2回
2012/07 訪問
伝統に裏打ちされたサービスの質の高さ。素晴らしい安心感。
種々、海外の有名なホテルグループが競い合う様に東京に進出してきて暫くになるが、だからと言って、日本を代表する老舗の名門ホテルである帝国ホテルが、そうした外資系の一流ホテルと比べて見劣りがするかと言えば、まるでそんなことはない。むしろ、だからこそ、こうした長い歴史を持つ日本のランドマークとも言えるホテルが却って引き立つのだろうし、事実、その内容は些かも褪せることはないだろう。
フランク・ロイド・ライトが途中までとは言え、手掛けた旧帝国ホテルの頃からの歴史に培われたサービスは、伝説のランドリーサービスを始め、一切抜かりなく、今に継承されているのだと聞くし、今回の食事で意を得た感がある。
今回が初めての利用である。以前、夏季に上高地帝国ホテルに宿泊したことがあるが、ここは初めてである。まあ、家から15分ほどで行ける距離にあるので、宿泊での利用は、当面ないだろうが、今回は嫁さんの誕生日を祝うために利用した。誕生日そのものは、平日だったので、その前の日曜日にランチを食べに行ったのである。
利用して始めて判ったが、ここのホテルのサービスというのは、きちんと客の立場にたって、余り、過度にならず自然体であるのがいい。それでいて、サービスの本質をきちんとつかんでいる。そんな感じである。入店後に事前に誕生日での利用を告げていたこともあるが、いきなり二人での写真を撮ってくれたのは、些か恥ずかしいが、着席後、すぐに、シェフが「今日の料理を努めさせて頂きます○○」ですと挨拶に来たのもそうだし、シャンパンを注ぐ給仕他、スタッフが皆、肩に力が入らず優しいサービスを提供してくれるので、非常に安心出来るのである。
料理は、10,500円のコースを頼んでおいた。飲み物は当然にシャンパンである。今回頼んだのは、「アンリオ」のブラン・ド・ブランである。祝い事なのでシャンパンがそれに相応しい。
料理の内容は、メニューにある以外に、アミューズが二種供される。一種はチーズを揚げたもの。もうう一つはムースだが、四葉のクローバーが添えてある。家に持ち帰り押し花の様にしようかと思ったが、給仕係が、これも御食べになれますとにこやかに言うので、一緒に食べた。共にスターターとして非常にいい。
こうして、いよいよ佳境に入ってくのだが、先ず、前菜は、二種から「オマール海老とリ・ドゥ・ヴォーのラヴィオリとジロル茸」を選択。フレンチにラヴィオリは珍しいのかなと思ったが、この中に海と野ががっちりと手を組んだかたちで凝縮。ソースは些か辛味が強いが甲殻類のソ-スで、アメリケーヌソースを思わせる様なものである。
二品目は、頼む際に「二品、海老が続くのはおかしいかな?」と尋ねたところ、これ亦、給仕が「そんなことはございません。海老がお好きであれば」と笑みを浮かべながら答えたので、「ラングスティーヌのロティと胡麻バター ロケットのジュ」である。僕はフレンチを食べる際には出来るだけ、普段口に入らない素材のものを頼む傾向があるが、これも、早々、口に入らないラングスティーヌである。ブリっとした海老に濃厚且つ風味のある胡麻バター。これがくどくならない様に整えているのが、ロケットのジュである。いやはや、これに、ニクイのがここで胡麻入りのパンを供するのだな。笑みがこぼれるわい。
そして、肉料理は、「特製和牛とインカの目覚めの熟成コンテチーズ風味 野菜のローストとビーフのジュ」である。肉の旨さは言うまでも無いが、インカの目覚めとチーズを交互に層にした、この付け合わせが食感の妙と、肉との相性がよく、完成度が非常に高いのである。
この後、小菓子が6つも出て、そうしてデザート。これは、3種より「パルフェグラッセとビスキュイ・ローズ・ドゥ・ランス 桃と紅い果実添え」にした。供された後に、ロゼシャンパンをかける大人のデザートで、暑くなってきたこの時期にこの涼感が誠に宜しい。
もうこれで、コーヒーを飲んで終わりかなと思いきや、更にチョコレートが出され、加えて誕生日だからということで、苺のショートケーキである。驚きである。
全体的な感想としては、決して気を衒ったり、視覚的に驚かせる様なものではなく、正統派でありながらも、決して古臭くなく、客に感動を与える料理であり、最初から最後で、軸が振れずに芯が通ったものである。
サービスの質の高さもあって、存分に味わったし、楽しめた。嫁さんも美味しかったと喜んでいた様子なので、こちらも選んだ甲斐があったというもの。シャンパンのエチケットを帰り際にもらったところ、亦、驚いた。なんとホルダーに、作り手の詳細がきちんと書いてあるのだ。あっぱれである。
益々のご発展を祈るものである。
2012/09/30 更新
中国の清明節を利用して帰った際の外食。蘇州にもフレンチはあるのだろうけど一人で利用することは無いし、客先との会食でもまず想像できない。
日本に帰って美味いフレンチが食べたいと思い、あれこれ調べ思案した後、久し振りに帝国ホテルのこのメインダイニングの一つである伝統のフレンチレストランを選択。外れがまず無いだろうという思いからである。一流ホテルのそれとは雖もジャケットさえ着用して、ずんだれた格好で無ければ問題が無く、窮屈さを感じることもなく、心地良い緊張と期待を感じながら料理を楽しめる素敵な空間である。偶々訪問日が自分の誕生日だったが、意図してそれを狙ったものでは無い。短い滞在のスケジュールの中でどうしてもこの日の昼しか叶わなかったということである。なので、店にもその由は伝えていなかった。家人の誕生日の場合は、当然にそれを伝えるが。
この日は、8,800円の良心的な、4 PLATE LUNCHのコースを頼んだ。
◆ アミューズブシェ
◆ 前菜:桜の葉を包み込んだラヴィオリ ラングスティーヌと筍 春の香り
◆ 魚料理:毛蟹のクネルと菜の花畑
◆ 肉料理:豚足をクレビネットで包んでトリュフオイルを香らせたセロリクリーム
◆ デザート: グリオットを添えたパルフェグラッセ レモン味のジュレとフロマージュブランのソルベ
これに、小菓子、コーヒーに更にチョコレートである。
充分な量。昼間からの酒は直ぐに眠くなるので、ワインは白と赤をBy Glassで頼んだのみ。
前菜からメインは全て幾つかの中からの選択なのだが、こうしてみると、フレンチなのだが、日本の「旬」がきちんと取り入れらており、日本の花鳥風月、四季を最近素晴らしいものだと思う様になってきたので、極めてありがたい。流石に、中国で日本の四季を味わうということは先ず無理であるし、あったとしても亜流と迄は言わないが申し訳程度で、そこには何か無理を強いている感じもある。昨年度の四月はバングラデシュで桜を愛でることも叶わないかったが、今回は、満開でないものの堪能もした。実にありがたいこと。
肉料理の豚足は、豚足と聞いて思い出すのが沖縄料理。でも、そういう想像を見越した上で、給仕が「足そのものの形をした様な肉肉しいものではなく・・・・」と丁寧に説明をしてくれたので、珍しいと思いそれを選んだのが、極めて優しい味付けで「春」を想起させる様であった。料理の主材は海老に蟹に豚。充分である。
デザートは何だか舌を噛みそうな長い名前だが、爽やかな酸味が口中をさっぱりさせてくれる一品であった。色合いもどこか春めいた感じが無いでもない。
当然にサービス料が付くので、〆て26,000円少し。まあ、こんなものだ。一流ホテルでのランチである。ワインの最近の相場は知らぬが、20年度程前に種々凝って、飲む度にエチケットを剥がして保存していた頃に比すと、明らかに高くなっているという気がするが、ここでのグラスワインも、安くて一杯2,000円程。それなりにするのだな。
以前に利用してから相当に経過しているが、伝統的な正統を守りながら、過度に凝りすぎもせず、真面目な取り組みが感じられるフレンチだった。