2回
2023/08 訪問
映画にも登場する名門パティスリー
映画『時をかける少女(2006年アニメ版)』をリバイバル上映で観る機会を得た。
劇中、主人公の真琴が美術館に勤める親戚の魔女おばさんに差し入れするのがこちら「アテスウェイ」のケーキ。細田守監督作品は作中に実在の社名や店名が登場することで知られるけど、観ていて今「アテスウェイ」って言ったよね?とそればかりが気になって、肝心のタイムリープ問題はそっちのけで。
後日ネットを掘ってみたらファンサイトや考察サイトがごろごろ出てきて、もやもやしていた霧が少しは晴れた。気がした。
ので、時かけをリアタイすべく夏真っ盛りに目指した「アテスウェイ」。
西荻窪の駅を降りたら、たまたまバスが停まっていたので飛び乗った。所要時間は5分ほどだが、乗用車ですら通るのがやっとな狭い路地を、大型バスがすいすい走り抜けていくのは地味に感動してしまう。
最寄りのバス停はとんじょこと東京女子大前。真琴が通う高校のモデルになったとも聞きかじった。
なるほど「アテスウェイ」とは目と鼻の先で、聞けば西荻〜吉祥寺界隈が作品の舞台だそうな。
閑静な住宅街に突如現れる人だかり。その割にあまりぱっとしない建家の中に、白のユニフォームをカチッと着込んだ店員が何人も店内を行き来しているのが見えて実感が沸く。
店先の人だかりが入店を待つ客だと思い、少し下がって待機していたら店員に促されるままに入店。外待ちの客は買ったケーキの梱包待ちだったみたい。
日本一のパティスリーだと言う人も多いわりに、それほど広くない店内とそれほど多くないラインナップ。
まだ見習いと思しき青年店員が出てきて商品の説明などしてもらえるとのこと。ここは船頭を信じて船に乗ってみよう。
なかなかピンとくるものがなくて暫くは思案しながらショーケース前を行ったり来たり。
ここの大大大シグネチャであるモンブランの発売開始まではあと一ヶ月ある。それまでは何を食べて待てというのか。。。ピスタチオ激推しの彼の意見は、あくまで個人の感想と受け止めておく。
作中、真琴が魔女おばさんに差し入れたケーキの品名までは分からない。それをあれこれ想像してみるのも聖地巡礼ともどもファンにとっては楽しみなんだろうけど。
ちなみに店内撮影禁止。押し寄せる客の中には映えや話題性ばかりを狙った不届きものもいて、いろいろやらかしたんだろね。。。移転前はイートインがあったなんて信じられない。
けっきょく最後は直感頼みで
シューアラクレーム@390
カプチーノ@630
エクレール・オ・フリュイ・エキゾチック@520
を購入。
会計後に店の外に追い出されるかと思いきや、後客もいなかったので店内後方で待機。保冷バッグの追加購入を勧められたが、丁重にお断りしてダッシュで帰ることにする。たしか炎天下じゃ40分くらいしか保冷剤がもたないとか言ってたような。
奥の工房では若手パティシエの卵たちが盛んに動いているのが見てとれる。
養成所のような形も兼ねているのだろうか、ここから巣立っていく未来のパティシエだっているだろう。
*
その外皮の薄さでどうやって形を保持しているのか、感動すらあるシューアラクレーム。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれたカスタードクリームにはほんのりココアともカラメルとも言える風味がつけられ、トッピングにクラッシュナッツ。エクレアを頬張るように、もうとにかく夢中で食べてしまってから人形町「シュークリー」のシュークリームに近いかもとふと思う。
舌を噛みそうな名前のエクレール・オ・フリュイ・エキゾチック。
なんだか巨大なサヤエンドウがはじけたようにも見えるその内部構造はといえば、パイ生地ベースにカスタード/生クリーム/それを再びパイ生地でサンド。
トップコートにはシトラス系のコーティングがされ、なるほどエキゾチックというニュアンスは伝わってくる。バナナ、パイナップル、マンゴーを生クリームの中に隠してトロピカルさも演出。
かなりビターな大人の味のカプチーノ。
モカクリームにビターチョコレートと追いチョコでもってチョコレート好きを唸らす。周囲をクラッシュナッツを纏ったチョコレートでコーティング。もはや全方向に敵なし。
仏語でa tes souhaits!とは誰かがくしゃみをした際に唱えるおまじないだそうで、それが転じてパティシエが修業時代に仲間とよく交わした合い言葉の "願いが叶いますように" との意も含むらしい。
帰りはバスが来ないので仕方なく吉祥寺まで歩いた。この炎天下で?生ケーキを持って?保冷剤が40分しかもたないのに?アテスウェイって果てしないウェイ(道)に引っ掛けたんじゃないかとも思った。
2023/08/15 更新
ここのモンブランは日本一だという言う人も少なくない。なので機が熟するのを待ちわびていた。
販売時期は例年9月〜翌年5月まで。スイーツ類の予約はできるが、モンブランだけは予約不可。
なので開店前からモンブラン目当ての行列ができ、あっという間に完売してしまうので根気よく並ぶしか入手の手段はない。なお、モンブランは1人5個までの購入制限あり。
アニメ映画『時をかける少女』にも登場する超有名パティスリーは、日本でたった6人しかいないルレ・デセール会員の1人、川村英樹氏の店。店内撮影不可。
店名はくしゃみをした際に唱えるおまじないみたいなもんだとか。
前回訪問の教訓から電車+徒歩もしくはバスは生ケーキの持ち歩きに不利と考え、今回は車にて来訪。
勢い余って9時に着いてしまい、首尾よく駐車場の確保に成功。店舗を通り過ぎて100メートルほど先の左手路地に3台分ある。車で行く人はグーグルマップのストリートビューで予習必須だね。
時間つぶしに善福寺公園を散策がてら前を通ると開店90分前でも既に並び1名あり。
開店60分前に来てみたら並びは7人ほどに増えていた。以後ドンドン伸びて開店時には30〜40人ほどまでに。見習いらしき店員が出てきて列の誘導整理をしてくれるのでトラブルなどはない。
と、開店時間を10分前倒ししてのオープン。
狙いはモンブラン一択なので品定めに夢中な先客をすっ飛ばしての会計となった。
みんな7,000〜10,000円くらい平気で買っていくね。
なもんで、モンブランを2つだけ買った自分はいたたまれずにそそくさと店を後にしたのは言うまでもなく。。。
*
発射を待つロケットのように屹立する姿にモンブランチャレンジという言葉が脳裏をよぎる。でもそれは杞憂に終わった。
マロンペーストはじめ各構成パーツがしっかりと塗り固められ、フランス式メレンゲ土台、ここではダックワーズと言っておこうか、に守られたモンブランは微動だにせず。
洋栗マロンペーストのもつコクと甘みと栗の風味のバランスが絶妙なうえ、クレームシャンティの下にはさらに和栗のマロンペーストが控えているという二段仕掛け。とどめはマロングラッセのような栗がまるごと一粒入るという凝りよう。
食べ終えた後でもしばらくの間、口の中に余韻が残って目眩がするほど。スイーツでこんな体験をしたのは初めてかもしれない。
正直、前回買い求めたプチガトーには今ひとつときめきくものがなかったので、本当にここのモンブランって美味しいのか?という一種の疑惑にも似た疑問が頭をもたげ始めていた。それが余計にモンブランへの執着心を掻き立てることにもなった。
でも今回モンブランを食べてみて分かった。
その店の真価をきちんと評するには1度の訪問だけでは到底足りないし、いち素人がろくに吟味もせずしのごの言うのはシェフや店に対して失礼ではないかと。なので納得いくまで何度でも再訪したい。時間とお金の許すかぎり。
結論として、これだけのクオリティを僅か880円で味わえるのなら安いもの。
だから早朝から車を飛ばし、1時間も並んで待ってもまったく苦痛ではない。かえってそれがセレモニーとしてモンブランの付加価値を高めてくれるのだと信じて疑わない。