『判官贔屓の条件』
高知県花園予選の決勝
階段はあとひとつだが遥かに遠い聖地への道のり。
淡い期待を胸に臨んだ高知工業ラグビー部の今シーズンは春野の芝生の上で終わりを迎えた。
99対7
善戦とは決して言えない結果にも高校ラグビーの良さは散りばめられる。
率いるのは飯田監督
選手時代は地方のクラブレベルでもあまり目立つ存在ではなかった。
しかし間違いなくラグビー好き。
そして実直、誠実の男
虚飾、虚栄とは無縁の人柄でチーム内外からの信頼も厚かった。
監督経験のない彼が数年前から率いた高知工業ラグビー部は彼の人柄そのままのチームになっていた。
部員は全員が高校入学から用意ドンで始めたラグビー経験のない雑草集団。
接点にフォーカスを当てたチーム作りは昨年同様。
経験者が多く個の力に勝る土佐塾高校を相手に序盤から苦戦を強いられる。
延々と続く土佐塾の連続攻撃。
差し込まれても
左右に振られても
愚直なまでに繰り返す高知工業の果敢なタックルは試合終了のホイッスルを聞くまで止まることはなかった。
身体が届かなければ腕を
腕が届かない時には指先だけでもの
気持ちが伝わるディフェンスは勝ち負け以外のラグビーの美徳を飯田監督が子供達に伝えてきた成果だろう。
その大敗の中でたった一度だけ流れを掴み赤白黒のジャージが躍動した時間帯がある。
その時も一発のサインプレーなんかには目もくれず、近場近場にボールを運び不器用とも思える攻撃スタイルを貫いた。
愚直にゴリゴリと骨をきしませながら少しづつ少しづつ前進を計る。
子供達は自分達のやってきた事を、監督の教えを信じて疑わない。
そして相手のミスではなく自分達の力で見事に泥くさくゴールラインを超える。
トライの向こうに透けて見える彼らの1年間の努力。
ゼロから作り上げた高知工業ラグビー部員としての誇りと熱量。
想像に難くない先生と生徒の楕円にかけた情熱の日々。
少年ラグビーのコーチとして考えさせられる瞬間だった。
私は教え子の応援に来たはずなのに
土佐塾高校の応援席で
いつの間にか高知工業側からゲームを見ていた。
日本人は判官贔屓が大好きだ。
しかし決して弱いチームの全てを応援したくなる訳ではない。
そこには弱いながらも
ひたむきさや気概やフェアネスのエッセンスがあって初めて判官贔屓の条件は整う。
高知工業ラグビー部
強いチームと呼ぶには語弊があるが
今年も判官贔屓をしたくなる
いいチームだった。