夏雲の 影を紡いで布を織る」 : たつ福

たつ福

(たつふく)
寿司EAST百名店2022選出店

食べログ 寿司 EAST 百名店 2022 選出店

予算:
定休日
月曜日

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¥10,000~¥14,9991人
  • 料理・味-
  • サービス-
  • 雰囲気-
  • CP-
  • 酒・ドリンク-
2012/08訪問1回目

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  • 料理・味-
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¥10,000~¥14,9991人

夏雲の 影を紡いで布を織る」

 知らない道を歩いたりくるまで走ったりするのはすきです。
 でも歩いていてさ、知らない道だからってあっちかな?こっちかな?迷いって楽しいのは夏以外です。
 夏に迷うと血迷います。ただでさえ暑いのに余計に暑くなます。
 今日も、秋田市は初めて来たのでよくわからない。
 道を訊くときの楽しみは、きれいで気立ての良い女性が前から歩いてきたらいいなと率直に思う。
 期待して気持ちがわくわくします。でも、そんなときに限って小学生や老婆ばかりが道の向こうから
 やってくる。訊いてもいないのに「ここさけ」とおいでおいでされて、とか。どこから来なさったねとつき
 合わされる。それで、まちがえた道を教えられ遠回りだったことが分かるとやっぱり腹が立つ。
 今日も暑い。気立ての良い女性もおらんし・・




門構えのりっぱなお店です。
お店へ入ると「いらっしゃいませ」と言われカウンターに案内される。
板場のおやじさんのほぼ真ん前だ。やれやれ。そんな立身出世にならなくともいいんだけどな。
先客が2名いた。常連の若い不動産販売かTV局か、2代目経営者って感じだな。自信満々だ。
その隣の席に着いて手を拭き、最初はビールをもらい、それから日本酒のリストを貰った。
胸張ってやってきたビールをぐいっと飲む。見るとグラスが水滴で曇っている。冷えておいしかった。
「どうだ参ったか」って言われるぐらい美味しかった。
親父さんは仕事着に隙無く白い前掛けをして帯を締めて職人の空気をもっていて、
「何かつまみ作りますか」というので隣と同じ岩ガキを入れて2-3品とお任せで握りをお願いした。
ぼくは冷えた日本酒を飲んで一息ついた。ほどなく皿に盛られた岩ガキが出された。市場で食べたよう
な立派な大きさの岩ガキで、うまそうなジュンサイと何かのっていた(写真がないとどうだったのか、ほと
んど思い出せんわ)。
ジュンサイの食感がすばらしい。
次にウニとマグロとろろだったかな?小松弥助でもでてくるお品が出て、ざっとかき混ぜて頂く。これも
うまい。何がって素材もそうだけどこの組み合わせがいいんだろうなと思う。
気持ちがじぃーんとお寿司への期待で高揚してくる感じだ。

鮨屋に「らしい時間」があるとしたらひとつは、握りの前のこの時間だと思う。
期待に胸がふくらみ鼻もひらく感じだ。
そこからおまかせがはじまる。
鮨をのせる皿を手に取る。皿は人間国宝だった益子の島岡達三。浜田庄司の民芸運動に参加し象嵌
技法で有名だ。2007年88才で死去。手にとって見る。
板場の壁際の棚に島岡作の皿が何種類か積み上げられている。
そこに握った鮨を一個づつちょこんと出してくれる。
出された鮨を眺めてから指でつまみ口へ入れる。ふうん。
鮨屋は、将棋の指し手みたいにお互いが一手づつ交互に無言で指すところがいいと思っている。
スッと鮨を出されたら、皿の鮨の眺め一拍間を置いて手を伸ばし、指で軽く鮨をつまみひょいと手を返し
て口へ放り込む。その間合いというかテンポがすきだ。
つぎの鮨が出されるまでの間、おやじさんの包丁さばきや握りを見ながら、グラスの日本酒で口を湿ら
せ鮨を待つ。何も話もしないのだが、美味しい鮨だとその時間さえも気持ちが騒ぐほどに楽しい。
ぼくは待つのが大嫌いだけど、その間だけはすきだ。

 鮨って酢飯にネタをのっけただけの食べ物だけど、それだけなのに口にいれるとカラダのすみずみま
 で喜んでしまう。こんな小さなモノにどうしてそんなチカラがあるのか分からない。
 炊いたごはんを水分を含ませた寿司桶に空け、合わせ酢をざっとかけしゃもじで切りながらごはんを
 返し、団扇で扇いてごはんを冷まし、また酢をざっとかけてしゃもじでご飯を切り・・ なんどか繰り返す
 ことでてかりのあるおいしい酢飯ができあがる。あの最初のごはんの湯気と合わせ酢で桶から立ち上
 る香りはカラダの隅々まで憶えている。 そういえば子どもの時から、五目とか海苔巻きとかいなりが
 大好きだった。
 今でもぼくは無性に食べたくなって五目いなりをつくる。油揚げをあまからで汁だくで煮上で酢飯を詰
 める。食べるのもおいしいけど作るときの香りや、桶の中のてかてかのかわいいご飯粒や、刻んだ
 大葉を散らすとさっと変わる酢飯の景色とか、胡麻をばっと散らしたときの香りの変化とか、桶の中の
 工程も楽しめ料理。
 きっと日本人のカラダと酢飯と「できてるんじゃないんかい?」ってあやしむ程の深い間柄がありそうだ。
 できたての酢飯をただのりで簡単に挟んだだけでも「たまらん」となってしまう。
 そんなときは、必ずいい具合に冷えた日本酒が横にあって、残ったかんぴょうの切れ端が小皿に盛っ
 ていたり・・ 上機嫌な休日になるのだ。

鮨屋ですきな時間のもうひとつは、玉をつまんだとき。
玉は、お鮨のデザート的な位置にあると思っている。でも、卵焼きだけを切ってだすのじゃなくてちゃんと
酢飯の上にのっかっているやつ。玉に焦げ目があってちょいと厚く切り出されていて口に入れると甘香ばし
い焼けた香りが抜けるのがすき。これが出ると「もう鮨も終盤なんだな」と寂しさと今日頂いた鮨へ哀惜の
念を感じながら感慨深げに「ふむふむ」とひとり振る返ります。

全体で言えばどのネタも鮮度が良かった。
久しぶりに鮮度の良い鮨ネタでお鮨を食べた。もちろん今様にいろいろと細工はされていてる。
それが思いつきではなく、鮨一つ一つの技術がしっかりしているのはすぐに分かる。
何品か塩分が強いものがあったけど、土地のひとの味覚なんだなと思う。
今の鮨は江戸前と言われて鮮度より熟成してうまみを重視し、ツメや塩を振ってすだち等を使ったものが
多いが、ここは熟成が若く鮮度を重視しているように見える。海がすぐ側だからだろうか。富山もそうだった。
塩分だってネタの鮮度だって、地元を相手にしているんだからそれでいいと思う。
いちばん驚いたのはおやじさんの年齢と鮨。年齢から言えば元気のいい鮨だった。
職人としての負けん気がひと一倍強く日々のまじめな精進しなければ握れない鮨だったと思う。
年を取るといろんな感覚も年を取る。ゴルフでむかし1cmの距離が分かったのに年を取ると分からなくなる。
それでも尾崎はゴルフを続け、小松弥助さんは鮨をにぎる。
むかしのじいさんは元気だなと、つくづく感心する。

コースが終わって追加をどうしますかと訊ねられ「この時期の鮑はどうですか」ときくと、うれしそうに「もちろ
んおいしいです」と応えた。最後に追加で鮑とかっぱの巻物をいただいて〆た。
店主と二三世話話をして、お礼を言ってお店を出た。
さっぱりと気持ちの良い鮨屋だった。


 *

 くるまで走り廻って点をつないでゆくことに最近はちょっとつまらなさを感じて来ている。
 いつかバスの旅をしてみたいと思った。
 朝、いなかのバスに乗っていろんな土地の人を見ながら・・ でも、考えてみると既にバスに乗客は少なく
 なっていて特に地方の里山と町をつなぐバスにひとが乗らなくなっていて、みんなくるまで用を足している。
 あっても1日に数本かもしれない。
 ママチャリの旅もよさそうだけど、なんだろ走ることにいっぱいいっぱいで終わりそうだし・・
 結局、歩くのがいちばんなのかもしれないなと思う、このごろ。
 
 昨日まで知らなかったひとと話をしていっしょに笑うのがいいと思っている。
 ささいなことだけど。
 思えば、山歩きっていつもそんな感じだった。
 さっきまで他人だったひとと挨拶して、追いつき追い越されながらいっしょに歩き、山小屋で缶ビールを飲み
 山の日程や天気の情報交換、これまで登った山の話とかした。何日か行動をいっしょにして、下山するとじゃ
 あと言って名前も訊かずちりぢりにバスに乗って帰って行く。
 北アルプスの尾根でテントを張っているときだったけど、親子連れの岩登りがいた。おとうさんと娘で、むすめ
 は小学校の4-5年かな。ぼくも暇だったのでそれを見ていた。縦走派って結局テント張っちゃうと他に酒飲む
 くらいしかないから。痩せた若いお父さんは予想通りに軽快な身のこなしですいすいと岩を登っていって、
 途中でビレーとカタビラで安全確保してから下の娘に登ってくるように言った。その女の子が軽く俊敏だった。
 信じられないほどに。彼に「すごいね」というと、「こどものほうがバランスとかタイミングとかいいんだよね。
 怖さもしらないってこともあるけど」って笑った。その親子とは、キレットで出会って奥穂までずっといっしょに
 歩いてきた。 女の子に「すごいね」というと、ホントに100%の笑顔で笑った。
 剱であった母親と女の子の親子連れも雰囲気がよくて、女の子に「大変じゃないのかな?」と訊くと
 頭を横に振って笑った。楽しくって仕方ないって感じだった。
 母親も「むかしワンゲルだったけど辛いです」と言って微笑した。
 その笑顔をいまでもぼくは忘れない。
 
 初冬にふらっと何度か湯治へ行った。3-4日自炊棟の大部屋でみんなと暮らす。
 東北へ行くと、必ずといっていいほど農家のおじいさんやおばあさんが夫婦だったりひとりだったりで来てい
 る。夕食の時間になると酒を出し合って、それぞれが家から持って来た漬け物とか何やらを出してつまみに
 したりする。
 そんなある日のこと、ご夫婦で来ていたひとから誘われて彼らの家へ呼ばれた。
 きっかけは些細なことで粕漬けをたべて「この漬け物おいしい」と言うとおばあさんが喜んでくれた。家で作っ
 た糸昆布の煮物とか ただ油揚げを煮ただけのものとか。そんな手料理をいただくのは大好きで、ぼくはその
 お返しに焼酎だったり日本酒を多めに用意しておいて、酒をどんどん注いであげる。
 ぼくの自炊した料理でもいいかもしれないけど、やっぱりお年寄りには自分達の毎日たべている食事がいち
 ばんおいしいと思っているものだと思う。だから、いつもぼくはお酒をお礼返しする。 
 そのおばあさんは漬け物を何種類も自分で漬けていて近所のひとへ分けるのだそうだ。
 そうやってイナカの人たちは自分でつくった料理を流通させている。あげたり貰ったり、もらったり上げたり。
 食べ物を貰って腹を立てる人はいない。味がちがうので「アレッ・・マ」ということはあるけど。
 その老夫婦の家へ行ったのはお漬け物をもっと食べたくて。つまり他の種類のって意味だけど。
 さっそくおばあさんが何枚もの皿にそれぞれ漬け物を出してくれて、ひとつひとつ味見する。おじいさんが
 焼酎を出して来たのでそれもいただきながら味見をつづける。小なすの漬け物の色がうつくしい。きゅうりの
 ひねはじめた浅漬けが酒に合う。そうやっていただいた中で一番感動したのは、シャーベット状の漬け物で 
  野沢菜をもっとやさしくした食感でちょっとクセがある山菜。野菜じゃ無くて山菜だそうだ。
 ずいぶん前なので味はおもいだせないけど、「おいしい、おいしい」と言ってそればっかり食べていた。
 無くなるとおばあさんがまた奥へ行って瓶か樽から出してくれる。
 そんな午後を過ごした。夕方息子さんが帰ってきて、ぼくがお礼を言い彼が温泉旅館までくるまで送ってくれ
 た。旅館の前で深々と頭を下げて「ありがとうございました。ご両親にごちそうさまでしたとお伝えください」と
 言うと、彼は率直に笑ってちょこんと頭を下げてUターンして軽トラで帰って行った。
 くるまのヘッドライトが山を下りて行き遠くで見えなくなるまで見ていた。

 旅をしているといろんな人に出会う。
 だから、また知らない場所へ行きたくなる。


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□「夏雲の 影を紡いで 布を織る」


 * ここのお店は写真撮影禁止です。いつも防備録的に写真を撮るのですが、写真がないのでいったい何を
   食べたんでしょ・・ と思うばかりです。この記憶力の無さは自信あります。

 * 色々考えて、評価はしないことにしました。
   単純に、「その程度の鮨」の意味ではありません。評価をするとすれば3.5-4あたりが適当だろうと思います。
   彼の技術と地元の鮨を評価すればもっと評価は高くなります。
   ぼくはきっと地方地方に、地元の鮨があればいいと思っている。
   圧倒的差などない食べ物ですけど、それでもそれを期待している自分がいます。
   だからと言って単に地物を出すだけの鮨屋がいいわけでもなく・・ そんなことは、鮨をまじめにひとつ
   口にすれば分かることです。
   

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(H24.8.20)

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店舗基本情報

店名
たつ福(たつふく)
受賞・選出歴
寿司 百名店 2022 選出店

食べログ 寿司 EAST 百名店 2022 選出店

ジャンル 寿司
予約・
お問い合わせ

018-835-5178

予約可否

予約可

住所

秋田県秋田市手形山崎町10-60

交通手段

秋田駅から861m

営業時間
  • 火・水・木・金・土・日

    • 12:00 - 14:00
    • 18:00 - 22:00
    • 定休日

営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

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