『★『1985年のシグナルグランプリ』』50オヤジさんの日記

RCM kawasaki Z1R

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日記詳細

1985年9月
少しひんやりとした空気が初秋を感じさせる21時。
246 用賀一丁目交差点の信号が、まもなく青に変わる。
最前列に並ぶのは、YAMAHA RZ350・HONDA CB750F・CBX400 そして俺のKAWASAKI Z400GP改。
渋谷よりココまで、シグナルGPを繰り返して来た野郎ども。
お互い何処の誰だか知らないが、この片側3車線の長いストレートの先、環八と厚木方面へのアンダーパスの分岐
までの約400mが、第1stの終了となるコトを暗黙の了解として皆が認識している。
あと数秒で信号が青に変わる。

ココまで、俺に先行を許していた野郎どもは一斉にスロットルを煽り、エンジンの回転数を上げて最後の勝負に
備える。
特に隣に並んだRZ350は、2スト特有の甲高い乾いた排気音と共にチャンバーより白煙を上げてヤル気満々だ。
ストリート最強と謳われるRZ350の名にかけて、今度こそ俺のZ400GP改をブチ抜くつもりだ。
よく見りゃYUZOのクロスチャンバーじゃねーか!
日本人初のGP世界チャンピオンライダー片山敬純のメカニックとして、欧州を転戦した柳沢雄三氏が自ら仕上げた
幻の逸品だ。
コイツは、相当気合いが入った2スト乗りだな。
カタログスペックでクラス最弱と言われたZ400GPなんかに何度も負けちゃ、そりゃあ熱くなるわな…
俺も徐ろにスロットルを煽る。
まるで挑発するが如く、モリワキ4in1ショート管が野太い咆哮を響かせる。
それに答えるように野郎どもも一際回転数を上げ、信号が青に変わるのを待ち構える。
勝負は既に始まっている。
ゼロヨンやシグナルGPの場合、回転数の上げ過ぎは、ウイリーや後輪スライドを引き起こし、必ずしも速さには
繋がらない。
適正回転数での滑らかなクラッチミートが必須だ。
俺の術策に嵌り、信号が変わる直前に回転数を一段上げてしまった野郎どもの勝率は一つ下がってしまったぜ。
ギアを1速に入れ、クラッチを握り信号に集中する。
野郎どもは目前の信号に集中しているが、俺の目線は一つ先の信号を捉えながら、交差点右の点滅する
歩行者用信号を目の隅に意識する。

ココの交差点は、歩行者用信号の青の点滅が終わると、一瞬の間を置いて進行方向の信号が青に変わる。
同時に一つ先の信号も青に変わる。
目前の信号に集中していると、目線を戻すにはコンマ何秒かのロスが出る。
俺は歩行者用信号の点滅でリズムを計り、一瞬の間を狙いスロットルを開け、一つ先の信号が青に変わる刹那にスタートする。

GO!

轟音と共にスタートする4台のマシン。
一番手は、排気量を活かしたCB750F。
続いてRZ350と俺のZ400GP改。
案の定CBX400は回転数を上げ過ぎ、後輪スライドで出遅れた。
4500回転でクラッチミートした俺は、6500回転付近で二速にシフトアップ、更にスロットルを開ける。
先行するCB750FをRZが白煙と共にブチ抜いた。
さすがナナハンキラーの名に相応しい加速だ。

100m付近

RZと俺の差は約10m。
勝負はココからだぜ!
RZが振り撒く白煙の霞の中、カストロールオイルの芳しい匂いを嗅ぎながら俺は素早くスロットルを奥まで握り返し更に開けて行く。
二速6000回転から7000回転まで回すと、フロントがじわじわと持ち上がり、タイヤの接地感が希薄となる。
俺はセパハンとタンクに覆い被さり、必死にフロントに荷重を掛けると共に、3速にシフトアップする。
同時にスロットルを大きく一捻り、タコメーターの針はレッドゾーン付近まで跳ね上がる。
俺のZ400GP改は、後ろから蹴飛ばされたような加速で突き進む。

200m付近

3速にシフトアップしたにも関わらず、またフロントがじわじわと持ち上がろうとする。
忽ちCB750Fを抜き去り、RZに並んだ俺は、更に4速にシフトアップする。
一瞬回転数が落ちるが、半クラッチでエンジンに喝を入れ、同時にスロットルを更に奥まで開けると、Z400GP改は2段ロケットみたいに強烈な再加速を始める。
フロントは完全に浮き華奢なフレームはヨーイングを始めるが、俺は振り落とされまいと必死にニーグリップに力を込めながらフロントに荷重を掛け続ける。

300m付近

ようやくフロントタイヤが接地すると、RZも負けじと猛烈な加速を始める。
すぐ横に並んだ2台は、他車を置き去りにして突き進む。
再度レッドゾーンまで回した俺は、最後のシフトアップで5速に叩き込む。
スロットルは全開だ!
俺のZ400GP改は、矢のような加速で一気にRZを引き離す!

400m付近  GOAL!

ブレるバックミラーに映るRZは遥か後方だ。
スタートより約10秒程の勝負だが、俺は歓喜のファンファーレに包まれながら左手人差し指を高く突き上げ、
勝利の雄叫びを上げる。
スピードを落とし、ビクトリーランに移る俺のバックミラーに映るRZは、首を激しく振り納得行かぬ様子だ。
そりゃそうだ。
カタログスペック上では、負ける筈が無いZ400GPに完膚無きまで連敗したんじゃ納得行かんわな〜。
でもRZよ、俺のZ400GP改には秘密が有る。
見た目はモリワキ集合とセパハン・バックステップ程度のライトカスタムだが、純正550ccエンジンをベースに
大金を掛けて650ccにボアアップ済み。
所謂KAWASAKI ZAPPERチューンってヤツだ。
加えてノーマル軽量フレームとの相性は、チョイ癖があるけどシグナルGPには最適だ。
RZよ、今日まで君は無敵だったかも知れないが、今晩からは俺がココらの《 SPEED KING 》だぜ!

勝利の余韻に浸る俺は、環八の分岐に向かいながら、ハンドサインで野郎どもに別れを告げる …



数日後の同時刻、246の環七交差点を過ぎると、見覚えのあるヘルメットのRZ350が停車していた。

アイツだ …

一つ先の交差点で信号待ちをしていると、背後からけたたましい2ストの排気音が追いついて来た。
隣に止まったRZ350は、俺に顔を向けてスロットルを開け挑発する。

オォ〜!俺を待ってたのか?
そんなに悔しかったんだ …
リベンジってワケね。
いいだろう、そーいうの結構好きだぜ!

お互い顔は見えないが、俺はヘルメットで大きく頷き了承する。

まもなく信号が青に変わる。
俺も徐ろにスロットルを殊更に煽る。
まるで挑発するが如く、モリワキ4in1ショート管が野太い咆哮を響かせる。
ギアを1速に入れ、クラッチを握り信号に集中する。
信号が青に変わる刹那、2台は爆音と共に飛び出し、あっという間に夜の246に消えて行くのであった …


BGMは勿論コノ曲だ!
Deep Purple - Speed King
https://www.youtube.com/watch?v=XXgMN_KjzW0
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