唯一無二のかわせみ流日本料理 : 御宿かわせみ

東京から2時間程度で行ける旅館で、あさば（本サイトの旅館部門で断トツ一位）とともに代表格と言われるのがこちら。
福島は飯坂温泉にあるお宿です。

とはいえ此方は、あさばとある意味対極。
設えにしろ料理にしろ、こちらは高級という言葉が似合う宿で、一方あさばは上質という言葉が似合う宿。
料理で言うと、地元の素材の良さをそのまま切り取ったかのようなあさばに対し、雲丹や鮑などのいわゆる高級食材に手を加えて存在感で魅せる此方。
また、メインの料理含め常に新しい料理を出すかわせみと、毎年ほぼ同じ料理を季節替わりで出すあさば。
また歴史で言うと、500年以上のあさばと、創業して21年ながら開業してすぐに話題になった新進気鋭とも言える此方。
料金はさして変わりません。

なので、どちらが好みかは大いに分かれるところ。
ちなみに私は、此方の宿は出来て間もない20年ほど前に一度行ったきりで、その間にあさばは10回近く訪問。
まあ、そういうことです。

ただ今回、義理の両親のお祝い事で温泉へ行こうということになり、20年ぶりに投宿。
こういう場合、好みが分かれやすいあさばより此方の方が、万人受けするという意味での安心感がある。

福島駅からタクシーで20分、3000円少々で着きます。
ロビーからは池が見え、鴨も遊び、良い感じ。
離れの露天風呂付の部屋にしました。
雛罌粟（ひなげし）という部屋と紫苑（しおん）という部屋。
この部屋付露天風呂は、庭の眺めも良くてかなり良かったです。
ちなみに、一泊二食付きで一人5万円少々。

で、食べログなので、料理の話を。
まずは夕食。
かわせみ流日本料理と銘打ち、料理は月替わり。
特にメインとなる料理は吟味特選と称し、高級素材を工夫を凝らした調理で頂ける。
しかもその吟味特選は、その年のその月限定で、同じ料理は原則として二度と出さない。
伺った2017年6月は、「黒あわびと障泥烏賊（あおりいか）昆布〆　グアンチャーレの熱板焼」ですよ。
他では頂けない、まさにかわせみ流日本料理。
それ含め、当日の料理は以下になります。

＊会津アスパラおかき揚げ
＊ビーツ四方
＊岩がき白玉椀
＊ホタル舞う宵の盛り合わせ
＊本鮪造り
＊真子鰈造り
＊黒あわびと障泥烏賊昆布〆　グアンチャーレの熱板焼
＊新蓴菜美味酢浸し
＊無花果白味噌掛け
＊冬瓜うなぎ山椒ジュリー
＊食事　白飯　仙台牛炭火焼き　香の物　赤出汁
＊ブルーベリーのグラタン　コーヒーアイス

さすが名声に違わぬ料理の質。
高級食材を随所に用い、比較的しっかり目の味付けをして、インパクトある料理に仕上げる。
一方、抜くところは抜いて、緩急を持たせる。
独自の工夫ある料理も多く、まさにかわせみ流。
素材の質は、最上級ではないもののかなり高く、温泉旅館で頂ける料理としては、最高峰であることは確か。
20年前に伺った時は、気負いがやや空回りしている感があったのですが、今は気負いの中に落ち着きというか余裕も垣間見える。一方で、変わらず研究熱心であることも伝わってきます。以前よりもさらに、良い意味での創作色というか工夫がありました。
手を掛け過ぎて高級素材の良さを削いでいた感があった前回より、印象はかなり良かった。
また、温かい料理は皿もきちんと温めているなど、旅館とは思えない手の掛け方もさすがです。

大満足の夕食後には、夜食のお握りも出してくれ、そういうところも気配りが行き届いています。
ただ、さすがにお腹いっぱいで食べられませんでしたが（汗）。

翌朝も一味違う朝食。
豆乳・生ハムサラダ・太刀魚の塩焼き・温泉卵と生湯葉の出汁浸し・朴葉味噌焼き・ご飯・しじみの味噌汁・香の物・海苔・じゃこなど。デザートで、冷やしぜんざい・グレープフルーツゼリー。
普通の旅館で出て来る、干物や玉子焼きなどは出てきません。甘味も、果物を切っただけではなくて、手を掛けてる。
ご飯がもう少し固めの炊き方だと嬉しかったですが、旅館としてはかなり美味しい朝食。
湯葉がトロッとして美味しかったし、太刀魚も脂が乗ってた。
朴葉味噌は、素朴ながらご飯が進みます。
海苔は底に火を入れた器に入れられ、ずっと湿気らない工夫をするなど、細部まで怠りなし。
あさばのような、シンプルながら素材を吟味した和朝食の最高峰と言えるようなレベルには及びませんが、十分美味しい。

義理の両親も、とても喜んでくれ、良かった。
超久し振りに訪れた此方、料理もサービスもかなり良くなってました。
普遍的な意味での高級旅館として、間違いなく最高レベル。
誰と行っても、絶対喜ばれるタイプの宿。

今度はそんなに間を開けず、再訪することを誓う。

ご馳走様でしたー。

以下、夕食の詳細です。

＊会津アスパラおかき揚げ

お酒のおつまみに最適な、白エビのから揚げとアスパラのあられ揚げからスタート。
カラリと揚がってます。
素材の質は普通なものの、乾杯にはもってこい。
そういう意味で、会席で定石の、あっさり系料理からスタートではないところがニクイ。
付けるのがカレー塩という一捻りもその目的に適っているし、その点も此方らしい。

＊ビーツ四方

緩くまとめたビーツのムースに、雲丹をたっぷり掛け、少し酸味ある出汁ジュレを添える。
ビーツの甘みと雲丹の甘みが合わさり、そこへジュレの旨みが追い打ち。
至福。

＊岩がき白玉椀

これは素晴らしかった。
牡蠣を細かく切って、白玉生地の中に詰める。
吸地は、牡蠣の出汁にカツオだし。
白玉の中の牡蠣の風味が濃厚で、素晴らしく美味しい。

＊ホタル舞う宵の盛り合わせ

もろこし松風・蛸柔らか煮に香草ソース・鴨にオレンジと独活・空豆のチーズ白和え・アイナメ南蛮漬け・サザエの海苔ジュレ掛け。
どれも一工夫あります。一方、蛸はとても柔らかくいなど、基本的な部分も丁寧。
鴨がとても美味しかったな。
他も、きちんと美味しかった。

＊本鮪造り

中トロが、柔らかくて脂の乗りも適度で美味しく、藤田水産の鮪を思わせる出来。

＊真子鰈造り

レモン醤油で頂きます。
それ程酸味はきつくなく、さっぱりとしてなかなか良いです。

＊黒あわびと障泥烏賊昆布〆　グアンチャーレの熱板焼

昆布を敷き、下から炭火で温め、適温になれば頂けます。
グアンチャーレは、豚の頬肉の塩漬けだとか。
半透明ですが、熱を加えると透き通ってきます。
黒アワビの上には肝のソース、グアンチャーレとともに頂く。
グアンチャーレは、少しベーコンっぽい風味もあり、鮑にさらにコクを与える。
肝のソースが、素晴らしく美味しい。鮑も事前に蒸しており、柔らかい。量もたっぷり。
ただ、グアンチャーレに鮑は、少し過剰かも。
とはいえ、美味しいことは美味しいので、この良い意味での過剰感こそ此方らしいとも言える。
あおりいかは、イカ墨のサバイヨンソースを掛けており、これも美味しい。
白アスパラには生ハムを巻いて食べるなど、工夫を凝らしてこれでもかーと色々重ね、インパクトある印象深い料理に仕立ててる。
まさに吟味特選というだけはあります。

＊新蓴菜美味酢浸し

じゅんさいの季節ですなぁ。
出汁と酢を合わせた美味酢にじゅんさいを入れ、上におくらとろろ・梅肉を乗せてさっぱりと。
濃厚なメイン料理の後だけに、口がさっぱりとして良いな。

＊無花果白味噌掛け

これも、小品ながら美味しい。

＊冬瓜うなぎ山椒ジュリー

ウナギを焼いて、山椒のジュレをたっぷり。
その上には花山椒も少し。
ジュレは、それ程は山椒が強くなくて、それが鰻と合ってました。

＊食事　白飯　仙台牛炭火焼き　香の物　赤出汁

ご飯は、切り飯に盛り付け。
お供が、胡麻味噌を掛けた仙台牛という良い意味でのクドサも、最後まで此方らしい。
ご飯は少し柔らかめですが、美味しい。
香の物の茄子がさっぱりとしていて、良かったな。

＊ブルーベリーのグラタン　コーヒーアイス

手堅く美味しく。
でも、凝ってますなぁ。

以上です。