気を衒わぬ酒を呼ぶ料理の数々…『和食すがわら』 : 和食すがわら

當初は『はれとけ』さんへ行く予定でおりましたが先の秋田豪雨にて店舗が被災されてしまいましたので菅原店主の御両親が営まれる『和食すがわら』さん約十四年ぶりに寄せていただくこととなりました｡カウンター席を用意していただいたつもりでおりましたが掘り炬燵式の広めのテーブル席へ御案内いただき先ずは雑味を全く感じさせぬ生ビールで渇いた喉を潤しました｡料理は豪華過ぎる先付八寸から始まった七千円のコースは気を衒わぬオーソドックスな料理の数々｡その豪華過ぎる先付八寸には上段左手より､かに酢とともに味わう『ずわいがに』の剥き身の『かにみそ』和え､『海蘊酢(ﾓｽﾞｸｽ)』､『烏賊(ｲｶ)の腑腸和え(ﾌﾜﾀｱｴ)』､白磁の笹型の長皿に盛込まれた『蛸(ﾀｺ)の桜煮(ｻｸﾗﾆ)』､木製スプーンに載せられた『オクラといくら』のスプンティーニ､『鯵(ｱｼﾞ)の小袖(ｺｿﾃﾞ)ずし』､『鱧(ﾊﾓ)の南蛮漬(ﾅﾝﾊﾞﾝﾂﾞｹ)』､『燻り雅香(ｲﾌﾞﾘｶﾞｯｺ)とクリームチーズ』､『胡麻豆富(ｺﾞﾏﾄｳﾌ)』､鰻(ｳﾅｷﾞ)と胡瓜(ｷｭｳﾘ)の『鰻柵(ｳｻﾞｸ)』の酒を呼ぶ料理の数々､そして料理人の腕の見せどころである椀物には梅肉(ﾊﾞｲﾆｸ)で留められた『鱧(ﾊﾓ)』と独特の喉越しが堪らない秋田名産の『蓴菜(ｼﾞｭﾝｻｲ)』､椀妻に揚げだしの『湯葉(ﾕﾊﾞ)』､青みにオクラ吸い口に青柚皮(ｱｵﾕｽﾞｶﾞﾜ)を使った椀物は昆布出汁(ｺﾌﾞﾀﾞｼ)主体の上品な吸い地の美味しさが五臓六腑に染み渡ります｡向付はクリスタルの長皿に盛込まれた九絵(ｸｴ)とは異なる當地では『あら』と称される白身魚の『生海胆(ﾅﾏｳﾆ)』巻､天然『本鮪(ﾎﾝﾏｸﾞﾛ)』の中トロ､『甘海老(ｱﾏｴﾋﾞ)』､『帆立貝柱(ﾎﾀﾃｶｲﾊﾞｼﾗ)』の四点盛｡山葵(ﾜｻﾋﾞ)に菊花(ｷｯｶ)､紅蓼(ﾍﾞﾆﾀﾃﾞ)､刻み茗荷(ﾐｮｳｶﾞ)の薬味と割り醤油を使い分け味わいました｡焼物は竹籠に盛られた『銀鯥(ｷﾞﾝﾑﾂ)』の西京漬(ｻｲｷｮｳﾂﾞｹ)に『あわび』と鮑(ｱﾜﾋﾞ)の肝(ｷﾓ)ソースの和風グラタンのバケット添え､蒸し物には『車海老(ｸﾙﾏｴﾋﾞ)』と『ずわいがに』の甲殻類のすり身と木耳(ｷｸﾗｹﾞ)の蒸し物の上に『甘鯛(ｱﾏﾀﾞｲ)』が載せられたっぷりの鼈甲餡(ﾍﾞｯｺｳｱﾝ)とともに味わうひと皿｡強肴には『秋田錦牛(ｱｷﾀﾆｼｷｷﾞｭｳ)』の和風ローストビーフに『キャビア』夏野菜と茄子(ﾅｽ)の甘酢餡(ｱﾏｽﾞｱﾝ)､締めの食事は『河豚(ﾌｸﾞ)ぞうすい』と香の物｡食後の甘味に『カスタードプリン』と『小豆(ｱｽﾞｷ)と抹茶(ﾏｯﾁｬ)アイス』の二種と焙じ茶(ﾎｳｼﾞﾁｬ)｡全10品の料理は何れも美味しく大満足｡近くに店があったら週イチの頻度で通うことでしょう｡レビューこそ書いておりませんが現在の場所に移転される以前の『和食すがわら』さんには十数回足を運ばせていただいております｡今回はとても久々の再会となりましたが往時の昔話に花が咲き女将さん大将との会話のキャッチボールを愉しみつつ楽しい時間を過ごさせていただきました。

和食 すがわら は現在の場所に移転されてから早十年余の時が経たれたと云う…。

以前は、秋田の玄関口であるJR秋田駅に程近い千秋久保田町と云う場所で木造の
こぢんまりとした店で営業されていた。

現在の秋田市内の料理店の状況については良く判りませんが、当時は旨いものを供して
戴ける店と云えば、當店 すがわら、山王エリアの 魚菜専科 入船、四季彩しばた
の三軒が頭ひとつ以上、飛び抜けており秋田出張時に當店も四～五回程、利用させて
戴いたことがあったが移転後の店舗には今回が初めて、何と十年超ぶりの訪問となった。

予約を入れた際に料理は六千円、七千円、八千円、壱萬円の四つの価格帯があり、
壱萬円のコースは【河豚づくしのコース】か河豚と旬のものが味わえるコースとが選択
できると云うことだったので、いろいろ味わえる壱萬円のコースで予約をお願いした。

久しぶりに再会した友人と諸事情で日の高い時間には乾杯することはできなかったが、
夜は思う存分、酒を酌み交わすことができる。

供される料理に期待をしつつ予約時間に友人と二人で伺った。

新しい店舗は何軒かの店が集まったサンパティオと呼ばれる商業集積の中にあった。

和食の店なのだが外観はコンクリートがむきだしで何となくモダンな感じの雰囲気…。
入口のドアも和食店のイメージとは程遠い洋食店風の玄関周りの造りになっていた。
予約名を告げると、個人的にはカウンター席が良かったのだが、こちらへどうぞ～と
奥手にある座敷席の方に案内されてしまった。

とりあえず昼間お預けとなってしまった再会の乾杯を瓶ビールで済ませると、秋田杉の
木箱に詰め込まれた【八寸】と別皿に食べ易く包丁が入れられた【毛蟹】が供された。

木箱の中には、大小 六つの小鉢や皿に【焼き河豚】や【海鼠腸】や【莫久来】と云った
珍味など酒呑みにはうれしい酒肴の数々がいろいろと詰め込まれていた。

【毛蟹】は蟹を剥くのに夢中になって会話が消え去らないようにとの配慮か…食べ易い
よう剥き身にされたものが少量供されたが毛蟹の身は甘く蟹味噌の味も愉しめ満足…。

次に【てっさ】のおめみえ。
皿には薬味とともに【皮の湯引き】と【身皮やぶつの湯霜造り】、【河豚の煮凝り】なども
一緒に盛られていた。
【てっさ】は一枚一枚喰らうのではなく七～八枚まとめて箸ですくい取り【皮の湯引き】と
薬味を一緒にくるくると包んで豪快にパクリとやる。

秋田は一般的には余り知られていませんが意外にも河豚が良く揚がる漁場なのです。
東北の日本海は河豚の隠れた産地で、なかなか良質な、とら河豚の味を愉しむことが
できます。

そして【土瓶蒸し】と【からすみ】が供された。
【土瓶蒸し】の中身は【ゆきのした】と呼ばれる天然のえのき茸の出汁で旬の【生鱈】、
銀杏、三つ葉などが具材として使われていました。

自家製の【からすみ】もなかなかの出来栄えのもので大根との相性は抜群ですね。
思わず切子の猪口の酒が進み過ぎてしまいます。

ほんのりと【さくら色】した【真鱈の白子】もとても美味しい季節となってきました。
白子の密度の濃い濃厚な味が愉しめました。

そして【焼物】は【柳鰈】と【鮑の肝ソースグラタン】。
【柳鰈】はひき締まった身に程良い脂がのっており淡泊な中にも上品な旨味が味わえ
個人的には好きな焼魚、対して【鮑の肝ソースグラタン】はとても濃厚な味わい。

鮑の肝を裏漉ししたものにバターとホワイトソースが加えられ何とも云えぬ奥深いコク、
厚めに切られた鮑の身に濃厚なこのソースが絡み合い和食を超え気分は御仏蘭西…。
残ったソースを添えられたバケットで綺麗にディップして戴きました。

【蒸しもの】は蒸し焼きにされた【のどぐろ】は【蟹】と【海胆】の豪華な葛あんで覆われ、
贅沢の極み… 味は云うまでもなく絶品でした。
この料理の味こそが、和食すがわらの味と云っても過言ではないでしょう～。

そして地元牛、あきた【三梨牛】のローストビーフとトマトとサラダ。
美味しいには美味しかったのですが絶品の【蒸しもの】の後に、この料理はちょっと
余分な様に感じてしまいました。

【香の物】が供され食事は、【河豚ぞうすい】。
これは、あえて説明は不要でしょう～。
昆布出汁の中に河豚と玉子が絡み合い、とても滋味深く美味しかったです。

口直しに【白い珈琲ゼリー】が供されました。
色は白いのですが珈琲の香りと味がしっかりとする不思議な、なめらかなデザート。
スプーンも面白い形をしておりましたが、物珍しいデザートでした。

昔と変わらず質の高いものが供されたことは、それなりの評価に値すると思います。

供された料理は総じて美味しいものばかりでしたが敢えて申し上げれば終盤戦に
供された【三梨牛】のローストビーフのサラダは流れの上でも余分なように感じました。

地酒の品揃えも豊富にあり選ぶのに迷ってしまいます。
そんな時は女将さんに供される料理に合う酒を選んで供して戴くようにお願いすれば
一挙に悩みも解決します。

旧友との久しぶりの再会で酒はいつもより多く呑み過ぎてしまいましたが呑んで食べて
勘定は二人で二萬六千円也と良心的で、お腹も満腹、気持ちも満足…。

十有余年ぶりに伺った和食すがわらは期待を裏切ることもなく機会があれば是非また
伺ってみたいと思わせる店でした。

帰りに店主と女将さんとお二人揃って、ご丁寧にも店外まで見送り戴いたことも
地方の店としては好感度アップですね…。