〜 アットホームなのに、本格的イタリアンが七里ヶ浜に浮かぶ 〜 : リストランテ シーヴァ

その日も首都高湾岸線を横浜方面に向けて走っていた。

音楽が静かに響く中、暮れたばかりのきれいな夜景が尾を引くように窓の外を流れていく。鶴見のつり橋を通り抜ければ、虹色に輝く観覧車や鮮やかなブルーに照らされるベイブリッジが見えてくる。もう、何度も見た景色だ。

だが、その日はベイブリッジを渡ってから直進して鎌倉方面に向かっていた。鎌倉には柔らかい印象しかないが、高速を降りてからの鎌倉に抜けるまでの朝比奈峠は恐怖しかない。ときどきこの峠を果敢に攻めるひとたちが現れるからだ。ものすごい速度で何台もびゅんびゅん抜いていく。僕は目を真ん丸にして、車を端に寄せて停まり、過ぎ去っていくのをやり過ごす。恐ろしい...恐ろしい...

その夜は運良く攻めてるひとたちに出くわさず、無事鎌倉まで抜けて、湘南の海を左手に七里ヶ浜に向かう。ホッとした後に見る海の夜景もきれいだ。と言いたいが、真っ暗で何も見えない。ポンって音がして、ナビが右折を指示する。

目的地に到着してみて初めてわかったが、珊瑚礁本店の隣の隣の隣の隣のそのまた隣の隣の隣の隣ではないか。そこにはリストランテシーヴァがあった。本当に七里ヶ浜にはいいお店が集まっている。アマルフィーイも有名だ。というより、地元民でもないくせに、僕が何度も訪れすぎなのではないか。

シーヴァは珍しく早めの18時に予約していたが、到着したのは30分前。なんか新しいお店はないかとブラブラしていたが、途中で飽きてオープン前なのに入店を試みる。嫌な顔ひとつせずに、暖かく迎え入れられる。他の家族連れの方たちも、つられてオープン前に入れてもらう。忙しくさせちゃったかな、と思いながらも、いつも通りちゃっかり一番端の窓際の席でくつろぐ。

内装はいたってカジュアル、オープンから次々入ってくる家族連れや豊かな夫婦、カップルといった客層のせいか、スタッフの暖かさのせいか、とてもアットホームな雰囲気が漂っている。自分のように遠くから来ているというより、どちらか言えば、地元民に愛されているお店だろう。スタッフの方も丁寧に対応してくれる。

さて、しばらくすると、楽しみにしていたコースが始まる。

1.赤えび フォアグラ
赤えび、フレッシュいちご、ローストしたみょうがを、一度凍らせてパウダー状にしたフォアグラで覆い、ゆずのソースでいただく。とろけるフォアグラの風味が口に広がる中、甘い赤えびが滑らかに舌をすべり、イチゴの甘酸っぱさが味を引き締めて、美味しい。このフォアグラのパウダーはルシエールで食べたやつに近い。

2.たこ ビーツ
シオのたこ焼きを彷彿させるが、こちらのほうが好きだ。赤ワインに2日間漬けて48度で2時間低温調理したたこは、想像を絶するぐらいに柔らかい。このたこはビーツのマリネ、ハーブとともに、焼きナスのピューレ、ビーツのピューレ、フランボワーズのソースでいただく。柔らかいたこが酸味と甘みの効いたソースとよく絡み、美味しい。

3.赤イカのタルタル
シーヴァの料理は想像以上に手がこんでいる。ひとつの料理に豊富な食材を使い、多重な味覚を重ねて、奥行きを持たせている。説明も丁寧であり、聞き返しても笑顔のまま答えてくれる。こちらも、赤イカのタルタルに、ハーブのディル、ケッパーを合わせ、バルサミコ酢で味を引き締めつつ、キンカンやココナッツのグラニテを載せて、多様な味と食感を重ねる。口の中に様々な響きが広がり、美味しい。

4.ボロネーゼのタリアテッレ
最初のフォアグラでフレンチかと思っていたけど、イタリアンであったことをタリアテッレで思い出す。やっぱりコースにパスタが挟まれるのは嬉しい。こちらは魚介とトマトをワインで煮込んだブイヨンベースのボロネーゼであり、マイクロセロリやレモンピール、クルトンが載せられる。魚介の旨味が絡らみつくタリアテッレが噛むとともにほんのりした甘みを口の中に広げ、わずかな酸味で舌先を引き締め、美味しい。

5.三崎港メジナのポアレ
ポアレしたメジナに、鎌倉ねぎのマリネ、鎌倉おかひじきのフリットを載せて、ナスタチウムで飾り、エシャロットとともに煮詰めた白ワインのソースでいただく。鎌倉らしい料理だ。弾力のあるメジナが口の中でいとも簡単にとろけて、ソースもよく馴染み、すっごく美味しい。素材がいいのか、火入れがいいのか、わからないが、気に入った。

6.サルシッチャのリゾット トリュフ
イタリアン王道のリゾットだが、好きなやつだ。リゾットに松の実やマジョラムを散らし、黒トリュフで覆い尽くす。トリュフの香りが鼻を抜けていき、恐らくブイヨンとパルミジャーノで旨味をまとわせたであろうリゾットがまとわりつくように口の中に広がる。サルシッチャの噛みごとえと旨味がそこに加わり、ピリっとした黒胡椒が最後に演奏を終わらせる。すっごく美味しい。カルボナーラもそうだが、少量の黒胡椒が味覚の中で映える。

7.牛ザブトンのロースト
US牛のザブトンをローストし、レンズ豆、赤キャベツ、菊芋を付け合わせて、赤ワインのソースでいただく。特筆すべきことはないが、肉料理はやっぱり食材と火入れで決まるのかなと。まあ美味しい。

8.ショコラ ミルクジェラート
ヘーゼルナッツやピスタチオとともに。美味しかった。


予想以上に手のこんだ本格的イタリアンだった。できる限り、鎌倉の地場の食材を使い、豊富な食材で味に重なりをもたせながら、独創性のある料理を盛り込み、メイン料理の前後にしっかりとパスタやリゾットを挟むように構成している。これで1万以下で収まるのはコスパは高い。

イタリアも地中海に囲まれているが、こちらも七里ヶ浜という海に面しており、地勢的にも魚介料理が映える。実際には住宅地のど真ん中にあるが...

スタッフの方のサービスも、暖かみがあり、丁寧でいい。こちらの要望にも笑顔で応えてくれる。最後に芝先シェフに、お店の名前はインドのシヴァ神を称えてつくったのかと質問すると、笑いながら自分の名前をとっただけだと答えた。昔、芝先シェフはサローネにいたらしい。

お店を後にして珊瑚礁の前を通った後、ドライカレー食べてく？ と一緒にいった相手に言うと、は？と怒られた。どちらにしても、もう、閉店の時間だ。お腹もいっぱい。朝比奈峠で攻めてるひとたちに出くわさないことを願って帰ろう。

またひとつ七里ヶ浜に定期的に訪れたいお店が増えたような気がした。