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昼の点数:4.2
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~¥999 / 1人
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料理・味 3.8
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|サービス 4.2
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|雰囲気 3.8
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|CP 4.2
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|酒・ドリンク -
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[ 料理・味3.8
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| サービス4.2
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| 雰囲気3.8
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| CP4.2
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| 酒・ドリンク- ]
墨田のタマノイズム
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外観
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外観
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本日の日替わり
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アイスコーヒー
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店内
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近くの町並み
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車ぬけられません
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かろうじて人ぬけられます
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かつての娼館
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洒落た窓枠
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2012/08/25 更新
墨田区墨田3丁目。休日出勤に伴う代休取得の、貴重なある日の平日お昼時。私の地元、玉の井いろは通りを進み、お目当ての店へと向かう。
これから訪問予定の飲食店は、かねてより注目していたものの、ランチ営業は平日だけなので、私の場合平日が休みでないとお昼の訪問は不可能。そのため、足かけ1年近く時間を費やすことになってしまった。
玉の井いろは通りは、東向島5丁目と墨田3丁目を隔てた道沿いに商店街が形成されている。かつてこの地には、永井荷風の小説『墨東奇譚』の舞台となる私娼窟があった。
時は大平洋戦争の末期。東京大空襲により、この地は壊滅的打撃を受けたものの、かろうじで焼け残った玉ノ井いろは通りの北側(墨田3丁目)は、戦後カフェー街として昭和33年の売春施行法成立まで存続してきたという。
玉の井いろは通りから、脇道を入った奥に佇む一軒の食堂。昼間この店が営業しているのかどうか、気付かない地元の人も決して少なくないはず。事前情報によれば、以前は鮨屋として営まれ、あの永井荷風も常連客だったという。
半ば引き戸は開いたままの入口。簾を分け入って入店すると、すぐ右手にはパウチ加工されたテレビ出演時のキャプチャー画面が飾られていた。店の奥には元鮨屋らしく、L字カウンターの上部にはガラス製の冷蔵ケースが残置されたまま。
先客と小上がりに腰かけておしゃべりの真っ最中なのは、見た目60代後半らしきおかみさん。徐にカウンター席に座るや、冷たいお茶とおしぼりを置きながら、「今日は本当に暑いですね」と愛想を振りまく。柔和な表情の見た目から、人好きしそうな雰囲気。特に私の注文を尋ねることなく、調理にとりかかるおかみさん。店内には、一品料理のメニュー札も貼られているものの、ランチメニューは見当たらず。お昼は日替わり一品だけなのだろう。
私の背後では、小上がりの座布団の上で、両足を投げ出している日本郵政の制服を着たご婦人。かんぽ生命の保険外交員なのだろうか。随分と寛いだ様子なので、きっと常連客なのだろう。共に出来上がりを待つ間、テレビのニュース番組をぼんやり眺めている。
待つこと10分ほど。おかみさんがプラスチックのお盆にて本日の食事を運んできた。カレイの干物がメインのようだが、なかなか豪勢で、お盆に乗り切れないお新香と煮物小鉢も付いてきた。スプーンが添えられていた小皿は、一瞬フルーツかと思ったものの、練り山葵も添えられる。「こちらはアボガドですか?」「そうそう、醤油を垂らして食べるとトロの味がするっていうけど、そんなことはないよね~」「ここに醤油差しがあるからね」「あとよかったら家で漬けた梅干しもどうぞ」と、漬けられた梅干しを、陶器の壺のまま出してくれたおかみさん。何かと一見客の私に世話を焼いてくれる。
食べ始めてから、出入り口付近に貼られたテレビ放映の画像について切り出した。「ああ、あれはね~これまでいろんなマスコミの取材を受けてきたけど、今じゃ私はこの辺で指名手配だから」「本当もうこりごり」と肩をすくめる。
何でもおかみさんの祖父が鮨屋を営んでいた時代に、永井荷風がこの店を贔屓にしていたらしく、永井は決まってメヒカリ3貫、マグロ2貫、お銚子を頼んでいたという。そんな所以からか、これまで雑誌やテレビでも紹介されてきたこちらの店。それなのに、食べログ未登録(正確には勇鮨で登録・未投稿)とは、意外性を通り越して呆れるしかない。
飾られていたキャプチャー画像は、テレビ東京系列『アド街ック天国』で、この店を紹介された場面のものだとか。取材は1週間も続いたとのこと。わざわざ奥の座敷の照明を落として、永井荷風の風貌を真似たスタッフを登場させたりと、過度の演出があったという。
「本当に1週間も(取材スタッフは)通い続けたんですか?」思わず目を丸くして驚いた私に、「そうなのよ」と顔をしかめたおかみさん。実際にオンエアされた放送時間は1分前後。しかも普段とは異なる店の設えに、視聴者から大きな誤解を招きかねない心配もあったという。「実際に埼玉や千葉の蘇我からも、テレビを観たお客さんがわざわざ食べに来てくれてさ。本当申し訳なくってね」と小さくため息をつく。
番組のテーマは、鐘ヶ淵の特集。おかみさんの話は、他に紹介された飲食店にも及ぶ。「ほら、鐘ヶ淵通りって最近何とか通りって言うらしいじゃない?」「酎ハイ街道のことですか?」「そうそう、酎ハイ街道なんて、地元じゃ誰も呼んでないからね」「テレビの前で、普段提供してないのに、ハイボールとかわざわざ作ったりしてさ」
なるほど、マスコミが創り上げた酎ハイ街道という名の虚像に乗っかって、一部の食べログレビュアーが、したり顔で薀蓄を垂れ流すお粗末な構図。思わず苦笑を禁じ得ないが、そっと大人しくしてもらいたいのが、地元住民の偽らざる本音か。
その鐘ヶ淵通りも現在道路の拡張工事が、本格的に着工中。すでに他所へ移転したり閉店してしまった店も少なくない。おかみさんの話によれば、鐘ヶ淵駅は約40年前に高架化計画の話が持ち上がったという。その計画に反対したのが、地元区会議員の故松野縁之介。地元駅前商店街を庇護する目的でもあったようだが、結果として鐘ヶ淵駅前は寂れゆく一方。そして取り巻く周辺の商店街も、活気があるとは言い難い厳しい現実。
「まさか40年後、日本の景気がこんなに悪くなってるなんて予測はできないよね。まあ仕方ないけど」遠くを見つめるおかみさんには、私の姿はもはや映っていないのだろう。すでに話を聞き始めて20分近くは経っていそうだ。
「こんな情報どこにも載ってないでしょ」とやや得意顔のおかみさん。時折おかみさんとの会話の切れ間に箸をつけられたものの、味噌汁はすっかり冷え切ってしまった。
すると突然お孫さんらしきお嬢さんの声が聞こえてきた。慌てて厨房の奥へと引っ込むおかみさん。ようやくご飯にありつけそうだ。小鉢のおかずも家庭料理の延長線上ながら、栄養バランスに優れて独り者の私には有難い。
すっかり平らげた私に、カウンター内に戻ってきたおかみさんから、「コーヒーはホットにする?それともアイス?」と尋ねられる。食後にはコーヒーも付くようだが、普段コーヒーは飲まない私。ただし、それを押し通すほど図太い神経は持ち合わせていない。
アイスコーヒーを所望すると、喫茶店で提供されてもおかしくないボリューム。一息ついて、おかみさんは私が入店する前と同様、常連客の女性と他愛もないおしゃべりをし始める。
ごちそうまです、と言いながら1000円札を取り出すと、お釣りは100円玉が3つ。何とランチは700円で提供しているようで、本日2度目のびっくり。
「(お世辞抜きで)美味しかったです。また来ます」と伝えると、おかみさんはさほど表情を変えることなく、「暑いから身体に気をつけてね」との言葉が返ってきた。