『☆『2008年青山 Leaf Bar 騒動始末記』』50オヤジさんの日記

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日記詳細


12年程前、青山にある某有名女史のエステサロンを訪れた50オヤジと友人であるフードプロデューサー氏。
(以下略してFP氏)
知人の紹介で仕事の依頼を受けたんよ。
どうやら、そのエステサロンの一階に拘りのカフェを作りたいらしい。
物販のブランディングなら得意分野だけど、飲食絡みなら毎回FP氏とコンビを組んで仕事していた50オヤジ。
FP氏は飲食店の起業コンサルタントを生業とし、レシピ開発・運営指導等のソフトから、厨房設備等のハードまで造詣が深い。
また、自らもレストランを営むオーナーシェフでもある。
今回も拘りのカフェと言う事で一緒に組むことにした。

青山の一等地にあるそのエステサロンは自社ビルらしい。
オォ~エステって儲かるんだ…って感嘆してると、担当部長とカフェ担当者の女性がやって来た。
部長と言っても30前後のモデルのような色男。
女性もランウェイが似合いそうな長身の美女。
さすが青山、垢ぬけてるな~。
でも、部長はどうやら外部からの出向社員らしい。
その外部ってのが、名前を聞けば誰でも知ってる群馬の有名政治家一族が経営する会社。
エステの某有名女史の信頼も厚く、資産管理を業務提携しているらしい。
なんだか話が大きくなってきそうな雰囲気だな。
色男部長、若いのにやり手じゃん。
って思ったけど、打合せが進むにつれ、この人何だか底の浅さが見え隠れするぜ。
聞いてもいないのに、政治家一族のスキャンダルを得意げに喋り出した。
そーいうのは、初対面の人間に話す内容じゃねーだろ?
面白そうな仕事になりそうだけど、こりゃ話半分で聞いた方がいいな…
一通り要望を聞き、次回こちらより初回プレゼンをすることになった。
その帰り道、FP氏が言い出した。

「50オヤジさん、コレは思ったより大きな仕事になりそうですねえ。
僕は前にも話した例の企画をぶつけてみたいんですが?」

オ〜あの企画か…

FP氏が長年温めてきたその企画は、お茶の専門店の多店舗展開だ。
お茶の専門店自体は当時でも何軒か在ったが、その全ては単独店舗だった。
珈琲の多店舗展開は多数在るが、お茶の多店舗ブランドは皆無だったね。

FP氏曰く
「そもそも、珈琲に含まれるカフェイン等の成分は覚醒作用をもたらすモノ。
逆にお茶の成分であるカテキンやテアニンは、リラックス作用をもたらすのよ。
働く日本人にホントの癒しを与えてくれるのはお茶なのは明白だよね。
そのお茶の専門店が単独店舗しか存在しないのは、日本人にとって大いなる空白であり、由々しき問題だよ。」

んでも、日本人は各家庭で昔からお茶に親しんで来たから、改めてお茶ってどうなの?
って、愚問を発する俺。

「ナニ言ってるの50オヤジさん。
その昔から親しんで来た素養が有るからこそ商機があるんじゃないの。
日本人がお茶系の飲料水に年間幾ら使っているか知ってる?
それに日本人はまだまだホントのお茶の世界を知らないのよ。」

エッ?そうなん?

「そう。お茶の世界は珈琲を上回る程に奥が深いのよ。
それに僕がやろうとしているのは、日本茶・紅茶・中国茶を含めて提供できる総合的な店舗なのよ。
知ってた?お茶も珈琲みたいにブレンドできるんだよ。
日本茶・紅茶・中国茶の垣根を越えてブレンドするコトも可能なのよ。」

エ〜ッ!そんなコト出来るの?

「勿論繊細なブレンド技術が必要だけどね。
そもそもお茶の違いって、元は単一品種の加工方法の違いだけだから、ノウハウさえあれば充分可能なのよ。
そのブレンド技術を持ってすれば、それこそテイストは無限大に広がるよね。
どう?ワクワクしてこない?」

オォ〜確かにワクワクして来たぜ。
んでも、なんで日本で今までやる企業が無かったんだろう?
大手の飲料水メーカーには、それぞれ商品開発担当のブレンダーがいるわけでしょ?


「うん。確かにいるけれど、彼らも限られたお茶の範囲は分かるけど、日本茶・紅茶・中国茶全般を含めたもっと深い上質な世界は知らないのかもね。
それに彼らは職人であって所詮は会社員。
例え知ってたとしても、それを商機に繋げるまでいかないんじゃない?
それに幾ら飲料水メーカーといっても、飲食業は簡単に出来る業態じゃないしね。
僕はその深い上質なお茶の世界をもっと日本人に知って貰いたいのよ。」

そうなんか…
その深い上質な世界を構築するのにFP氏だけでいけるの?

「ウン、僕もそれなりのスキルには自信有るけど、さすがに全ては賄い切れない。
ほら、会ったことあるでしょ?◯✖️▲君を絡めようと思うんだ。」

アイツか!
アイツってのはFP氏の友人で、人呼んで《紅茶王子》だ。
紅茶の専門家で一部の紅茶ファンに熱狂的な人気のある人。
紅茶関係の著作もあり、紅茶以外のお茶にも造詣が深い草食系の優男だ。

「50オヤジさんさえ良ければ、今回のプレゼンはこの方向性で提案したいんだけど、施主も新しいコトしたいみたいだからどうかなぁ?」

うん、イイとは思うよ。
だけど、キーマンとなるあの色男部長が、俺はイマイチ信用できないのよ。
俺の経験から考察するとポシャる確率が高いかもね。
最悪お互い企画料やデザイン科を取りっぱぐれる恐れがあるのは了解した上で動こうな。
ところでその店のネーミングとか決まってるの?

「よくぞ聞いてくれました。《Leaf Bar》ってのはどう?」

オォ〜(葉っぱのバー)ってワケね。
カクテルみたいにお茶をブレンドして飲ませるってコトだな。
イイじゃない!業態を明解に表したナイスなネーミング。
コレはイケそうだね。

そして二週間後の初回プレゼン当日、プレゼン概略説明の後に色男部長とランウェイ美女を連れ出し、銀座・広尾・横浜等のお茶専門店のリサーチに繰り出した。
水先案内人は《紅茶王子》だぜ。
FP氏と《紅茶王子》に厳選された紅茶・中国茶・日本茶は、俺の予想を遥かに上回る深〜い上質な味わいだった。
なるほどコレは凄い世界だな…
客単は三千円以上するけど、この味わいだったら惜しくないって思ったが、FP氏曰く

「この味わいを700円以下で提供するつもり。
多店舗展開による大量一括仕入れが出来れば可能なのよ。」

なるほどチェーンストア理論ってワケね。
色男部長とランウェイ美女も納得してやる気になって来たぞ。
取り敢えず、初回プレゼンは成功したみたい。
次回は、実施に向けた具体的なプラン提示となった。
ただ、この2人ってば、リサーチの移動中にイチャイチャしだしたぜ。
オイオイ、何やってんだよ〜。
まぁ、お互い若いし独身みたいだからイイけどね。

んで、それから二週間後の第二回プレゼンの日、青山のエステビルに行き、一階の受付嬢に来訪を告げると、

「お二人なら上階の会議室に朝から籠もってます。何をしてるかは存じませんが、直接お伺い下さい。」

って、ナニやら険がある応対。
上階に向かうエレベーターの中でFP氏と顔を見合わせ

「なんなんですか?あの応対は?」

ほら、あの色男部長ってモテそうだから、ランウェイ美女との交際がバレて嫉妬してんじゃない?
なーんて話てたら会議室に到着した。
会議中だと悪いから控えめにノックをしたら、中から妖しげな声と物音が…

オイオイ、マジか…

いきなり踏み込むワケにいかず、FP氏と途方に暮れていると、声と物音が一旦途切れたみたい。

コレはイッたんか?

暫く待って改めてノックすると、慌てふためいて身繕いする物音がして色男部長とランウェイ美女が出てきたぜ。
なんだか上気した顔色と着衣の乱れって、オマエらアホちゃうか〜!
なーんておくびにも出さず、あくまでビジネスライクな50オヤジとFP氏。
んで、別室に移り実施プレゼンを始めようとすると、参加者が新たに1名現れた。
どうやら、エステの広告を担当しているグラフィックデザイン事務所の人みたい。
それならご一緒に聞いて貰いましょうってプレゼンを始めたが、なんだかこの人態度悪いぞ。
終始不機嫌な顔してプランにケチをつけて来る。
プレゼン内容がブランディングだから、当然広告やグラフィックデザインの方向性にまで話しが及ぶんで面白くないんだろうね。
こーいうケチな縄張り意識でイチャモンつけて来る奴ってよくいるんだよなー。
んでも、そんな奴には慣れっこな俺たちは、あくまで懇切丁寧に整合性を持って論破したね。 
ただ、色男部長とランウェイ美女の2人はプランの内容にご満悦。

「Leaf Barってイイねぇ!」

ネーミングも気に入ったみたい。
次は実施デザインと実施設計を提出予定だけど、その前に企画料とデザイン設計料の契約締結が必要になる旨を告げ了承された。
一週間後の契約締結を約束して帰る支度を始めたら、

「アッ、今週一杯は僕と彼女は休暇で居ないから、連絡あれば週明けにお願いね。」

って色男部長。
それはそれは、どうぞご自由に。
もう、オフィスでコトに及ぶなよ〜。

んで、その週末世間では米国投資銀行の倒産が大々的に報じられた。
所謂リーマンショックの始まりだ。
その時は俺の仕事に直接影響が出るのはまだまだ先だろって高を括っていたが…
週明けに次回打ち合せの日時のアポを取ろうとしたら、色男部長はお休みみたい。
しからばランウェイ美女と思ったら、コレまたお休みだ。
いつ出社するかも分からないとの事。
なんだよ、あの2人ナニやってんだよ〜?
ようやく週末にランウェイ美女と連絡が取れて、どうしたのか聞いてもなんだか要領を得ないし、声にも元気が無いぞ。
コレは何かあったな?ってコトで直接事情を聞く為に急遽青山に向かった。
応対に出てきたランウェイ美女は、すっかりやつれて別人みたい…
しかも俺の顔を見たら、さめざめと泣き出したぜ。
彼女が涙ながらに語ったのは、色男部長がエステサロンの資産運用して投資した外国株が、今回のリーマンショックで暴落して億単位の損失を出してしまった事。
そして色男部長は、その損失責任を追及されて逃げ出し行方不明になっている事。
投資には詳しくないが、外国株の場合は投資担当者は海外の値動きを常に注視して、こういう事態には被害を最小限に食い止めなければならないが、色男部長はランウェイ美女との逢瀬にうつつを抜かし、それを怠ったみたい。

「私も至らなかったんです…」

って泣崩れるランウェイ美女。
いやいや、それは違うでしょ。
全ては色男部長の業務責任で、貴女が謝る事じゃ無いよ。
しかし、底が浅い奴って思ってたけど、仕事も女も放り出して責任取らずにトンズラするとはアホの極みだな。
逃げたって、どうにもならないのに…

今回の仕事もこれまでだな。
でも、このまま有耶無耶にするワケにもいかない。
実際、ここまでのプレゼン経費も発生しているし、正式な業務停止も請けていない。
色男部長の出向元の上司と話し合う必要が有るな。

ランウェイ美女にアポをお願いして、その場を後にした。
別れ際、彼女は深々と頭を下げて動かない。
少なくとも色男部長より真っ当な人だな。
ランウェイ美女よ、今は公私共に辛いだろうけど、この困難を乗り越えれば次はイイコトあるよ。
頑張ってな…

そして半月後、ようやく出向元の上司と会える事になった。
青山に向かったFP氏と俺の前に現れたのは、群馬の有名政治家一族経営会社のO取締役だ。
Oって、有名政治家と同姓じゃないの。
この人も親族みたいだな。
しかもまだ若い、色男部長と同年代か?
こちらより、今までのプレゼンの経緯と仕掛かり業務で発生した経費の精算をお願いしたいと告げると、
O取締役曰く

「今回の事では、無責任に逃げたアイツのせいで我が社も大打撃を受けた。
他にもアイツの発注で他社から請求が来ているが、我が社としては一切支払うつもりは無い。
不満があれば、裁判で訴えて貰っても構わない。」

ハァ〜?ナニ言ってんのコイツ?
人ゴトみたいに色男部長のせいにしてるけど、
仮にも会社の部長職が起こした不祥事に対して会社として責任を負う気がない事を宣言しやがった。
コイツも色男部長に負けず劣らず底が浅い男ってコト?
しかし、色男部長にしろO取締役しろ、管理職と経営陣が責任放棄する体質が染み込んだ極めて程度が低い会社って事だなぁ。
それに俺らみたいな零細事業主は、裁判なんかしないって高を括ってバカにしてるんだろうな。
それならそれなりの対応させて頂きますかね。

「お言葉を返すようで大変恐縮ですが、以下の件について御社のご意見をお聞かせ下さい。

逃げた色男部長を無責任と仰りますが、御社は社員の不祥事に対する任命責任を負わずに我々取引先に対する発注責任からも逃げようとしている。
これを無責任と言わずに何と言うのでしょう?
また、その稚拙な対応は、貴方の親族であり日本国首相まで務められた亡きO先生の名誉を著しく貶める行為だと理解していますか?
成る程、確かに裁判沙汰は結審まで労力と時間がかかり大変ですが、弊社としての選択肢の一つです。
もう一つの選択肢としては、これまでの経緯をマスコミに伝えるコトも考えられます。
首相経験者である著名政治家の関連企業が起こした不祥事は、マスコミにとって格好の餌食になるとは思いませんか?
幸い私の知人に新聞や雑誌の記者が何人かおりますが如何でしょうか?
たかだか数十万円の請求から逃げるのと、O先生や会社の信用を貶めるのと、御社としてどちらを選択されますか?」

思わぬ反撃に明らかに動揺したO取締役。
急にしどろもどろしだしたぜ。

「そ、そういう事なら個別に対応してもいい…」

「いや、ご対応は無用です。
裁判かマスコミか、どちらにしても同じ被害者であるエステ本体にご迷惑をお掛けする事は避けなければなりません。
弊社としては第三の選択肢を行使します。
ご安心下さい、当該請求は放棄します。」

「えっ?それはどういう…?」

「分かんねーかな?オメーらみたいなアホ会社とこれ以上関わりたくねーんだよ!行くぞFP氏。」

目を白黒させるO取締役を残して颯爽と退出する俺達。
帰り道、当初の高揚感は何処へやら…
勢いで啖呵切っちゃったけど、やっぱ請求した方が良かったかしらん?ってチョイ後悔し出したぜ〜。
そんな俺の様子を見て取ったFP氏言い出した。

「いゃあ50オヤジさん、よくぞ言ってくれました。50オヤジさんが言わなきゃ僕が言うところでしたよ。」

ゴメンなFP氏。
やっぱタダ働きになっちゃったな。
でも、今回のプレゼンを通して、FP氏が言う《上質なお茶の世界》って充分理解出来たぜ。
コレは大きなビジネスチャンスに繋がるよな。
FP氏よ、俺の取引先で興味を惹きそうな会社が数社有る。
プレゼン内容を修正して、片っ端から当たってみるか?

「イイですね!是非やりましょうよ!」

よーし、切り替えて次行ってみよー!
思いも新たに青山通りを引き上げる二人の男の脚取りは、ココロ持ち軽くなったようだった…

後記
数日後、FP氏が慌てて連絡して来た。

「大変です!《Leaf Bar》の商標特許を取得しようとしたらお茶の専門店として既に登録されてましたー!
登録したのは、あのグラフィック屋です!」

な、なんだって!
プレゼンに同席したグラフィック会社ってか?
あのヤロー散々貶してたくせに、火事場泥棒みたいな真似しやがって。
クリエイターとして恥も外聞も無い行為だぜ。

全く今回は《踏んだり蹴ったり》って言うか《踏まれたり蹴られたり》が正しい表現だな。
やっぱ、ロクでもない会社にはロクでもないヤツが集まるのは必然なんだろーな。

青山って恐ろしかトコロばい…
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