2回
2023/09 訪問
料理に現れるシェフの人柄が素敵
上陸前に力尽きた感のある台風とともに、夏も過ぎにけらし、な、ちょっとだけ涼しくなった夜。おかげで予約を飛ばすことなく来ることができて幸い。
このお店は、〈東京最高のレストラン〉で、比較できるのは〈赤坂璃宮〉だけでは、なんていう最高レベルに近い賛辞を得ていて、夏の中華料理探究の区切りに選んだ。
<いただいたもの>
①鴻禧XO醤
②クラゲの冷菜
③松坂豚のチャーシュー
④キヌガサダケとアミガサダケのスープ
⑤松茸の春巻
⑥ホタテの黄にら炒め
⑦クリスピーチキン
⑧本日の野菜
⑨ハムユイ炒飯
⑩海老ワンタンメン
⑪マンゴーのデザート
⑫エッグタルト
⑬台湾森林紅茶
+ペアリング(①Champagne, Drappier, Brut Nature, Pinot Noir- Zero Dosage ②凍年紹興貴酒陳年十年 ③グレイス甲州鳥居平畑2021 ④石庫門 ⑤Bourgogne, Olivier Leflaive, Puligny-Montrachet, 2020 ⑥Rohne, Guigal, Chateau-Neuf du Pape, ヴィンテージ忘れ ⑦Sonoma Coast, Flowers, 2019 )
前菜から最後の〆まで9品、酒のアテ、あるいは味変調味料として最初に出される〈XO醤〉まで含めれば10品。デザート2品に紅茶。飲み物は8,000円のペアリング。サービス料込で仕上がりは28,000円弱。
この価格帯になると、中華料理であっても変にお澄ましした感じになることがあるが、このお店はサービス精神旺盛で、分量もしっかり。この店の看板料理の一つ、クリスピーチキンに至っては(お客さんが少なかったこともあるけど)余った部分をどんどん出してくれる。ペアリングも「4, 5杯と書いてありますが、紹興酒を途中に挟むのでもっと出してます」(確かにドリンクのリストにはそう書いてある)と。実際、7杯頂いたのだが、値付け、間違ってないかと心配になる(いい意味で)。
目の前で鶏を吊るしながら油をかけて豪快に揚げていくクリスピーチキンもさることながら、来る時間を見計らって焼き上げるチャーシュー、本物の上湯ってこういうものなのかと感動すらあるじんわりした旨さを湛えた〈キヌガサダケとアミガサダケのスープ〉はいずれも有無を言わさない完成した料理。大体、XO醤の時点でただならないのに、そこから最後の海老ワンタンメンまで、「こんなに美味しい○○は初めてだ」と喝采したくなる料理が続く。海老ワンタンメンなんて、香港で愛されているとは聞くけれど、初めて本当の意味で美味しいと思った。
スタッフからも「トミーさん」と親しまれるシェフの飾らない人柄そのものの、ゴテゴテしない感じがいいなぁ。人柄も柔和で面白くて、料理をするのが好き・料理でお客さんを楽しませるのが好き、というのが凄く伝わって来る。
ペアリングもよく練られている。中でもチャーシューと紹興酒、クリスピーチキンにシャトーヌフデュパプは、組み合わせの意外性と実際に合わせた時の化け方も驚きで、シェフの料理に対するソムリエの真摯な姿勢が窺えるというもの。
〈茶禅華〉や〈一平飯店〉(どちらも大好きなお店だ)の料理人やスタッフもお越しになったことがあるようで、「皆さん偵察に来られるんですね」と水を向けたところ、香港人のトミーさんがどういう料理を作るのか、日本人とは考え方が違うのでそれを体感しに来られるみたいです、とのこと。うむ、一流どころのシェフが学びに来る店か。
この夏、色んな中華料理屋に行ったけど、ここはトップだな。行きたいところが増えて来たけれど、どうにか年内もう一回くらい試してみようか。
2023/09/10 更新
今年、夏ごろに都内の中華料理店をやたら開拓して回った時、他を大きく引き離してトップに君臨してしまったお店。ここを訪れる直前に幾つか行った店の中にはかなり美味しかった店が幾つかあったのだが、その直後にこちらに訪れてしまったために印象が彼方に飛んでしまった。
ここもまた、年内に再訪したいと予定を突っ込んだ。
豪快に大人数向けに作ったものを取り分けるショウアップの仕方といい、やっぱり楽しそうに調理するトミーさんの料理を見られるカウンタースタイルといい、そして出来上がる本物の香港料理の明事さといい、ここは東京屈指と確認。
挙句、8,000円(税サ別)という値付けのおかしいペアリングコースもコスパが抜群。ワインや老酒、紹興酒も取り混ぜながらで、それほど高いお酒ばかりを出すわけではないけれど、セレクションは完璧。中華料理はこれでいいと思う。
私は「ガチ中華」って言葉が嫌いなのだが、香港出身の料理人が作る香港料理って意味ではこのお店は「ガチ中華」代表だよな…。
①XO醤
②酔っ払いあん肝
③松坂豚のチャーシュー
④フカヒレと鹿のスジのスープ
⑤伊勢海老の炒めもの(海老味噌のソース)
⑥クリスピーチキン
⑦野菜の炒め物
⑧ポルチーニ茸のチャーハン…に鮑を仕込む際に出るスープを含ませたリゾット仕立てのチャーハン
⑨海老ワンタンメン
⑩燕の巣を使ったデザート
⑪エッグタルト(茶菓子)
細かいことは書かないけど、相変わらずペアリングも見事。特にクリスピーチキンに合わせたジゴンタス。前回はシャトーヌフデュパプだった。トミーさんの作るクリスピーチキンの味が濃いから成立する組み合わせ。こういう、シェフの作り出す料理に最大限の敬意が払われて総てが構成されているというのがこの店の心地のよさをなしている気がする。
料理単位では、豪快に蒸した伊勢海老をばらして殻ごと炒めてダシで炊き、炒めあげた⑤、アワビのダシを含んだポルチーニ茸・鶏肉を具材にしたリゾット・チャーハン⑨あたりは、美食の都であった香港の食文化の豊かさを感じる品。濃厚な旨味とわかりやすさ、奥深さが同居する。
最後に一人一人に挨拶に来られたトミーさんと軽く話した時、かくかくしかじかで、チャーシューが楽しみで来てまして、なんて言ったら、予約の時に言ってくれたら量増やすよ的な耳打ちまでしてもらった。値段そのものは決して低くはないんだけど、随所に来てもらった人に最大限満足してもらおうという精神があるのがこのお店の魅力。
虎ノ門と新橋の間、材木剥き出しの町工場?みたいなものも近くにあるような、なんでこんなところに店を出そうと思ったのかはわからないが、再開発が放置されてきた場所で店を出しているのも、何だか趣深い。
ここもまた、来年もまた、お世話になりますね、というお店。