「美食家（うまきものくひつくしたるもの）が終着點（ゆきつくさき）　©味神樣（あぢがみさま）」 : 大羽

久方（ひさかた）ぶり、夜（よる）の銀座（ぎんざ）。
竝木通（なみきどほ）りには、
舶來名牌（なんばんわたりのなだかきしな）、連軒爭甍（のきをつらねいらかをあらそふ）。
就中（わきても）"時辰儀（とけい）"で高名（なだか）きが犇（ひし）めきあふ。

瑞西（スウヰツルランド）"土圭（とけい）"の榮枯盛衰（さかえ・ほろびゆくさま）、
"パテック・フィリップ"、"ロレックス"などを除外（のぞ）くなら、
現今（いま）や、"リシュモン"、"スヲッチ"、"LVNH"など、
巨大資本（おほだな）の軍門（した）に下（くだ）るほか一無方策（てだてなし）。

"ブレゲ"、"オメガ"は"スヲッチ"、"ジャガー・ルクルト"、"IWC"は"リシュモン"、
德國（ドイツ）"ランゲ・ウント・ゼーネ"も"リシュモン"、と云ふ慘狀（ありさま）。
"自社一貫製造（マニュファクチュール）"からして、
"パテック・フィリップ"、"ロレックス"、"ジャガー・ルクルト"など纔（わづ）か。

否（いな）！
それより深刻（ふかくなげかはしき）は、
かゝる高級舶來品（なんばんわたりのねのはるしな）や高額鮓店（ばかたかねのすしや）、
跳梁跋扈（わがものがほにのさばり、あらかせぎしま）くる事實（こと）。

その背景（そびら）にあるは、
この十年來（とゝせほどまへより）の財政金融政策（おかみによるぜにのつかひかた）。
貧富（とめるものとまづしきもの）への兩極分化（なきわかれ）は、
權力中樞（おかみ）にすら、これを危惧（あやぶ）む者（もの）出現（あらはる）ゝほど。

「社會（うきよ）の"數字化（ディジタルくわ）"が進行（すゝむ）に随伴（ともな）ひ、
　高級舶來品（なんばんわたりのねのはるしな）や高額鮓店（ばかたかきすしや）どころか、
　東瀛（ひのもと）の財貨（たから）が、"GAFAM"に吸引（すひつくさ）れてしまふ。」
と警鐘（はやがね）打鳴（うちな）らす賢者（かしこきひと）も、、。

菟（と）にも角（かく）にも、
銀座（ぎんざ）は扶桑（あきつしま）の象徴（しるし）であり、
現社會（うつしよ）の"光（ひかり）"と"闇（やみ）"、ともに映（うつ）す鏡（かゞみ）。
その一角（ひとすみ）に當家（こちら）『大羽』は存在（あり）。

肆内（なか）には一癖（ひとくせ）二癖（ふたくせ）ありげな"主人（あるじ）"。
昭和二十二丁亥歳（せうわにじふにひのとゐどし、=1947）、
信州伊那（しなのゝくにいな）に生（むまれ）、
『中嶋』の廚藝（わざ）を繼承（うけつ）ぐ親方（おやかた）に師事（ならひし）とか。

その後（のち）、京師（みやこ）にて研鑽（うでをみが）き、
銀座（ぎんざ）にて創業（あきなひをはじむ）。
傍（かたは）らにて能（よく）彼（かれ）を鋪佐（たす）くるは"御内儀（おかみ）"。
正鵠（まさ）に、「夫唱婦隨（ふしやうふずい）」、「比翼連理（ひよくれんり）」。

最上（いとよ）き"酒肆（さけのますいちくら）"、"割烹料理店（きりさきにたてのみせ）"。
同席（ちかくにおは）す"味神樣（あぢがみさま）"の辭（ことば）を借用（か）るなら、
「美食家（うまきものくひつくしたるもの）が終着點（ゆきつくさき）。」
なるほど、的確無比（いひえてたへなり）。

"菜譜（こんだて）"は廚房（くりや）なる"亭主（あるじ）"の背後（そびら）。
【胾（さしみ）】、【煮物（にもの）】、【燒物（やきもの）】、【揚物（あげもの）】、
【醋醃（すのもの）】、、なる流（なが）れなるべし。
その他（ほか）には〆として【飯（めし）】の等類（たぐひ）などなど。

劈頭（いやさき）に【先附（さきづけ）】。
"菽（えだまめ）"に"金平牛蒡（きんぴらうまふゞき）"、"鯡子（かずのこ）"。
何（いづ）れ不劣（おとらぬ）逸品（すぐれもの）なれど、
就中（わきても）、"金平牛蒡（きんぴらきたきす）"に颳目（まなこけづら）る。

豫（あらかじ）め"蒟蒻絲（しらたき）"を"乾煎（からいり）"し、
食感（はごたへ・したざはり）を高（たか）め、
"牛蒡（うまふゞき）"、"胡蘿蔔（せりにんじん）"、"巨勝（ごま）"に合（あ）はす。
不濃不淡（こからずうすきにすぎ）ぬ"調劑（あぢつけ）"も適切（ほどよし）。

【胾（さしみ）】として、
"甲烏賊（すみいか）"、"鯖（まさば）"、"小鰶（こはだ）"を選擇（えらむ）。
三種（みくさ）が三種（みくさ）、揃（そろ）ひも揃（そろ）ひて最上級（いとよきしな）。
仕入先（しいれさき）は有名鮓店（なのあるすしや）と同一（おな）じ仲卸（なかおろし）。

"醋醃（すじめ）"の程度（ほど）を吟味（み）るに、
强（つよ）きに過（す）ぎず、さりとて、葷（なまぐさ）ゝの皆無（かけらもなし）。
"小鰶（このしろのわかうを）"など、『小笹壽し』の"それ"を髣髴（おもはす）。
"山蓼（わさび）"を頻繁（こまめ）に擂（おろ）すも吉（よき）。

【煮物（にもの）】の"星鳗腐皮捲（はかりめのうばまき）"にも絶句（ことばをうしなふ）。
"鹹（しほけ）"、"甜（あまみ）"、"旨味（うまみ）"、
"溏油（だし）"に"星鳗（はかりめ）"と"豆腐皮（とうふのうば）"が協調（あはさり）、
寔（まこと）に華美（よきあぢ）。

扨（さて）、【燒物（やきもの）】：
"狹眞魚（さまうを）"需（もと）め、霎時（しばし）完成（やきあがり）を俟（ま）つ。
軈而（やがて）、眼前（めのまへ）に"註文品（くだんのしな）"。
時季（とき）を外（はず）した所爲歟（せゐか）?、半點（いさゝか）痩身（やせぎす）。

加旃（しかのみならず）、
"膓（はらわた）"が除去（ぬきさ）られ、慘憺（なげかはし）き光景（ありさま）に、、。
愚按（やつがれおもふに）、
かゝるもの、『星乃』の"それ"の如（ごと）き素朴（そぼく）なるものが吉（よい）。

【揚物（あげもの）】として、"鴨脚子（ぎんなん）"＋"油炸竹筴魚（あぢフライ）"。
何（なん）の因果（いんぐわ、まへのよからつらなるさけがたきつながり）歟（か）?
『星乃』でも、"鴨脚子（ぎんなん）"＋"油炸鮮蠔（かきフライ）"。
而（しか）も、食後（めしのあと）には"葡萄實（えびかづらのみ）"まで。

掉尾（いやはて）に築地（つきぢ）『角山』の"麩饅頭（ふまんぢう）"。
これが亦（また）、眞言（まこと）に鮮美（よきあぢ）。
塲所（ところ）が塲所（ところ）故（ゆゑ）、居酒屋（のみや）より高價（たかね）なれど、
適正價格（ほどよきねづけ）なるべし。

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【暗匣】：富士膠片（Fujifilm）X-T4 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡珠】：銘匠光學 TTArtisan 1.4/35 @F1.8～F4
　　　　　Voigtlaender Ultra Wide-Heliar 5.6/12 Asph. VM III @F8～F11
　　　　　安徽長庚光學（Venus Optics）老蛙（LAOWA）2.8/9 ZERO-D @F8