正調の江戸前とはいえないが、なかなかいい仕事 : 鮨　とも成

国道156号線（岐阜東バイパス）"東栄町5"信号交差点を東進。
3つ目の信号交差点の手前北側（左手）。

JR岐阜から車で東へ約15分。
あと1㌔も進めば各務原市との市境、つまりは岐阜市の東端。
岐阜市中心部の喧騒を離れ、高層建築など一切ない住宅街。
いわゆる"空が広い"といってもいい閑静な場所。
東西にのびる一直線の市道沿いにあるモダンな建物。

地元の仕事関係者行きつけの鮨屋でランチをとることに。
実は、その前々週に出向いたのだが、生憎定休日。
店にはそれぞれがもつ雰囲気（個人的にはオーラと呼んでいる）があるものだが、なかなかいい佇まいだったので印象に残った。
そのため、「このあいだ休みだった鮨屋にいってみますか？」という言葉に即賛同。

到着すると暖簾が出ていない。
前回のこともあり、嫌な雰囲気になるが、モダンな建物の右端の奥にある入口から仕事関係者が声をかけると暖簾を手に店主が出てきた。
「すいません。12時からなので」
恐縮してくれるが、正確には12時少し前なので、すいませんはこちらの台詞。

カウンター席に陣取り、まずはビールの銘柄を確認するとKIRINとのこと。
平日だし、この後も仕事の予定はあるものの、軽く一杯程度であれば問題ない。
もちろん、ハンドルキーパーの仕事関係者は上がり。

"昼のお品書き"は、

おまかせ握り　2,900円
（前菜、茶碗蒸し又は赤だし、鮨8貫と巻物、菓子）

ほかに、おまかせ（前菜、鮨、汁物、菓子）が、3,900円、5,500円、8,500円、10,500円となっている。（価格はすべて税込）。
サービス料が別途5%必要となるが、現金での支払いであれば免除されるそうだ。

おまかせ握りを茶碗蒸しでオーダー。

岐阜の鮨屋というと、あまりいい印象はもっていない。
ネタを乗せたおにぎりといった体の寿司も少なくないのは名古屋も同じだが。
さて、地元仕事関係者お薦めの寿司はどの程度のものか、いざ勝負。

まだ四十前という店主は、実年齢より若く見える。
これは先入観以外の何ものでもないが、寿司屋の店主といえば小柄なイメージがあって、180以上あるのではないかと思われるような偉丈夫はどうも勝手が悪い。
菓子は女将が作っているようで、他に若衆と思しきスタッフが1名。

洒落たグラスに注がれた生ビールが最初に運ばれてくる。

前菜は皿の上に大振りのぐい呑みが４つ乗せられてくる。
なめこおろしにしても、切り干し大根にしても、どれもピンとこない。
野暮ったい田舎料理以外に表現のしようがない。
既製品かと思わせるような前菜であれば出さない方がマシだ。
先行きに不安を感じさせる。

ついで子持ち鮎の甘露煮。
前菜の流れで、過剰に甘辛い甘露煮だったら閉口ものだと思ったが、予想に反していい塩梅。
箸で簡単にホロホロとほどける。
如何せん、舌触りには課題が残るところだが、それは今後の修練次第。
これでいいと思ってしまえば、そこまでだ。

ガリは、"千枚漬け"のように薄く切られた蕪と生姜。
甘酢に漬けたものが主流だが、酢も甘味も浅め。
生姜や蕪の風味と歯応えを楽しませてくれる。
いよいよ登場してくる握りの露払いとしては十分だ。

まずは平目から。
シャリは主張が少なく、やや甘味が立つかといったところ。
何せ小振りで、口中でほろりと崩れるといったところまでの内外差すら無理なほど。
個人的には小振りなシャリ玉は、是非お願いしたいところだが、握りに一家言ある人にとっては肩透かしといってもいいくらいだ。

平目、真鯛、鰯と続くネタは可もなく不可もなし。
この時期の平目や鯛というのは、まあ、目を瞑るとしよう。
鰯は旬の終わりかけということもあってか、それとも小振りだからか、結果的に余剰な脂もなく、必然的に特有の香りも控えめで悪くない。
刻んだ生姜を散らしたバージョンも、目が開くような差異まではないが、悪くない。
鮪はトロの次に赤身という順番が興味深い。
もちろん、意図的なものと思いたいが、そこそこ脂が乗ったトロの後にあっさりとした赤身が資するのは何だろうか。
結局、その資するところは理解できないまま流れたけれど。
車海老は熱の通し方が程良く、食感も風味も良かった。
普段、あまり好んで食べるネタではないが、今日一番印象に残った。
晩秋から旬を迎える鯖は、やや早いこともあってか締めずに刺身で。
旬の秋刀魚は軽く炙って。
江戸前風と一般的な焼き方の二種の玉、それにトロ鉄火。

いわゆる正調の江戸前とはいえないが、岐阜の閑静な住宅街にある店としては秀逸。
界隈の寿司屋と比較すれば真っ当な仕事は施されているものの、目利きの客には散りばめられたような粗も見透かされるだろう。
今後、ますますの精進を極めていくのかどうかは若い店主次第。

女将が拵えるという菓子は洋風。
ランチと言うこともあって、女性客をターゲットとした戦略は悪くない。
CPも可もなく不可もなしといったところだが、都市部に比較すれば格段にいいことはいうまでもない。
ガリや山葵といった細かいところにも配慮があり、それなりのこだわりも好感をもてるので、頑張ってほしいものだ。
機会があれば、是非夜も利用してみたい。