昔憧れた大人の酒場 : 阿留酎

９月再訪

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今から20数年前、僕がまだ二十歳の大学生の頃、マーカスというアダ名の同級生がいた。
彼の部屋は芦屋の辺りにあり、悪友たちと『マーカスランド』と呼び、その部屋
で良くたむろして遊んでいた。

マーカスには歳の離れた酒好きの兄ちゃんが居り(当時で40歳ちょい手前くらい
の髭もじゃの兄ちゃんだった)、時々マーカスランドを訪れてはマーカスを飲み
に誘っていたようだ。 或る夜、僕らがマーカスランドで遊んでいると、その兄
ちゃんが飲みに誘いに来て、弟の友達である僕らも連れてってくれることになった。

西宮北口から少し離れた分かりにくい場所の地下にその店はあった。
当時の僕ら大学生はというと、飲みに行く＝養老●瀧、つぼ●等が関の山で、
それらチェーン居酒屋と一線を画するその店「たけなか」は、僕が生で見た初めて
の『大人の酒飲み世界』だったのをよく覚えている。

ガラスのショーケースの中には無数の日本酒地酒やいろんなワインがあり、店内では
酒好きの大人たちが、それぞれ好みの銘柄の酒瓶を机の上に飲んでワイワイと楽
しんでるのだ。
当時の僕らは酒の種類なんてビールかワインか日本酒であり、『銘柄』で味が違うなんて
事が重要だなんて思った事もない、そんな頃だった

この店は凄い大人の異空間だ。

そんな風に思っていると、その異空間に誘い込まむように、ちょいワル親父風の
マスターが僕らのテーブルにやって来てワインの利き酒大会を始めだしたのだ。

よう、坊主共、お酒の世界にようこそ！とでも言わんばかりに我々の前にワインのボトルを
5～6本並べ一杯ずつ小さなグラスに注いでは「これはどんな味だ？」と感想を求めた

「これはまるでフルーツみたいだ！香りが甘い」
「すっきりしてて飲みやすい。ワインのイメージが変わった」
「口の中で皮の渋みが残る感じがする」

ガキどもが口々に好きなことを言う。

オヤジは「お前今イイ事言ったなー！！そのとおりだ！」とか「なるほどー！若
いのによく分かったなー！」 等とその返答に対しヨイショしてくれる。 僕らは
というとヨイショだと薄々気付いてはいるが、酒のプロに褒められると悪い気は
しない。 いっぱしの大人になったような気分で表情は緩みっぱなしだ。

マーカスの兄貴は、そんな僕らとオヤジのやりとりを何も言わずニコニコ眺めな
がら酒の肴にしている。 それがまたカッコいい大人の飲み方に思えた。

かくして僕らの間で、この「たけなか」というお店は自分たちが酒通のオッサンに
なれる居酒屋 として背伸びしたいガキどもの語り草になったのでした。 とはい
え、わかりにくい場所にある事もあり、マーカスの兄ちゃんがお会計を 払って
くれたこともあり、一体全体どんな高い店なのか、はたまた意外と安い店なのか
場所さえもいまいち判らないまま、それ以来たけなかには足を運べなかった。

ただ僕の中ではあの店は ガキの頃憧れた大人の世界として記憶の片隅に残っていたのでした。

時は流れ、それも二十数年という長い年月が流れ、記憶の片隅が埃をかぶって、すっかり
思い出すこともなくなっていたつい先日の事である

何気に観ていたテレビでこのお店が取り上げられていたのです。

学生の頃の鮮烈な印象「たけなか」がまだ元気に西宮で営業しているではないですか！！
あの頃、酒の味も判らず連れていってもらったあの店が！

久々に訪問したくなって、友人の中でおそらく１～２を争う酒好きのやまじゅん
に声を掛けた。

当然酒好きが乗ってこないわけがない。

そして先日、都合を合わせて阪急西宮北口で待ち合わせる・・・はずが いきなり、
やまじゅんったら、JRの西宮駅へ;;;;。

ここのお店は駅から少し離れているために、電話をすると駅まで送迎してくれるという サービスがある。
しかし、一人は阪急西宮北口で一人はJR西宮で待ってるなんていうわがままを聞いてくれるんだろうか？？

一応電話して聞いてみる。

すっすんません！カクカクシカジカ・・・そんなわがまま・・・聞いてくれる訳、あった！！！

・・・ 迎えに来てくれたのは。あの２０年前のちょいワル親父。
当時から白髪が増えた気がするが、ちょい悪オヤジテイストはそのままだ。
運転する車が西宮北口経由でJR西宮へまったく嫌な顔ひとつせず、それどころかろ、むしろ、
『おねーちゃん！どえらいベッピンさんやなー、僕は骨格でええ女かどうか、すぐわかってしまうねん』
とジローラモばりのイタリアンテイストな話術で早速やまじゅんを持ち上げている

そうこうしているうちに車は店に到着。

お店は１階の酒販店。沢山の日本酒やワインが冷蔵ケースに冷やされている

酒屋の奥には厨房が見えている。

居酒屋スペースは酒屋の脇の階段を降りて地下にあるので、まずは降りて重い扉を開く。

広々とした店内に大きいテーブルや4人掛けテーブルなどがゆったり配置されており、
贅沢な空間だ。全体的にウッディな作りで木の温もりがあり、なんだか広々とし
たログハウスに来たような感覚になる。

まずはビールを頼む。メニューはこのスペースにはない。店内の奥に、階段があり、
その階段を上がると、さっきの奥に見えた厨房の前に出る。

ここにはその日の食材がショーケースに入っている。 客は厨房まできて、それを選んで
調理法を指定してオーダーも出来るらしい 。

厨房と反対側のショーケースにはいわゆる「おばんざい」が並んでいて、そこから 選
んで注文もできる。

メニューボードも有り、そのメニューの注文もできる

どれも比較的安く、おばんざいは一品およそ3～400円くらい
一品料理も700円くらいのもんである

今日はこんなのを頼んでみた

トマトと海老のサラダ

冬瓜の煮物

トントロ塩焼き

スジコン

どれも特別な調理法や珍しい料理というわけではないが、お袋の味的な豊かで懐かしい味
だし、何よりこういう料理は日本酒にとっても合う！


さて、ビールを飲み終わる頃に、日本酒の瓶を7つほど抱えてマスターがやってくる
お楽しみの利き酒タイムだ。

マスターなりのストーリーを持って順番にお酒を飲ませてくれる。

最初は「木綿屋」実に淡麗な酒だ

まだ若い少女のような酒だと言う。確かに深みは無いが清廉とした爽やかな味である。

マスターの選んだ次のお酒「越の誉　清吟」は少女がやがて少し化粧をし、その
次の酒は酸いも甘いも知った大人の女性に成長してゆく。

最後は熟女の味わい？古酒で＾＾

ひと通り飲み終わって、ヤマジュンはコレがイイ！と言った酒にマスターは

『自分はコレが好みかー！？これは嵐で言ったらマツジュンやからなー！』

えええ！！！？？？その例え判らんーー！！！

するとヤマジュンは

『私、嵐の中でマツジュンが一番好きなんですー！！』

えええ！！！？？？マヂでー！！！

『やっぱリかー！！わははは！！』

マツジュンの例えにヤマジュンがシンクロしているなんてモリジュンびっくり！

まぁそんな感じでいろんなお酒を利き酒させてくれるのです。

で、日本酒モードになったのでマスターに、マツジュンっぽいお酒を4合瓶で何
か選んで下さいとお願いして持ってきてもらったのが、『新政　六號　なまざけ』

淡麗でありながら味わい深く香りがいいですねー！


マスターはうちらの利き酒を終えると、次のテーブルにまた酒瓶を持って行き、同じ
ように酒を振る舞い、延々とテーブルを回っているのだ。

20年前と何も変わらない光景である。

嗚呼、あれから僕もいいオッサンになって、当時憧れてたお酒の銘柄や味に興味
をもった大人の酒飲みになってるんだろうか？？

あの当時よりは少しはね

少しは変わった自分も面白い発見だが、ちっとも変わらない、この店もまたイイ
発見でした

今回はマスターに選んでもらったが、もちろん一階の酒販店のお酒を冷蔵庫から持ってきて
飲むことができ、どうやらほぼ酒店の価格で買えるようで、4合の日本酒を飲ん
で、ビールを飲んで、料理が六品ほどでお会計は独り3千円下回るコスパなのです

雰囲気が良くて安くて美味い！マスターが面白い


もし僕に歳の離れた弟が居たなら、弟の友達を一緒に連れてきて、マスターの利き酒大会
に食いつく若人達を肴に酒を飲んだら、さぞかし旨かろう。

あの日のマーカスの兄ちゃんのように

そんな風に思えるお店でした！