毎年、成人の日に新聞に掲載されるサントリーの広告を愉しみにしています。
それは作家、伊集院静氏の新成人へのメッセージ広告。
決心しよう。
成人おめでとう。
今日から大人と言われても実感はないだろう。
カレンダーの日付けがかわるように人はかわらない。
それでも雪の下のフキノトウのように、オタマジャクシ
がカエルになるように、生きるということは、或る日、
雲が切れて陽光が微笑むようにかわる。だがそんな
まぶしい時は待っていてもやってこない。
雪がとけたら葉を伸ばすぞ、いつか水から飛んでみせ
るぞ、というこころの持ちようが変えてくれる。
こころの持ちようとは、覚悟だ。決心だ。
そこで提案だ。今日を境に何かひとつ決心し、それを
胸の中に刻んで歩きはじめてみないか。何だっていい。
やると決めるんだ。
君には夢があるだろう。それにむかって進むのもいい。
まだなければ夢を探す機会にすればいい。その決心に
言っておきたいことがある。その夢は自分だけがしあ
わせになろうとしていないか。お金を得ることにこだ
わってないか。そういうものは卑しいんだ。覚悟とは、
品性の上にあるんだ。苦しい時、辛い時に、その覚悟と、
誰かのために生きようとしたことが救ってくれる。
生きるということは必ず、苦いものと悲しいものをと
もなう。それが人生だ。
一日苦しかったな、と思ったら夕暮、一杯のやさしい
酒を飲むのもいい。
君の春に乾杯。
伊集院静