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外観
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生姜焼きとライス
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突き出しの冷奴
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ワンタンメン
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木根川橋(東四つ木方面)
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木根川橋(八広方面)
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王子白髭神社
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青龍山 浄光寺
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青龍山 浄光寺
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向かって右側の金剛力士立像・阿形(あぎょう)
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向かって左側の金剛力士立像・吽形(うんぎょう)
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中川中学校
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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木根川商店街
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宝駐車場(宝温泉跡)
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宝駐車場(宝温泉跡)
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飼い猫のゴン(♀)
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葛飾区東四つ木1丁目。京成押上線四ツ木駅の南側に広がる、寂れゆく街並み。四つ木という地名でさえ、東京で生まれた人も沿線上の在住でない限り、知る人も少ないだろう。ましてや東四つ木という住居表示、四つ木に輪をかけて寂寥感を漂わせる。梅雨の谷間のある晴れた週末、私は墨田区と葛飾区を跨ぐ、荒川と綾瀬川にかかる木根川橋を渡っていく。目指すは未踏の地、東四つ木。
以前レビューした三好弥に訪れる際、八広駅に降り立った私は、荒川土手・木根川橋方面という出口表示を見たとき、木根川橋という地名に何だか既視感を感じていた。そのときは思い出せなかったが、フォークソング歌手・さだまさしの曲のタイトルであったのをふとしたきっかけで思い出す。別にさだまさしのファンではないけれど、この木根川橋という歌、さだ少年の中学校時代の、甘酸っぱい青春時代の思い出を歌ったもの。中学校の担任の先生に向けてだろうか、曲の冒頭や合間での弾き語りが印象的。実際にさだまさしは、長崎県出身だが、中学校時代にバイオリン修行のため上京。東四つ木の中川中学に通っていたという。そのためか、近所の白髭神社や木根川薬師(浄光寺)も歌詞に登場してくる。その歌をユーチューブで改めて聴いてみて、東四つ木の街を巡ってみたいとの気持ちが一層強くなったのが、今回のきっかけ。
木根川橋も荒川を超えた辺りから、眼下に広がる中洲地帯では少年野球の試合が行われていた。この周辺にはグランドがいくつか設置されていて、週末にもなれば野球やサッカーに興じる人たちの姿を目にすることができる。ちょうど橋の欄干では、サンダル履きの一人の中年男性が、両肘をつけながら缶ビールを傾けていた。少年野球の試合を、興味深そうに見つめている後ろ姿を横目で見やりながら、ようやく長い橋を渡り切る。墨田区側の橋のたもとからここまで歩くこと、私の足で10数分。ふと振り返ると、前方には2012年5月22日の開業が決まった東京スカイツリー。この場所からの眺めは、思ったよりも視界良好だ。
T字路の信号を渡って右に曲がり、新小岩方向に向かって橋を降りると国道450号線。そのまま南下し最初の信号で交わる道は、水道路(すいどうみち)。金町にある浄水場から水道管を通すために作られたといわれる。450号線を道なりに進み、GPS携帯を頼りに途中わき道に入り進んでいくと、王子白髭神社への案内表示が見えてきた。ちなみに東四つ木4丁目には渋江白髭神社があるが、歌詞に出てくる白髭神社がどちらを指すのかは、さだまさしだけに定かではない。一通り参拝した後、次にすぐ近くの木根川薬師を目指す。
こちらの木根川薬師(浄光寺)は、嘉祥2年(849年)僧広智の築いた薬師堂にはじまる。貞観2年(860年)3月その弟子慶寛によって一寺となり、浄光寺と名づけられた。一千有余年の法灯を伝える、関東屈指の古刹である。この界隈では似つかわしくない荘厳な雰囲気、仁王門の両脇には木製金剛力士立像が安置されていた。
そして綾瀬川と中川が交わる突端近くの立地にあるのが中川中学校。こちらは私の母校でもないので、感情に訴えかけるものは何もなく、そそくさとその場を後にする。ここまで歩いてきて驚くべきこと、何と飲食店が一軒たりとも見当たらず。この辺りは、プレス機械やコルク製造といった町工場が群立するなか、比較的新しい戸建てや集合住宅が混在する城東地区特有の、ありきたりな街並み。仕方なく四つ木駅方面へと向かって歩いていると、東四つ木コミュニティ通りにぶつかった。きれいに舗装されて、両脇には桜の木々が植えられた、普段散歩をするには格好の通りに沿って北上していく。
突然、両膝が思わずワナワナと震えだすような瞬間に見舞われる。日差しを受けて鈍く光る、鉛色のトタン板に覆われたこちらの建物。部分的に理容室として使用しているようだ。まるで食パンの底辺を四角くくり抜いたようなトンネルのその先は、奥へと道が連なっている。トンネルの上部にプレートが貼り出されていて、宝商店街と書かれた文字を白く塗りつぶして、その上から木根川商店街と書き直しているようだ。
全く予期していなかった光景に取り乱すも、気持ちを落ち着かせてからトンネルの奥へと入っていく。両側はかつて商店として営まれていた陋屋(ろうおく)が立ち並ぶ。まさに東京中どこを探しても、山谷のいろは会ショップメイトをも上回る強烈な印象を放つ商店街。もし突然この場所に目隠ししたまま連れてこられたら、誰だって言葉を失うに違いない。すると、前方にラーメンと書かれた赤い提灯がぶら下がる店を発見。どうやら中華料理店らしく、近付いてみると赤い紐に繋がれた一匹の三毛猫が、こちらを見つめていた。
信じられないことに、棟割長屋にて現在も営業中のこちらの店。二階の庇からハンガーピッチに吊るされた洗濯物、色褪せた店の看板の上からは、バスタオルが干してある。久しぶりの晴れ間を有効活用しているようだが、店名の一部が隠されていた。どうにかしてタオルに隠された箇所が見えないのか、ひたすら念じていたら、呪術師よろしく風に煽られてタオルが捲れあがる。ほんの一瞬だが、宮の文字がはっきりとみえた。「宮城」という店名のようだ。念のため携帯のWEB画面でチェックしてみると、食べログ未登録であるばかりか、一個人で書かれたブログでの記述がわずかにあるのみ。現在13時過ぎだが、騒がしい声が漏れ聞こえる店内。高まる興奮を懸命に押さえつつ、思い切って引き戸を開ける。
狭い店内、予想を裏切る4人もの男性客の目線が一斉に注がれる。カウンター席には2人、手前のテーブル席に座る見た目60代の親父達は、サワーのグラスや唐揚の皿を並べていた。周りの年配客から見て、一回り以上若い私は、他所者としての自覚を持ちつつ、遠慮がちに身を少しかがめながら、奥のテーブル席に腰掛けた。
カウンター奥には70前後の小柄なおかみさんが忙しくなく働いている。壁に貼られたメニューを眺めると、一番安いラーメンが350円の破格値。ほとんど開店当初から値上げもしていないのだろうか。ご飯ものが食べたい気分だったので、定食類はないかと見回すも、特になさそう。しばし逡巡したのち、単品の生姜焼き(450円)とライス(250円)を頼んだ。
注文を待つ間に、ふと座った右手には額に入れられた新聞記事の切り抜き。葛飾区の広報誌のようで、謎の商店街と宝温泉遺跡とのタイトル。文章を読み進んでいくと、この商店街を抜けて道を渡ったその先、現在駐車場になっている場所に宝温泉(宝湯)と呼ばれた銭湯があったという。宝温泉が休業したのは、昭和54年か55年頃。お湯は井戸によるくみ上げ式で、色は褐色あるいは黒みがかっていたと言われる。その温泉前に開けた商店街が、宝商店街といい、後にこの木根川商店街となった。おそらく宝温泉の休業もしくは廃業に伴って改称したらしい。実際、その宝という名称を使った蕎麦屋の袖看板も残ったままだし、この宮城の隣はたから美容室だ。
往時は、魚屋、肉屋、八百屋、おでん屋、焼き鳥屋、駄菓子屋などが軒を並べていたといい、商店街の建物は今から60年ほど前のものもあるとのこと。現在も営業し続けているのは、先ほど見かけた理容室とこの宮城の2軒のみ。当時の賑わいはほとんど見る影もなく、この記事を読み終わったとき、悲しさと切なさが入り混じった複雑な思いにかられてしまう。
常連客の笑い声が絶えない店内で、場違いな私はひとりだけ目を潤ましている。するとほどなくして、おかみさんがカウンター下の扉を潜り抜けてこちら側に出てくると、出来上がった生姜焼きとごはんのお皿や丼を並べてくれる。メインの生姜焼きは豚の小間切れ肉。そしてさつま揚げとフキの煮物の小鉢がつく。それにご飯、味噌汁、香の物。生姜焼きや煮物でご飯を食べ進むも、正直なところ感激するような味ではない。むしろ全体的に味付けがしょっぱめ。この店は、近くの町工場で働く労働者たちが集う場所。利用客に合わせると、自然に味付けが濃くなってくるのだろう。しかし、この店で味をとやかく言うのはあまりにも野暮というべきか。店の存在自体が神がかり的。私は供されたものを、黙ってひたすら腹におさめるだけ。
ひと段落したおかみさんは、テーブル卓の親父と世間話に興じている。「こんな世の中、長生きするもんじゃねえよ」と赤ら顔の親父はおかみさんに沫を飛ばす。「身体が動かなくなったら、子供たちにかえって迷惑かけるだけだからねえ」とはおかみさん。語気に若干訛りを含んでいるようだが、店名同様に宮城県の出身なのだろうか。
煮つまったみそ汁は少し残したものの、すっかり平らげた私はお皿を重ねてカウンター上段に戻す準備。するとカウンターから出てきたおかみさんは、「いいがらいいから、そのままにしておいて」と言いながら、自ら片づける。お会計後、外にでると飼い猫が地べたに寝そべっていた。猫の鳴きまねで気を引こうとするも、少し耳をびくつかせるだけで、私にはまったく興味を示さず。思わず苦笑しつつ、その場を後にした。
次の日、前日とは打って変わってどんよりとした曇り空。私は京成押上線の四ツ木駅を降り立つ。こちらの四ツ木駅は、高架上にホームが設置されていて、駅の構造は八広駅とほぼ同じ。改札口をすり抜けて地上へと階段を下っていくと、目の前にはファミリーマートがあった。コンビニが設置されているだけでも、駅として近代的。利便性は八広駅よりも、未だましな方といえそうだ。駅の南側からすぐに広がるのは渋江商店街。私はこの商店街を通って、昨日も訪れたあの宮城を目指す。
何と連日の訪問。食べログでレビューを書き連ねてきて、同じ店を2日連続での訪問は初めてのこと。昨日撮影した宮城の外観が、洗濯物で覆われてしまい、店名の一部が見えなかった。是非とも店名が判読できる外観画像を収めたいという、傍から見れば本当どうでもいい私のこだわり。
それにしてもこの渋江商店街。駅から徒歩2分足らずで、すでに立ち往かなくなった廃業の店舗があちらこちらに。日曜日の15時過ぎだというのに、この活気の無さはどう形容したらいいのだろうか。何ともやるせなさを感じつつ、歩き続けること10分以上、東四つ木コミュニティ通りにぶつかった。この道を綾瀬川方面に下れば、あの木根川商店街に辿り着くはず。
途中セブンイレブンの店舗手前を左折して、未踏のわき道へと入り込む。せっかくなので、異なるルートで宮城を目指そうと試みるも、これまですれ違った人々は数えるほど。陰鬱な気分へとだんだん沈んでいくのを必死に抑えつつ、前方に宝温泉跡地が見えてきた。いまでは宝駐車場と名を変えた、思ったよりも広々とした敷地。まさかこの駐車場の土地そのものが、宝温泉だったとは思えないが、しばし往時の栄華に思いをはせる。
そして木根川商店街入口の反対側から宮城に向かう。今日はさすがに洗濯物は干されてないようで、店名もばっちりみえる。例の飼い猫は、初めから私の方に視線を向けていた。私の顔を、もしかして覚えてくれたのだろうか。手元の携帯の表示時刻は15時40分。まさか店はやっていると思わなかったが、通し営業なのだろうか。引き戸が開きっぱなしのため、客の話し声がこちらまで響く。せっかく来たのだからと思って、入店を決意。
店の出入り口に近づくと、慌ててエアコンの室外機に飛び乗る猫を尻目に入店。店内は、テーブルに座る3人の客の姿。手前のテーブルはおかみさんと年齢が近そうなご婦人。そして奥のテーブル席には50過ぎの夫婦。男性はポロシャツ、短パン姿で、Wエンジンのチャンカワイになんとなく似ている。
空いていたカウンターの一番奥の席に腰掛ける。この時間帯、それほどお腹が空いていないので、麺類を頼もうと思ってワンタンメンを注文(450円)。つぶらな瞳のおかみさんは、昨日よりも幾分表情が柔らかいのは気のせいか。夫婦は酒も入って、旦那の方は特に饒舌のご様子。14型のアナログテレビで放映されている競馬中継を観ながら、熱くなっているようだ。馬券を買っていたのだろうか。
おかみさんは私の注文を受けて奥の冷蔵庫からごそごそと食材を取り出す。ワンタンの皮や挽肉、なぜか豆腐のパックも手にしているようだが、テーブル客のつまみなのか。削り節を振りかけた冷奴の小鉢が目の前に置かれた。どうやら私への付きだしのようで、思わずよろこびっくり。カウンター席に座る際、調味料でポン酢が置かれていたので、中華料理屋でポン酢は必要か?と訝しがったものの、せっかくなのでこちらをかけることに。まさか、こんなところで活躍するとは思ってもみなかった。豆腐をつまんでいると、ほどなくしてカウンター上段にワンタンメンが置かれた。私が不用意に丼をおろそうとすると、「どんぶり熱いよ」とおかみさんから声がかかる。
出来上がり直前に、おかみさんが胡椒を振りかけていたのを目撃する。こちらのワンタンメン、ゆで卵の黄身の部分に直撃したようで、少々残念な見た目。スープも何となく濁っていて食欲もそそらず。気を取り直して、ゆるく縮れた麺からひと口。やわらかめな食感で凡庸な味わい。スープは鶏ガラベースか、出汁の旨味は感じられない。さらにいただけないのはメンマ。塩抜きした白っぽいこちらのメンマの味は、私にはまったく合わず。ただし繰り返すようだが、こちらの店で他のラーメン屋や中華料理店と味を比較するのは、意味を成さないだろう。いまも懸命に営み続ける店そのものに価値があるのであって、そこで食事ができることが、私にとって貴重な財産そのもの。
チャンカワイに似た客は、奥さんに会計を任せて、先に外に出て猫とじゃれ合っている。「ゴン、ゴン」と語りかけるも、この客も私同様、猫に嫌がられているようだ。ゴンとは、まるで猫らしくない名前だが、本当の名前なのだろうか。ひとしきり遊んだ後、夫婦は帰っていった。
ワンタンメンを食べ終わった私は、丼をカウンター上段に上げる。手前のテーブル席に座っていたご婦人が、代わって猫を可愛がっているようで、「ゴンちゃん」と話しかける。どうやらゴンとは本名のようだ。「あの猫は、オスですかそれともメスですか?」とおかみさんに話しかける。メスだと応えるおかみさんに、「(メスにしては、)ゴンとは似つかわしくない名前ですね」。「後で病院で診てもらったらメスだとわかってね」、「最初はオスだと思って名付けたんですね?」との問いにうなずくおかみさん。「家に来てから4年になるけど、初めて見たときは、こんなに小さくてね」と、胸の前に両手の指で輪っかをつくる。肉屋で売られている、わずかメンチカツほどの大きさ。
お会計を済ませて外に出る。ご婦人に抱きかかえられたゴンの名前を呼ぼうと思って近づくと、ぷいっと私に対して顔をそむける。妙齢な女性同様、雌猫の気持ちを掴むことさえ、私にとっては今やハードルが高いのだろうか。