飾らない小菜の数々がTHE ＮＩＩＧＡＴＡ : 神の宮温泉 かわら亭

画像奥左から順に、
茸と人参の炒り煮・青菜浸し・ヨーグルト・しらす干しおろし・卵焼き・蒟蒻炒り煮・納豆
ブッフェに用いる皿にあらかじめ載せてあるのはある意味スマートかもしれません。新潟県は中部地方に属しますが、食文化としては境を接する福島や山形に似ていて親近感を覚えます。甘さを控えて醤油で炊く料理には郷愁さえ覚えます。豆乳鍋は体を温めてくれるとともに、まだ覚めやらぬ頭も起こしてくれるようでした。甘塩鮭焼きは関西の人には違和があるでしょうが、東日本人にとっては朝昼に定番の魚なのです。おかか・漬物・梅干・明太子は地のものではないながら朝食を彩っていました。まるでばぁばのこしらえた惣菜のようで強く親近感を覚えました。とろろ昆布の白い味噌汁は隣の富山の影響を受けているのでしょうか。日本とひとくくりにしても地域の文化が残っていて楽しいものですね。


総合☆２．４

温泉施設に併設された宿泊施設という思い込みもあり、あまり期待していなかったのです。
ところが予想外に接遇が素晴らしく、部屋は清潔、食事もおいしいという、経営努力というのはこういったすぐに出来ることを現場が主導して実践するものだと深く思い知らされました。

夕食の場所は広間でした。
他のグループを遮るように衝立が施してありました。配膳の方の言葉遣いも所作も恭しく、とても清々しい気持ちで夕食に与れました。


・食前酒　岩の原　桃ワイン
桃にしてはドライな、食前酒としても甘くない部類に入ると思います。乳酸発酵させたかのようなヨーグルトに似た風味のあるおいしい食前酒でした。

・先付　田舎風切干し大根
長いものはねじって盛り付ける、美しさを求める技の基本中の基本です。味付けが少々甘かったのが好みではありませんでしたが、切干はなかなか長く、上手く戻されて丁度よい歯応えでした。

・前菜　本日の盛り合わせ
説明はありませんでした。菜花の浸しは雪国から春を心待ちにしているようでよいものですね。淡い出汁によく浸っていました。浅蜊の炊いたものは形を留めていましたがやや甘い味が八寸の常道のように感じました。芋なますのような品が気に入ったのですが、芋にしてはしなやかではなく、大根にしてはぱりぱりとしないので解析できませんでした。胡桃なのでしょうか、ナッツを寄せた品は甘過ぎず歯に詰まらずよい食感でした。

・造り　海鮮四種盛り
鰤が飾り包丁が入っていながらとろけました。甘海老もまた海老味噌にクセが無くおいしくいただきました。平目は若い固体なのか淡白でした。赤身はドリップとともに旨味も除かれてしまったような味わいにがっかりしました。

・焼物　鮭味噌漬焼き
この鮭は本当に美味しかったです。味噌の香りだけが身に移って塩気は移っていないのです。漬けたからには身が縮んでいるはずのところ、まったく強張っていませんでした。あまりにも気に入ったのでご飯の供にしたく取り置きしました。

・箸休め　本日の箸休め
豆腐の餡かけ、と一言に済ませてしまうのはあまりにももったいない強い存在感でした。和会席でも必要になる匙が用意されるものなので茶碗蒸しが供されるのかな、と想像していたところに高い完成度の逸品が現れました。豆腐というよりもとろけるような粘度を持った豆乳といったものに、薄い醤油餡がかけられ山葵が添えてありました。この品は供されたらすぐに食べてください。けっして火傷はしないはずです。山葵があまりにも合うので造りから借用しました。豆腐と餡の粘度に違和が無いことも無視できないと思います。思わず夢中で口に運んでしまいました。

・台物　国産牛瓦陶板焼き　かんずり卵・藻塩・山葵
瓦は鉄製だったように見受けました。硫酸紙らしき紙が焦げ付きを防ぐ役目を果たしているのでしょうか。それにしても紙が焦げないとは謎ですよね。敢えて種明かししない衝動に駆られました。肉片は重なっていたので、それを拡げるための箸も用意されているのは流石です。自分のような齢になると脂の載った国産牛はこれでも多く感じられるのです。そのようなところに供されたかんずり卵は、スキヤキを食べるかのような豊かさと、柚子と唐辛子の爽やかな刺激と相まってとても気に入りました。かんずりとはほぼ柚子胡椒なのですが、緑ではなく赤いことが食欲に何かを与えているのですね。他の薬味は山葵と藻塩でした。

・煮物　郷土料理　のっぺ
椀ではなくあくまでも煮物なのですね。ほんのり甘いのも煮物の系譜なのですね。里芋のぬめりが粘っていました。干し椎茸と干し小柱の出汁によって豊かな味わいをもたらしていました。蛇足…干し貝柱を用いるのは会津の"こづゆ"に似てますよね。新潟県は中部地方に分けられますが、食文化に於いては東北地方に近く、いつも親近感を抱いています。

・洋皿　和風ラタトゥユ
ここでも里芋が活躍します。とろみが里芋のぬめりなのです。そして玉葱ではなく長葱です。ポロ葱を意識されているのでしょうし、青みの苦味が味わいを深くしていました。

・揚物　海老真丈
真丈は塩気が強く海老の香りを引き立て、均衡計るかのように餡は薄い味付けでした。緩急のある面白い演出だったと思います。


・食事　自家製コシヒカリ・赤出汁・香の物
米は荒削りな印象を持ちました。つきが甘いかと思います。赤出汁と謳っていますがそれほど赤味噌の主張は強くなく、むしろ合わせたかのような白い味噌の甘さも感じられるものでした。

・水菓子　一口ケーキ
水菓子とあったのは誤りだと指摘しておきます。水菓子とはフルーツを指します。とはいえ本当に一口の大きさで、霞を喰らうような体験だったことを記しておきます。


総合☆２．７
品書きを見せるにふさわしくないとは思いませんでした。機会があれば利用たいものです。