに集う多くの方がショッピングを楽しみ、用事が無くても街をぶらつきますが、十分、街を意識していると思います。
政財界や文化人をはじめ、各界のトップを走る人たちが銀座の歴史と文化を築き上げてきたのですが、日本一の不動産コストも手伝って、今なお憧憬の地であり、料理人にとってもその意識は変わりません。
「あら輝」や「バードランド」「さわ田」を見ればわかります。
銀座と言う箔をつけることがどれほど名誉でステイタスなことか。
なにせ料理人は、持てる能力と弛まぬ努力を惜しみなく客人に披露しなければ、のしかかる不動産コストの恐怖に飲み込まれます。
そして食べる側も、持てる能力と弛まぬ努力を惜しまず人生に注ぎ込まなければ、高額な支払いをずっと続けることはできません。
つまり、飲食の世界では一流になればなるほど「芸術家とパトロン」のような間柄が成立していくことになります。
特に銀座ではそれが顕著。
パトロンのような方々が、国の文化伝統や芸術に限らずその時代時代の「食の流れ」を担ってきたことは疑いようのない事実なのです。
で、私が「小笹寿し」のレビューを書く理由はそこにあります。
食べロガーの同志諸君!
実は「銀座」の古今を知ることが「日本における食文化」を知る手っ取り早い近道であり、食べロガーならば街の好き嫌いや値段の高い安いに関係なく、銀座は避けて通れない重要エリアであると肝に銘じてください。
それでは次の話として。
「あんたずいぶん偉そうに言うけど、んじゃあ、どこで何を食べればいいのさ?」ということになりますね。
僭越ながらフレンチの前に、まず「小笹寿し」を私は推挙したいと思います。
正直話しますと、今の私には大変場違いなお店です。
分不相応と言う言葉がこれほどぴったり来る場所はないでしょう。
コンスタントに来店することは出来ませんし、たまたま自分の誕生日祝いとしてリクエストしました。
金額が高額という話もありますが、それ以上に自分が試されます(苦笑)
ぴりりと張りつめた空気、重厚な世界観、恍惚と至福、成功者と思わしき常連客との戯れ・・・。
これらすべてを余すことなく楽しみ味わえるかで、自身の器量と懐の広さがわかるのです。
この感覚を例えるなら京都の「俵屋旅館」へ宿泊することと、ほぼ同義でしょう。
人は歴史的積み重ねと対峙すると、喋るのが怖くなります。
この店を軽々しく批判することは、相当な経験と教養、そして歴史と互角に渡り合える含蓄がないと恥をかきます。
私は、いかに自分が思いこみや無教養の中でモノを語っているかをまたもや悟ることになりました。
再訪は出世してからにします(笑)
それにしても、私はつくづく幸運なオトコです。
ご主人の寺嶋和平さんは昔気質の方であり、決して饒舌ではありません。
奥方様から「この前、山田五郎さんが取材にきて、銀座百点の12月号にお店の昔話を載せたから」と教えていただきました。
ああ、ラッキー。
そのマニアックな山田五郎氏の文章を拝借しながら、聞いた話を織り交ぜて簡単に「小笹寿しの歴史」を書きたいと思います。
小笹寿しの始まりは歴史の古い下北沢ではなく実は「新橋・銀座」です。
昭和25年(1950年)に朝鮮人を含む三人のオーナーが出資して新橋駅銀座口に創業したのが始まりだと聞きました。
三人のオーナーのうちの一人、寿平八郎が最終的に残り、四年後の昭和29年に西銀座8丁目へ移転します。
いろんな話から、かつてのお店は今の見番通り(西五番街通り)にある酒屋「信濃屋」さん辺りじゃないかと勝手に推測。
新聞記者だった寿さんはその人脈をフルに活かして、世界的建築士ル・コルビジェ門下生の坂倉準三に店舗の設計を、作家の邦枝完二に店名を、日本画の安田靫彦画伯に看板の文字をお願いし、初代板長に「浅草けぬきすし」三代目の藤村宗次郎を招聘しました。
出だしからとんでもない一流ばかりです(笑)
当時の名物は笹の葉で巻く小笹巻きと手巻き寿司だそうですが、やがて時代と共に握り寿司へと変わってゆきます。
お店の変遷を先に説明しますと、新橋駅店(昭和25年)→銀座店(昭和29年)→銀座店閉店(昭和57年)ということになるのですが、いかに繁盛店といえども、職人が辞めれば店は潰れ、継続は容易でないことがわかります。
ここで「小笹寿し」の代名詞とも言える岡田周三氏に触れたいと思います。
昭和40年に19歳で門を叩いたご主人の寺嶋さんはこの岡田周三氏に師事し、大変お世話になったそうです。
岡田周三氏が小笹寿し原宿店を任されたときも一緒についていったそうで、ご自身は昭和44年に横浜日吉にて独立し、岡田周三氏も原宿店が赤坂へ移転したことを契機に暖簾分けの形で下北沢(昭和48年)に開業しました。
それが「小笹寿し下北沢店」の始まりです。
日吉の寺嶋さんはその後どうなったかというと、平成元年に道路計画の拡張で立ち退き。
岡田氏の下北沢店でお世話になりつつ、不動産屋に現在の店舗物件を紹介されました。
銀座の「小笹寿し」復活が悲願だった寺嶋さんは、創業者の寿平八郎に相談。
喜んだ寿さんは、かつて銀座店にあった額などを譲り、新・銀座店開業をバックアップ。
平成7年4月、「小笹寿し」が銀座に復活したのです。
銀座店には紆余曲折の歴史があるのです。
【寿司の総括】
予算を言わず「おまかせ」でお願いしたところ、ツマミから始まり、握りはこちらから途中でお願いしました。
酒代込みで一人20000円ちょっとでしたので、夜のお値段は、肴5点・握り13貫+巻物・お椀で18000円ぐらいだと思います。
肴は、生からすみ、平目の昆布締め2切、小鰭(こはだ)5切、帆立貝柱塩焼き、大車海老の塩焼き。
握りは、鱚(きす)の昆布締め、鯛の松かさ炙り、小鰭(こはだ)、小鰭のおぼろのせ、漬け鮪(中トロ)、カワハギ肝のせ、煮鮑、鯵葱生姜のせ、煮蛤、赤貝、穴子2貫、雲丹、海苔巻きの13貫+巻物です。
上記以外に蛤のお吸い物、ツマ、ガリを食しています。
銀座の老舗寿司屋としてはCPがとても素晴しく、非常にお値打ちであると加筆させていただきます。
まず、一番始めに舎利についてですが、非常にやわらかいです。
水加減間違えたのでは?と思うぐらい(笑)
しかし、珍しく不満が出ない私は、なるほどそういうことかと納得したのですが、その理由はタネの仕事にあると思います。
昆布締めの〆具合、酸っぱさ、塩気、ツメに深く関係しているということです。
今風のあっさりとした生っぽい〆や塩気の薄いタネには固めの舎利がよく合うのですが、メリハリのあるタネには柔らかい米が意外にも相性いいのです。
和菓子のみたらし団子や塩大福も、この理屈なのでしょうか?
モチっとした感覚は、確かに重要なのかもしれないですね。
鰻重の米は硬くないと嫌な私ですが、今度タレとの関係を研究してみたいと思います。
握り方は崩れ本手返しだったと思いますが、ちょっと忘れました。
そもそも米がやわらかいので、握りが上手かと言われればちょっと私にはわかりません。
ただし、握りの提供スピードはすこぶる最適です。
お酢は赤酢だと思いますが、「しみづ」や「ととや」ほど強くアリマセン。
タネの仕事ぶりに私は満足しています。
期待通りであり、特に小鰭(こはだ)にいたっては私の理想です。
しっかりと水気を抜いて生っぽさや臭みを取り除きながら、それでいて身にしっとり感とツヤがあり、酢のまろやかさが引き立つ「江戸前コハダ」が私の好み。
狂ったように人気がある「日本橋橘町都寿司」の小鰭(こはだ)とは正反対のところにあります。
握りではコハダが二枚づけ、三枚づけとそれぞれ出ます。
三枚づけの小鰭(こはだ)には、和菓子のような甘い海老おぼろが載っていますが、それがなんと美味なことかww。
名物に偽りなし。
ジューシーな鯵は「鮨さいとう」や「鮨かねさか」などと同じスタイルであり、カワハギは肝ソース。
白身の昆布締めは、大変丁寧でコクにくどさはなく、技術力をいかんなく発揮しています。
30秒も醤油に浸さない鮪のづけは、「鮨さいとう」と双璧を成す悶絶級の余韻ww。
穴子のパワー、赤貝のとろける香り、煮蛤の主張、海苔巻きの伊達っぷりに、瞬きを忘れて眼が乾きました。
これぞ江戸前寿司の真骨頂。
やばいよぉ、やばいよぉと、心がのた打ち回りました(笑)
【小笹をさらに深く知る】
●握りの全責任は主人にある。
自分が握る。出すツマミを含めすべての料理は自分が責任を負う(チェックする)
当たり前の話ですが。
どっかのお店とは言いませんが、寺嶋さんの爪の垢を煎じて飲んでもらいたいもんです。
●嫌いなものでも、角度を変えれば◎となる。
この店の舎利は非常に柔らかいので硬めが好きな私はかなり警戒しました。
しかし、その考え方自体浅はかであると反省。
最後までよく味わってから感想を述べよ、ということですね。
●絶妙なタイミングが美味しさの大前提。
ご主人とは目が合いません。
話しかけても反応はありません。
しかし、絶妙なタイミングで料理が提供されるため、最高の状態で戴くことができます。
つまり見ていないようで実はよく見ており、聞いていないようで実は話をよく聞いているのです。
●伝統の味は、伝統になる普遍的な理由がある。
師匠にあたる岡田周三氏の技は流石というほかないです。
一見「古めかしい味」と感じますが、味の中に計算式が隠されており、すし通なら必ず評価すると思います。
小鰭(こはだ)、漬け鮪、穴子、昆布締めの凄みは超絶的な鳥肌モンです。
●仕事中の会話は最低限。話すのは食べ終えてから。
話しかけてもそっけなかったのですが、途中から自分を恥じました。
わざと返さなかっただけで、我々が食べ終わってから話かけられました。
またもや、男は黙って高倉健(笑)
●お客は平等であり、知名度やお金に媚びない。
常連だからと言って大きなサービスはないですし、芸能人だからといって特別な応対はありません。
つまり平等に扱われます。
逆に偉そうにふんぞりかえるとツマミ出されます。
ほんのお気持ちですがとお祝いをしていただきましたが、普段はやらないそうなので内容は伏せます。
●見栄は張らない。無理はしない。
隣席が空いていましたが、満席だと断っていたことに強い衝撃を受けました。
ギュウギュウ詰めにしないということです。
同じようなことが銀座「さわ田」でもありましたが、「小笹寿し」は隣同士と一席ずつ空けてました。
●人の縁(えにし)を大事にする。
人間関係を大事にしているのがよくわかります。
ご主人と奥方様の客への接し方はいたってシンプルであり、優しさが滲み出るようなサービスです。
家庭的でありながら、凛としている。
同席したお客様も、店の品位を損ねることなくとてもクールでカッコ良かったです。
「小笹寿し」の近くには、今をときめく「青空」「おおの」などの有名店があります。
しかし、銀座寿司の貫禄と矜持は「久兵衛」さんよりも、この「小笹寿し」が一番守っていると私は個人的に感じています。
うたかたの夢と人生の悲哀、そして歴史の味がいっぱいつまった
銀座をごちそうさまでした。
追記1:店名は天保時代に実在した寿司屋が由来ですが、直接の関係はありません。
追記2:かつての旧・銀座店に掲げられていた日本画の巨匠・安田画伯の額は店内に飾られております(写真参照)
追記3:岡田周三氏は平成16年に他界。直系の弟子は寺嶋さん以外に桜新町「喜よし」の根津氏、神泉「小笹」の佐々木氏、下北沢「小笹寿し」西川氏など凄腕ばかり。年に一回、みんなで集まるそうですがそういう仲良しなところがとてもステキだなあと思います。寺嶋さんは一番年長の兄弟子なので「あにさん」とみんなから呼ばれており、微笑ましい限りです(笑)ちなみに西麻布「小笹寿し」の新垣さんは寺嶋さんの弟子。
追記4:出世通りの名前の由来は、あまりにも有名なので割愛します。
追記5:簡単な人物紹介
・ル・コルビジェ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%AB%E3%83%93%E3%82%B8%E3%82%A7
・坂倉準三 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%82%E5%80%89%E6%BA%96%E4%B8%89
・邦枝完二 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%82%A6%E6%9E%9D%E5%AE%8C%E4%BA%8C
・安田 靫彦 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E7%94%B0%E9%9D%AB%E5%BD%A6
・山田五郎 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E4%BA%94%E9%83%8E
追記6:参考文献
・銀座百点 第685号(2011/12) 「銀座のすし」 著:山田五郎 出版:銀座百店会
・日本一江戸前鮨がわかる本 著:早川光 出版:ぴあ
・東京すし通読本 編:東京生活編集部 出版:えい出版社